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今後の方針

 ライリーとアルは自宅に帰った。呑気が過ぎるような気もしたが、できることがない今、体力の回復に努めるのが最優先だ。

 食料庫の備蓄はわずかだ。裏庭に作った畑も収穫をほぼ終えているし、冬を越せる作物はそう多くない。エルベリー戦が終わればライリーとアルは王宮の居室で暮らし、食事は城の厨房で用意してもらうつもりだったのだ。

 明日からは森で獲物を狩ることも考えなくてはならない。

 妻の実家と折り合いの悪いザックとその配下を十人、ライリー宅で引き受けることにした。

 帰宅後すぐに暖炉に火を入れて部屋を暖める。

 物珍しそうにきょろきょろする男達を嫌そうに見て、ライリーは釘をさした。

「俺がいるときだけですよ。俺が出るときには一緒に出てってくださいね」

 意外と神経質なことを言う、とザックは思った。そこら辺は貴族の感覚なのだろうか。

「分かったよ」

 飾り棚に置いてあった木の枝を、なんだこりゃと手に取ろうとした騎士を、ライリーはすかさず制止した。

「それ触らないで!」

「え? 大事な物なんですか?」

「息子の宝物」

 どこから見ても、何度見ても木の枝である。

 だが彼らもかつて通ってきた道だ。理解を示して手を引っ込めた。

「その石も!」

 落ちていた塵を拾ったくらいのつもりでいた騎士は驚いて、手にした小石を取り落とした。

「これも?」

「娘が失くしたと言って泣いていたやつだ。見つかってよかった」

 ライリーは艶々と光る小石を、枝の横に大事に並べた。

「ライリー様。ソフィア様は多分次にお会いするときには忘れておられます」

 アルが遠慮がちに水を差すが、ライリーはふん、と鼻を鳴らした。

「それくらい分かってる。けど見つけておいてやったと言えば喜ぶだろう」

 たまにしか会えない子どもの気を引くために、父親は必死なのである。

「……面倒臭そうだな」

「ザックももうすぐですよ。三年後には同じことするようになりますからね」

 早くその未来が来るといい。

 その日を夢見て、彼らは明日からまた働かなくてはならないのだ。

 夜は早い刻限から暖炉の火を囲んで、明日への英気を養うために横になって寝んだ。


 翌日も王宮に動きはなかった。

 ライリーは朝から、昨日後回しにした家を順に訪問した。

 ロブフォード侯爵邸は管理人夫妻含む全員が不在。恐らくウィルフレッドと使用人の何人かは王宮、残りはロブフォードに報せに帰ったか。

 ティンバートン伯爵邸は、ロバートが王宮、ロージーと子ども達はティンバートンから出て来ていない。使用人達が不安を抱えながら主人の無事の帰りを祈っていた。

 他の知り合いの貴族宅も同じように、王宮に出仕する主は不在で、妻子や使用人だけで屋敷を維持していた。

 このまま冬を越すつもりなのだろうか。

 王宮の備蓄を放出しなければ、飢える民が必ず出てくるというのに。だが逆を言えば、敵は王宮を閉じたまま冬を過ごすことは充分可能なのだ。

 三千三百の騎士団は、このままだと確実に食糧難に陥る。

 この先の方針は決められなくても、食糧問題はライリーが確実に解決しなければならない。

 援助を頼むしかない。

 だがどこから? 

 どこの領主も、自分の領民の分しか確保していないだろう。

 とりあえず近いところから順に、片っ端から頼んで廻るか? 望み薄であることを分かって、何日もかけて行くのか。

 何度考えても、結論は変わらない。早晩手持ちの食糧が尽きる。森の獲物だって無限に湧いてくるものではないのだ。持ってあと四日だ。

 ライリーは再び幹部を招集して宣言した。

「食べる物がないです。明日の午の鐘が鳴っても動きがなければ、こっちから仕掛けましょう」

「どこから」

 高く聳え立つ城壁は、登れるものではない。

 裏の森は葉を落とし切っていない木々が生い茂り、進軍するには不向きである。なんとか城壁の途切れたところまで辿り着いても、侵入口が狭いため、投石や弓矢隊に待ち構えられていればひと溜まりもない。

