無音なワイングラス
机の上に、たっぷりと透明な水が入ったワイングラスが置かれていた。
そのワイングラスの下には、真っ赤に染まった柔らかそうなテーブルクロスが一枚惹かれていた。
ゆらゆらとテーブルクロスの端が揺られているのに反して、ワイングラスの中にある水は、何もなかったかのように波紋すら立てていなかった。
そのずっしりと重みがあるように見えるワイングラスの上に、もう一枚黒いテーブルクロスをかけてあげた。
すると、不思議と赤いテーブルクロスの端の動きが止まった。
突然、虫の声も聞こえないような空気に切り替わった。
そして、テーブルクロスの間の中からポーンという音がすると、ワイングラスの中にある水が静かに跳ねたかのように、黒いテーブルクロスの中央が小さく膨らんだ。
その膨らみが元に戻ると、黒いテーブルクロスの端が静かに揺れ始めたのだった。
まるで、ワイングラスを通じて役割の世代交代をするかのように......。