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第49話 思わぬ反響

 映画の最後。

 エンドロールが流れる中、NG集が流れるように。

 実際のところ、上手く完成させた作品の背後には、数えきれないほどの失敗が隠れている。

 一流のプロが集まるような映画撮影でも、そのようなことが起こるのだ。ならば当然、素人が初めて動画撮影をしようと考えれば――しかも、『それなりの質』を求めた動画を撮影しようと行動したのならば、相応の失敗が積み上がることになる。

 つまり、文芸部が作り上げた『マヨイガ』という動画の撮影中にも、しばらく話のネタに困らない程度には失敗談が生み出されたのだった。




「あれ? 龍宮寺後輩。あのよぉ、動画撮影してみたんだけど…………こう、全体的に暗い感じがしないか? こう、演出的な意味での暗さじゃなくて、駄目な方な暗さ」

「多分、照明関係の技術が関係しているのだと思います、瑠璃川先輩。とはいえ、私たちにそんな設備はないので、上手く誤魔化していきましょう!」

「凄い良い笑顔で誤魔化し宣言している……」

「ふふふっ、素人の動画撮影ですよ? 必要なのは技術ではありません! 誤魔化しです、誤魔化し! それっぽく見えたら十分ですって!」


 まず、最初の躓きは動画撮影の思わぬ難易度だった。

 昨今は専門の機材を遣わずとも、スマホだけである程度の撮影から編集まで行える。ひと昔前からは考えられないほどの利便性だろう。

 しかし、それはあくまでも最低限のレベルが引き上げられたに過ぎない。

 最低限よりも上の質を求めるのならば当然、それなりの技術は必要である。

 当然、文芸部の面子にはそんな技術の持ち主は存在しない。故に、技術ではなく、小賢しくあろうとも『誤魔化し』でそれっぽく見せることに注力することになった。



「悠木先輩。長い、長いです。多分、動画時間が三十分越えますよ、この台本」

「んうぅうぇえええ!?」

「寝ぼけた羊みたいな鳴き声を発しても駄目です。ほら、一緒に頑張りましょう? 今日の内になんとか終わらせましょう? というか、終わらせないと織畑先輩がブチ切れてしまいますって」

「霧崎君、難しい! 動画の脚本って、小説とは別ベクトルに難しいよぉ!」

「そこはこう……いっそのこと、ノベルゲームのスクリプトも込みで考える気分で」

「―――あっ! そっか! そういう感じでもいいのか!」


 次に、動画内のストーリー、つまりは脚本である。

 瑞葉は物語を書き上げることに、一定以上の才覚と技術を持つ学生である。短編という縛りがあったとしても、納期までに書き上げることは不可能ではない。むしろ、部活の時間が使えるのであれば、余裕と感じるぐらいの時間的猶予はあった。

 ただ、餅は餅屋という言葉があるように、動画の脚本と短編小説は色々と違う。更に、『実現可能な演出』の縛りも考えるのであれば、物語の舞台、登場人物の服装、その動きなどにも注意しなければならない。