 そういう造りの城であることは、彼らが一番よく知っている。

「分からん。考えてください」

「敵はせいぜい六百ってとこなんだろう。ある程度の犠牲は覚悟で裏から突っ込むか」

「人質はどうなる」

 それが問題なのだ。

 王とその家族は拘束されているのか、もしくはすでに斃されてしまっているのか。

 鐘撞き以外の、王宮に勤めている者達は。敷地に住む家族は。

 無事であるならば、救い出さなくてはならない。そうでないなら、裏から攻めて城を取り返し、新しい王を戴かなくては。

 それが無理なら、敵の前で膝を折る決断を。

 仕える主君のない騎士団に、存在意義はないのだ。

「……使者を、立てましょう。向こうだって、この先ずっと立て篭っているわけにはいかないんだ。国取り宣言を出すなり、我々に降伏勧告をするなり、なんらかの要求があるはずだ。それを訊いてきましょう」

 副団長と五人の大隊長は、顔を見合わせた。

 それは騎士団のすべきことではない。彼らの仕事は、戦うことだけだ。

「駄目だ。一度考え直そう。宰相やらが全員囚われてるってんなら、外から偉いさんを呼んで来るんだ。今ここに呼んでこれる人間のなかで、一番王家に近いのは誰だ」

 全員の視線がライリーに集まった。

 この場で貴族階級の序列に詳しいのは彼しかいない。

「継承順位、ってことですね。陛下の直系卑属は、全員城で暮らしてますよね。ご兄弟は、えっと」

「おふたりだろう。姉君と弟君」

 頼りないライリーに、マーロンが口を挟む。

「そうそう。リィンドール公爵の母君と、グラスケスの王配です。つまり公爵? ですか?」

 ハリエットの義叔父である。ティンバートンに縁談を持ち込んだ、いわばライリー達の仲人だ。

「今の状況が耳に入ってないわけないだろ。もう十三日目だ。様子見を決め込んでんのか。ってか他の貴族連中もなんで何もしてないんだ。おかしいだろう」

 今更ながらそのことに思い至った。

「おそらく全員、他人事なのだと思います。まずは自分達の領地の冬支度をする必要があるので。王家の交代があるならばそれに従う、くらいの考えなのでは。特に今回は動きが静かで、黙っていれば火の粉が降りかかることもなさそうだ、と」

 それが主要貴族の考えなのだ。

 異教の徒に攻められれば不都合があるから一致団結するが、そうでないならば、王など誰がなっても構わない。己の領地が無事であればそれでいい。市民と考えは同じだ。

 この時代の王は、そこまで絶対的な存在ではない。

 だから、気軽に国が興り、そして滅ぶのだ。

「主君がいなくて困るのは、俺達だけってことか……」

「もし今の王家に何かあって、その後も国を存続させたいなら、新しい王は公爵しかいない。じゃあやっぱり公爵の指示を仰ぐべきでしょう」

 公爵が戴冠することになれば、その次の王はハリエットの従弟である。ライリーは国王と義従兄弟の関係になる。更に次の世代になれば、子ども達は国王と血の繋がった再従兄弟となるのか、とまで考えて、無理矢理思考を止めた。

 今はそこまで考えなくていい。逃げ出したくなる。

「最悪なことばかり考えて話を進めるな。とにかく一番考えるべきは、王宮を取り返して陛下をお救いすることだ。それが最善だ」

「次善は」

「新しい王の下にくだる」

「もしくはそれを(たお)して、公爵にっていただく」

 昨日から話がほとんど進んでいない。

 今の状況は、彼らの最も不得手とするところだ。すべきことが定まらない。

「……違うな。ここに公爵はいない。それが答えなんでしょう。俺達に王を決める力はない。とにかく、明日の午だ。鐘の刻限まで待って、動きがなければ城門の前で呼ばわってみましょう」

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