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カウントダウン7(アルフォンス視点)

「あの無礼な男爵令嬢、ボクに任せてもらってもいい?」


 食堂で不意に言われた言葉に、最近周囲をうろついている無礼な男爵令嬢の事が思い浮かび、無言で頷いた。

 吾としてはあの男爵令嬢がどうなろうと関係ないから、ナティコト殿が任せろと言うのならそれで構わない。

 最近ではメレディスに嫌がらせをされた、などと囀っているし、ちょうどいいだろう。

 あのメレディスが、わざわざ自分から男爵令嬢に絡みに行くとは思えないし、なによりも嫌がらせの理由が、吾達と仲良くしていることによる嫉妬ときたものだ。

 ミッシェルがあの男爵令嬢と仲良くしているのならともかく、吾達が仲良くしたところで、メレディスは何もしやしないだろう。

 せいぜい、吾に対しては「内面を許す方が現れたのですね」と、感想を言ってくるぐらいだろう。

 ふむ、むしろ喜ばしいと思うのであって、間違っても嫌がらせなどには発展しないな。

 そもそも、上っ面だけのあの女に吾の内面を見せることを心配されるかもしれない。

 そっちの方が確率は高いな。

 どちらにせよ、あのメレディスが誰かに対して嫌がらせをするとなれば、ミッシェルが関わる以外にないだろう。

 そんな事も理解できずに発言をするなど、やはりあの男爵令嬢はないな。

 なぜか吾が幼いころに、身内から暗殺者を差し向けられたことを知っていたので、間者かとも疑った時期はあったが、あの間抜けぶりにそれはないとすぐに考えを改めた。

 吾達に対する不敬罪で、そろそろ退学になるのではないかと思っていたので、ナティコト殿の申し出はありがたい。

 別に吾が手を下すわけではないのだから、外交的に軋みが生まれることはないだろう。

 それにしても、反省室行きの最速記録を更新しただけでなく、学園から消える最速記録も更新しそうだな。

 ナティコト殿は明日にでもメレディスにも確認すると言って食堂を出て行ったが、そうだな、あの男爵令嬢の被害を最も受けているのはメレディスだから、それも当然だろう。

 しかし、あのナティコト殿が他人に確認を取るなど珍しい。

 尋ねているように見せかけて、何を言われようとも、「でもボクはそうしたいから」と言って、何事も押し切るような人だ。

 それだけメレディスに対して、心を開いているという事なのだろう。

 ナティコト殿の困った癖については聞いているが、それがメレディスに対して発動しないのであればそれで構わない。

 まあ、多少離れたからと言って殺されて行った彼のペットには同情しないでもないが、今のところ人間を殺してはいないのだしいいのではないだろうか。

 今後一人殺しそうではあるが。

 それにしても、と、あの迷惑な男爵令嬢の事を思い出す。

 日常でも絡んでくることが多かったが、なによりも飛行部の活動中にやってくることが多くて迷惑だったな。

 入部させてほしいと言われて、既にやらかしている事の噂から入部を拒否したら、助っ人登録だけでもいいからと粘られて、しぶしぶ口約束で助っ人が必要になった時は呼ぶと言ったらしい。

 書面を交わしているわけでも、記録を取っているわけでもないので、部長が一言「そんなもの知らない」と言えば済むものだ。

 だが、その口約束を口実に、飛行訓練場に何かにつけてはやって来て、吾を見つけると近づいて邪魔をしてくる。

 初めはいつものように人当たりよく接していたが、「あたしの前では演技なんてしなくていいんですよ」、と言われてからは相手をする事をやめた。

 そうしたらそうしたで、「なんであたしを無視するんですか!」と文句を言われたが、自分で演技をしなくていいと言ってきたのだから、吾があの男爵令嬢の相手をする必要はないと判断して無視をした。

 その後もしつこく飛行訓練場に現れては、吾に構って欲しそうに視線を向けられたが、あの男爵令嬢は箒での飛行が苦手なのか、空を飛んでまで追ってはこなかったので、視界に入ったらすぐさま空に逃げるようにした。

 メレディスであれば、用事があるなら自分で箒を使って空までやってくるだろうし、箒の操作が苦手な生徒でも、他の部員に言伝をしてくるため問題はない。

 空に居る時間まで、あの男爵令嬢に邪魔をされたらたまったものではない。

 空は吾が自由に過ごすことが出来る数少ない場所だ。

 過去には、愛用の箒に仕掛けを施され、地面に叩きつけられかける事故に見せかけた暗殺未遂もあったが、それでも、吾は空が好きだ。


『風が気持ちいいですわね』


 幼いころにそう言ったメレディスを思い出す。

 自国に戻る前、帰らないで欲しいと駄々をこねるベリランブルの横で、すました顔をしていた吾にメレディスはそう言った。


『全く別に見えても、空は一つ。どこまで行っても繋がっていますわ。だから、同じ空の下にいるのだと、そう思えば、別れなど寂しくありませんわよね』


 あの時吾は、「そうかもしれないな」とだけ答えたが、あれ以来、吾は空を、風を感じるために飛行術を学ぶのに力を入れた。

 繋がっているだけじゃない、空は何処までも広がっているのだと、狭い王宮の中で暗殺者に警戒している心が安らぐような、そんな気分にしてくれる。

 その事に気が付かせてくれたメレディスには感謝している。

 食堂から出て行ったナティコト殿の背中に声をかける。


「ナティコト殿」

「なぁに~?」

「どうしようとかまわないが、メレディスに迷惑がかかるような真似は遠慮してくれ」


 吾の言葉にナティコト殿は一瞬目をぱちりと瞬かせ、「あったりまえだよぉ」と笑顔で答えた。

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