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カウントダウン6(ベリランブル視点)

「あの無礼な男爵令嬢、ボクに任せてもらってもいい?」


 ナティコト殿が食堂で発した言葉に、内心遅かったな、と思いつつ、無言で頷いた。

 ナティコト殿はメレディスの事が好きなようだし、もっと早くに言いだすかと思っていたが、男爵令嬢とはいえ、自国の貴族に手を出すことは躊躇われていたのだろうか?

 我が手を下してもよかったが、面倒だったし、なによりも我が出しゃばった真似をして何か起きるのが嫌だった。

 メレディスを悪者にしようと必死な男爵令嬢の姿を見るのは滑稽だったし、平民というのはあんなにも浅ましい者なのかと、改めて教えてもらうにはいい相手だった。

 貴族も底知れない恐ろしさがあるが、平民のあのえげつないまでの逞しさは違った恐ろしさがある。

 やはり他人に関わるとろくなことがない。

 メレディスは絡まれて気の毒だと思うけど、なんであの男爵令嬢はメレディスにあんなにも固執したんだろうか。

 まあ、狙いが我たちへの接触と言うのであれば、メレディスを巻き込むのも仕方がないかもしれないが、巻き込まれたメレディスはたまったものではないだろうな。

 我だったら、即刻退学処分を言い渡したいところだ。

 もっとも、ここは我が国ではないのであまり無理も言えないのが残念だがな。

 とはいえ、我が積極的に動いて、他の貴族を刺激するのも好ましくない。

 まったく、面倒な立場になったものだ。

 こんな立場を望んだわけではないのに、あの男爵令嬢は、自分も最近母親を失ったから我の苦しみがわかるなどと、勝手なことを言っていた。

 平民の女が死んだのと、国王の妃が死んだことを一緒にされては困る。

 孤独な気持ちを分かち合いたいなどと言ってきたが、ふざけるにもほどがある。

 我の孤独の何がわかると言うのだろうか。

 高位の貴族や王族であれば、誰もが何かしらを失い、孤独を感じていてもおかしくはない。

 あのメレディスだって、幼いころに祖母を亡くし、大きなショックを受けた。

 我と違う所は、それを乗り越えて、あの婚約者と幸せな関係を築いていると言う所だろう。

 高位貴族の政略結婚の間に愛が生まれるなど、我には想像もつかないが、無視をする程度ならともかく、あの婚約者の事を悪く言うようであれば、メレディスの纏う空気は一瞬にして冷たいものへと変わる。

 それだけあの婚約者を大切にしているのだろう。

 そう言った信頼関係を築くことが出来るのは、メレディスのすごいところだと純粋に思える。

 我では無理だ。

 あの婚約者はメレディスの事を大事にしているし、悪い男ではないと思う。

 それでも、大切なメレディスの心を奪ったという事に変わりはなく、我にとってはあまり関わろうと思わない相手だ。

 まあ、あの婚約者だけでなく、我は誰とも基本的には関わり合いになりたくはないがな。

 我を守ってくれていた母上が亡くなって、我がどれほど苦労したか、あの男爵令嬢にはわからないだろう。

 それなのに、さもわかっているというような態度には正直嫌気がさしてしまう。

 食堂から出て行くナティコト殿を追いかけるアルフォンスを見て、何かあるのだろうかと目を細めたが、アルフォンスのやる事に口出しをしてもめるのは面倒くさい。

 このまま無気力な存在として認知されれば、親族だって我を御輿に担ぐのを諦めるだろう。

 我は静かに暮らしたいのだ。

 暗殺や王位などに巻き込まれない場所で、ただ静かに暮らしていたい、そう願っているのに、周囲は今のところそれを許してはくれそうにない。


『わたくしはミッシェル様を愛しています。あの方の為なら、なんだってして差し上げたいのですわ』


 あの言葉を聞いた瞬間、我の中に思い浮かんだのは嫉妬だったかもしれない。

 我とメレディスは、はとこという関係以上のものはないのにな。


『大切な存在を失いたくないから、関わらない。それを選択するのなら、ベリランブル様はきっと孤独の道を生きるのでしょうね。けれども、優しいベリランブル様はわたくしの事は避けることが出来ないのでしょうね』


 まったくもってその通りだ。

 我にとって残された信じられるものはメレディスだ。

 だからといって、メレディスが欲しいとか、愛しているというわけでもない。

 本当に不思議なものだ。


『お前がどう考えようと吾の知ったことではないが、お前は一人ではない。その後ろには、山のように亡者が居るという事を忘れるな』


 そう言ったアルフォンスは、どれだけの思いをして生きてきたのだろう。

 我と違って母上に守られることもなかったあいつは、幼いころから何度も暗殺未遂にあっている。

 あの馬車の事故まで、我には縁遠かったものだが、アルフォンスやメレディスはずっとそんな危険に身を晒しているのだな。

 ああ、やはり他のものと深く関わるべきじゃない。

 我がこんな事を考えたところで、何かが解決するわけでもあるまいし、無駄な事に時間を割くのはもったいない。


「もう自室に戻るのですか?」

「……あの迷惑な男爵令嬢の事を考えたら食欲が無くなった」


 シルバーンの言葉にそれだけ返して部屋に戻った。

 何にも固執しない我の部屋は、一年経っても当初に用意したまま何か変わった様子はない。

 趣味もこれと言ってない我には、お似合いの部屋だな。

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