 思い悩む瑞葉へ、理央が『ノベルゲームの要領でやってみてはどうか?』とブレイクスルーを与えなければ、脚本が出来上がるのはさらに遅れたかもしれない。



「撮影場所はアタシの家……の離れを使うぜ! うちの婆さんが泊まりに来るときに使う場所なんだか、きちんと許可を貰っているから安心して使ってくれ!」

「…………皆ぁ! 絶対に、離れを傷つけないように使おう!!」

「いや、最初からそのつもりだけれども……理央、やたらと過剰反応してないかしら?」

「りっちゃんの家は、相当なお金持ちだから緊張しているのかな?」

「…………瑠璃川八千代が所有する物件と考えれば、その委縮も当然」


 そして、撮影場所への配慮。

 文芸部の面々は概ね気遣いの出来る者ばかりなので、幸いなことに問題は起こらなかったが、事情を知っている六花と理央の精神はずっと削られ続けていた。

 八千代は狭量な人間ではないが、それはそれとして子供たちが『おいた』をしたのならば、子供のためにこそしっかりと叱る人間である。

 最悪、動画撮影後に揃って説教を受ける可能性もあるので、事情を知る二人が必死にトラブル回避のための予防を重ねたのだった。



「お姉様ぁ! お手伝いに来たのです!」

「わぷっ! あ、ありがとうね、夏夜音ちゃん」

「んんんーっ! お姉様の振袖姿素敵ぃ! うにぃー、むひゅー!」

「……我慢……我慢するのよ、私……小学生……しかも、あんな良い子に嫉妬するなんて人として最低……」

「私の妹がごめんね、部長。でも、これで雑用の仕事は大分楽に…………悠木先輩? 何やら不穏な目をしているように見えるけど?」

「あの跳躍力……無邪気な振る舞い……人間離れした動き…………閃いたぁ!」


 加えて、当然ながら素人の撮影スケジュールが予定通りに進むことなんて無い。

 作業の遅れや、予定外のトラブルもあるが、性質が悪いのが突然の閃き。しかも、脚本の一部が変更されるほどの閃きである。文芸部一同が満場一致で『こっちの方が良い』と感じる変更内容だったため、文句も言えずに役者が一人追加されることになったのだ。

 そう、狐面を被った謎の童女役として、夏夜音は土壇場でスカウトされたのである。

 幸いなことがあったとすれば、大体なんでもできる超人の夏夜音は演技を習得するのも早く、さほどリテイク数がかからなかったことか。



「えー、『知り合いの映画監督にアドバイスを貰ってくる』と言い残した凪咲ですが、面倒なトラブルに巻き込まれて三日ほど戻って来られないそうです。学校には仮病を使って対応するようなので、皆さん覚悟を決めて残りの作業を進めましょう」

「「「うわぁあああああああ!!?」」」


 その他、様々なトラブルが文芸部に襲い掛かった。

 このように、突如として部員の一人が来られなくなるのは序の口。動画撮影中、お忍びでこっそりと八千代が様子を見に来た結果、思わぬ共演を果たすことになったり、明らかに演出ではない謎の心霊現象が動画内に収められたりなど、一つ一つを挙げていけばキリがないほど。

 けれども、どのようなトラブルも最後に待ち受けている難関に比べれば屁でもない。



「…………なんとか映画監督が関わった事件を解決して来たけれども。その対価として教えて来た撮影の秘訣は全て、『納得いかないのなら、納得いくまでやり直せ』みたいな精神論だった件」

「つまり、凪咲。僕たちがこの編集地獄から抜け出すためには?」

「一つ一つ、コツコツと片付けていくしかない」

「そっかぁ」


 動画編集。

 恐らくは、動画投稿を目指すものの大半を削ぎ落すのが、この作業となるだろう。

 インターネットで分かりやすい解説を探してもなお、わからない。正常に動くはずの演出が動かない。途中で流れる映像が止まる。そもそもエンコードって何? など、動画編集作業は素人にとって苦行に近いものだ。

 しかし、動画の質を上げるために重要な作業であることも事実。

 従って、文芸部の面々は顔を合わせて頭を悩ませて、散々に失敗を繰り返しながら、辛うじて動画を投稿するまで至ることができたのだった。


「…………六花先輩。二人でやらなくてよかったですね?」

「ああ、二人でこの作業をやろうとしていたかと思うとぞっとするぜ」


 なお、過酷な撮影から編集までの作業の中、理央と六花の二人は、自分たちの見積もりの甘さを否が応でも思い知ったという。



●●●



 当然ではあるが、今時、何の導線も無しにぽんと動画を出して、そこから一気に反響を得るのは困難だ。ほとんど運任せであると言っても過言では無い。

 今や、誰でも動画を撮影できる時代。

 無料の動画編集ソフトや、フリー素材なども世の中には溢れている。

 従って当然、大手の動画投稿サイトには今日も数えきれないほどの動画が投稿されているだろう。故に、たった一つの動画がその中から反響を得ることは困難だ。まず、ほとんど誰にも見つからずに再生数が二桁に達することも無いということも十分にあり得る。

