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怪談:むし

虫は陰の気を好む。


私の部屋には、時々虫がやってくる。

掃除しても、整頓しても、

何かしらの虫がいる。

家が古いわけでなく、狭いわけでもない。

ただ、いつも虫がいる。


「虫は陰の気を好む」

じいさまが言ってた。

陰気な部屋にならないように、私もがんばった。

けれどいつも何かしらの虫がいて、

私はそれを追い出すはめになる。


机に向かって何かをしていると、

ノートに蜘蛛がいる。

そんなのが当たり前になった。

ダンゴムシなんかはもう、ほっといている。

ぞわぞわするほどいるわけでないが、

追い出していたらキリがない。

ハエやカはちょっと困るが、

どうも私に害をなすわけではないらしい。

羽音がうるさいなぁとは思う。


私は次第に、虫たちのいる部屋に慣れてきた。

次第に芋虫や毛虫、蛾なんかも増えた。

何でこんなに集まるんだろうなと私は思うが、

私の中で何かが「今は考えるな」と言っている。

そういうものなのだろうと私は納得する。

私の中で、何かが笑った気がした。

疑問が疑問でなくなると、それなりに心が落ち着く。


虫のいる部屋。

私はそこで日常を過ごす。

いつしかどこを見ても虫がいるようになった。

虫のいない空間がさびしく感じられ、

外にいても虫を探すようになった。


ある夜。

私が寝ていると、

虫たちの羽音が、うごめく音が、

意味を持って聞こえるようになった。

曰く、

「むしぬしさま。むしぬしさま」

むしぬしとはなんだろう。

漢字にして「虫主」だろうか。

私は考える。

私の中で何かが、肯定をした。

ああよかった、合ってたんだと私は思う。

「むしぬしさま」

「むしぬしさま」

私がむしぬしなのか?

だから虫が寄ってきていたのか?

しあわせなものだな。

私の中で何かが言った。

だから、わたしはここにいる。

私の中で何かが言った。


「君はとてもおいしかった。ごちそうさま」


私の背中が裂ける。

なにかが、ぞるりと、ぬけて、


「むしぬしさま」

「むしぬしさま」

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