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死亡フラグ

「やっほー、メレディス」


 自室に戻ると、ナティコト様がソファーに座ってお茶を飲んでいた。


「主人の居ない間に勝手に部屋に入るのはどうかと思いましてよ」

「えー。だって、メレディスはどうせさっきまでミッシェルの部屋でいちゃついてたんでしょ? 流石にその邪魔をしちゃ悪いかなーっていうボクなりの気遣いだったんだけど?」

「ミッシェル様の部屋に居たのも、いちゃついていたのも事実ですが、だからと言ってわたくしの部屋に無断で入るのはどうかと思いますわよ」

「一応メレディスの精霊の許可は取ったよ?」


 ナティコト様の言葉にフュリーとヴィリアが頷く。

 お茶を出したのはヴィリアだろうし、まったく、自分達が強いからって、主人の許可を得ずに自分勝手に行動する辺りは流石精霊と言う所だろうか。

 人間のメイドであったら、即刻首にしている所だ。

 まったく、と思いながらナティコト様の向かいのソファーに座ると、当たり前のようにヴィリアがお茶を出してくれる。


「それで、ご用件と言うのはなんでしょうか?」

「あのさぁ、あの迷惑な男爵令嬢だけど、殺しちゃってもいい?」

「あら、何かされましたの?」

「ボクのお気に入りのガラスの彫刻を落として割っちゃったの」

「それはいけませんわね」

「ボクだけが被害にあってるわけじゃないよ。ダンバート兄様は、病弱なのは呪いのせいだとか言われて、怪しい薬を無理やり飲まされそうになったみたいだし、ゼシュティア兄様は息抜きの楽器の演奏時間をことごとく邪魔されてるみたい」

「そうですか」

「シルバーンもウロチョロされてて仕事が進まないとか言ってたし、隣国の王子も似たような感じ」

「男爵令嬢如きが王子方に接触なんて、平民の子供が読むような御伽噺でもあるまいし、困ったものですわね」

「うん、だから殺しちゃおうかなぁって」

「普通に退学処分ではいけませんの?」

「まあ、メレディスだから言うんだけどね」

「はい」

「殺してあげるのが一番苦痛が少ないと思うんだ」

「その心は?」

「このまま生きていても、王子と公爵家に迷惑をかけた愚かな男爵令嬢って事で、結婚話も来ないだろうし、社交界でもさらし者になるでしょ。貴族にとってはまさに生き地獄、だったら家族の為にもあっさり殺されちゃった方が楽でしょ」


 ふむ、言っていることはある意味正しいが、ナティコト様が自ら手を下すことはないのではないだろうか?

 わたくしの考えていることが分かったのか、ナティコト様がクスクスと笑う。


「不思議なんだよねえ、あんな男爵令嬢なんてどうでもいいんだけど、もし目の前から居なくなるんだったら殺してあげなくっちゃって思っちゃうんだ」

「ふむ」


 ナティコト様ルートでは、バッドエンドを迎えると、ナティコト様に殺されると言う結末なのだが、それが影響しているのだろうか?

 しかし、バッドエンドが登場するのは夏季休暇後の個別ルートに入った時だけだ。

 マリアナ様がナティコト様のルートに入っているとは思えないし、マリアナ様が変な風に動いているから、強制力が変な風に働いているのだろうか?

 その場合、他の攻略対象のバッドエンドが起きてもおかしくはない。


「他の皆様はなんとおっしゃって居りますの?」

「ん~、どうでもいいからボクに任せるって言ってくれてるよ。でも、ミッシェルの意見は聞いてないなあ」

「そこでどうしてミッシェル様のお名前が?」

「そりゃあ、愛しの婚約者がここまで迷惑かけられてるわけでしょ? 思う所があると思うよ?」

「なるほど」


 ミッシェル様は結局乙女ゲームには攻略対象として登場はしなかったが、設定上バッドエンドは殺されてしまうからな、世界の強制力がミッシェル様にも不自然に作用しているのだとしたら、マリアナ様を殺そうと考えてもおかしくはない。

 そこまで考えて、それならばなおさらミッシェル様の部屋に来てもらった方が……、いや、だめだ、ちょっと今日は部屋に入ってもらうような雰囲気ではなかった。

 防音結界は張っていたので外に声が漏れるような事はなかっただろうが、逆に防音結界を張っていたことでなにをしていたのか勘付いたのかもしれない。

 ナティコト様は決して鈍いわけではないのだ。

 さも何事も無かったかのようにお茶を飲むと、ナティコト様をしみじみと見つめる。

 有名絵師を使っただけのことはあって、こう見ても本当に美形だ。


「なになに、急にボクの顔をじっと見つめちゃって」

「いえ、ナティコト様って本当に美形ですわよね」

「えー、惚れちゃった?」

「それはありませんけれど」


 きっぱりと言うと、ナティコト様は「つまんな~い」と唇を尖らせて、お茶の入ったカップに口をつける。

 ナティコト様がわたくしに愛されたいと思っていないことはわかっているので、これはパフォーマンスだろう。


「それにしても、いいねぇ」

「なにがですか?」

「精霊」

「差し上げませんわよ?」

「もらえるとは思ってないよ。召喚獣として契約したんでしょ? 横から何かして怪我をする気はないもん」

「それはよかったですわ」

「でも、いいよね。一度契約したら簡単には離れて行かないし、かわいいし、一生懸命愛情を向けてくれそうだし、丈夫そうだし」

「否定はしませんが、精霊をそのように丈夫だからよさそうと言う方は珍しいのでは?」

「他人がどう思おうと、ボクには関係ないよ~」

「ナティコト様はそう言う性格ですわよね。王族でありながらその考えが出来るのはすごい事だと思いますわ」

「でっしょ~」

「褒めてませんわ」

「えぇ~。メレディスつまんな~い」

「はいはい。それで、マリアナ様についてでしたわよね」

「誰それ」

「……迷惑極まりない男爵令嬢の事ですわ」

「ふーん、そういえばそんな名前だったかも」


 興味なさそうだな。


「まあとりあえずさ、一番被害受けてるのってメレディスっぽいじゃん? 自分で対処したいんだったら、話を聞こうかなぁって」

「聞く、ですか」

「うん」


 にこにこと悪びれない顔で言っているが、聞くだけで受け入れると言っていないあたり、ナティコト様の中ではマリアナ様の処遇については、もう決まっているのではないだろうか?

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