 誰かに評価されたいのであれば、相応の準備や外部との協力が必要となるのが、今の時代の通説だ。


 ただ、文芸部一同としては、あくまでも『マヨイガ』という作品は習作に過ぎない。

 評価されれば嬉しいが、わざわざ多大な労力をかけて拡散させるほどの思い入れはない。理央と六花もまた、二人だけでは動画の続きを作るのも難しいということで、動画投稿者としての活動はほぼ断念――というよりは、保留しているような状態である。そこまで人気を取りに行くような必然性は存在しない。存在はしない……のだが、それはそれとして、やはり再生数が二桁にも到達しないような結末になったら悲しい。せめて二桁。できれば、三桁ぐらいの再生数があれば、過酷な動画撮影も良い記憶として未来に持っていける。


「じゃあ、私がTRPGの参加者として使っているSNSで宣伝して置く程度でちょうどいいかもしれない。業界の中で私はさほど有名ではないけれども、知り合いぐらいは見てくれるはず」


 そんな葛藤の末に選ばれたのは、凪咲が持つSNSのアカウントによる宣伝である。

 しかし、宣伝とは言っても一度だけ軽く『学校の友達と一緒に作りました』と紹介するだけ。仲間内で多少は話題になるかもしれないが、世間どころか狭い業界内すら騒がせることにはならない。

 そのように思っていたのだ。

 文芸部の誰もが。

 凪咲本人でさえも。

 ここ最近、文芸部で平和な日常系を過ごしているからこそ、ついつい自分自身の『波乱万丈の運勢』を忘れてしまっていたのかもしれない。



【いいね! 実写風のリプレイだ!】

【振袖袴は健康に良い。視力が良くなる】

【というか、この子男子? 女装男子? それとも女子が最後に男装してたの?】

【喉仏が見えたから多分男子】

【首筋がエッチ】


 最初は黄昏探検隊というTRPGを嗜む、プレイヤーたちの間で。


【カメラワークは素人臭いけど、役者の質は良いな】

【この撮影所どこだろ? 私も使いたい】

【つーか、この怪しい童女、人間離れした動きをしなかった?】

【合成だろ?】

【こんな自然に合成が出来るような腕なら、もうちょっと編集頑張れるだろ】

【この女装男子、妙に色気があるな……】


 次は、TRPGの実写風の動画ということで、TRPGを嗜む者たちの間で。


【これが噂の女装男子動画か】

【レベルたけぇ。肌の質が凄いわ。この距離で肌を撮らせるとか自信の塊じゃん】

【この童女、明らかに身体能力がずば抜けてねぇか?】

【アスリートの中に、それっぽい子っていたっけ?】


 次第に、動画内の奇妙な点や、理央が積み重ねて来た肌の美しさ――あるいは、画面越しでも伝わる妙な色気。動画撮影と編集に誰もが思考が死んでいたため、明里が本人も無意識で、理央の色気マシマシの構図で流されることになった内容が、軽く評判になったのである。

 それは一週間、あるいは数日経てば、風化する程度の評判に過ぎなかったが、再生数を稼ぐのには十分過ぎる勢いとなった。

 やがて、最終的にその勢いが収まる頃には、動画再生数が四万回を超えることになって。



「…………なぁ、理央後輩。後一回ぐらい、頑張ってみるか?」

「ええと、まぁ、はい。文芸部の皆が手伝ってくれるなら」



 あれほど、『もう二度と動画を作らない!』などと叫んでいた文芸部一同は、もう一回ぐらいは動画を投稿してもいいかな? という気分になっていた。

 かくして、文芸部の動画撮影活動は、夏休みまで入り込むことになったのである。

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