攻略対象に会ってしまう2
次に向かったのは美術室。
通常ならダンバート様との遭遇率が高そうなこの施設は、案外他の攻略対象、我が国の第三王子のナティコト様との遭遇率も高い。
彼がここに出現する理由が多いのは、彫刻や絵画は離れて行かないし壊すのが楽だから。
第三王子という事であまり政治的抗争に巻き込まれない彼は、どちらかと言えば愛されキャラだし、彼自身も何かを愛する事に抵抗を覚えない。
しかしながら、それは彼の手の内にあるものに対して向けられる愛であり、離れて行きそうな気配を察知すればその愛はすぐさま狂気へと変わってしまう。
ペットをすぐに殺してしまう彼の王宮の自室に面した中庭には、殺されたペットの大きな共同墓地がある。
わたくしはそんなナティコト様に対してはっきりと、「わたくしはナティコト様を愛さない」と宣言しているので、ナティコト様がわたくしを愛することはない。
けれども、親しい従姉妹という位置づけにはなっている。
愛さなくても、愛されなくても傍に居てもいい存在があるのだと、そうナティコト様に教えたのはこのわたくし。
美術室ではガラスの可愛らしい小さなウサギの彫刻を眺めているナティコト様が居て、わたくしとミッシェル様の気配に気が付くとニコニコと手招きをしてきたので近くに行く。
「やっほー、メレディス。やっと入寮したんだね」
「ごきげんよう、ナティコト様。そんなに遅いわけではございませんでしょう」
「ボクは一週間前から入寮してたよ」
「聞いておりますわ。入寮なさる前に王宮で飼っていらしたペットを全部殺してしまったのだそうですわね」
「だって、ボクが三年間もいなくなっちゃうんだよ。その間になにかあるかもしれないし、それだったらボクが殺してあげた方があの子達の為だよ」
「さようですか」
ヒロインはナティコト様の攻略では命の大切さを必死に説き、自分が一生ナティコト様の傍に居るからもう何も殺さないで欲しいと説得するようになっている。
愛するのはもう自分だけにして欲しいと言われ、それをナティコト様が受け入れるのだ。
わたくしはナティコト様を愛してあげることは出来ない。
だからと言って、従兄弟であるナティコト様を見捨てることもない。
誰かを選べと言われたらミッシェル様を選ぶと、そう伝えている為、ナティコト様がわたくしにその問いかけをする事はない。
「それにしても、またミッシェルと一緒なの? いいなぁ、ボクも愛する子と一緒に居たいよ」
「学園ではペットを飼う事は出来ませんものね」
「そうなんだよ、つまんないよねぇ」
ナティコト様はそう言ってため息を吐き出すと、先ほどまで見ていたガラスのウサギの彫刻に視線を戻す。
「これ、美術部の人が作ったらしいんだよ」
「見事な彫刻ですわね」
「譲って欲しいって言ったらダメだって言われたんだ。また作ればいいのに、ケチだよね」
「第三王子であるナティコト様のご要望をお断りするなんて、相当な勇気が必要でしたでしょう。それだけその作品に愛着があるという事なのではありませんか?」
「ボクだって、部屋に持っていったらちゃんと綺麗に飾ってあげるよ?」
「この彫刻はナティコト様一人の視線を独占したいのではなく、多くの方の視線を受けたいと思っているかもしれませんわよ?」
「ふーん? そういうもの?」
「まあ、無機物の感情なんてわたくしにはわかりませんけれどもね」
「ボクにもわからないなぁ。でもまあ、こうしてわざわざ足を運んで見に来るのも悪くはないかもね」
「では、それでご満足なさいませ」
「あ、そうだ!」
「どうなさいました?」
「ボクの制服姿どう? 似合ってる? カッコイイ?」
「ええ、よくお似合いですわ」
「じゃあボクを愛してくれる人がいっぱいいるかな?」
「それはわたくしにはわかりかねますわね。どのような格好をなさってもわたくしにとってはナティコト様は愛する対象ではありませんもの」
「ボク、メレディスのそう言う所大好き」
「ありがとうございます」
「メレディスも制服似合ってるよ、可愛い。ミッシェルに今まで以上に愛されそうだね」
「そうであればよいと思っておりますわ」
「あーあ、本当にミッシェルが羨ましいよ。メレディスの愛を一身に受けてて。光栄なことだよね」
「そうですね、メレディスは僕にはもったいないぐらいの婚約者ですが、差し上げませんよ」
「ボクを愛してくれないからいらなーい」
ナティコト様はそう言うと興味をウサギの彫刻に戻してしまったようなので、邪魔をしないようにわたくしとミッシェル様は美術室を出た。




