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勉強会?

 どうしてこんな事に、と思いつつわたくしは図書室のテーブルに座る面々を眺める。

 ダンバート様はまだわかる。

 彼は日ごろから図書室によく顔を出しているし、図書室にある本の位置などを聞く際に、こう言っては何だが便利だ。

 シルバーン様も真面目なので、図書室に居てもおかしくはない。

 しかしながら、他の面子は乙女ゲームの設定を考えても、図書室に居るという事がほとんどないし、一堂に会するなんてことがあるわけがないのだ。

 それが、いったいどうしてこうなった?

 わたくしの前には、広いテーブルの前で学年もごちゃまぜで一堂に会している攻略対象達が居る。

 確かに、そろそろ実力テストがあり、そのために勉強をしに図書室を使用すると何かの折に話したような気もするが、だからといって、これはないだろう。

 乙女ゲームには個別の勉強会イベントはあれども、こんな風に一堂に会しての勉強イベントはなかったはずだ。


「メレディス、あの席は満席のようだし、別の席に座ろうか」

「そうですわね」


 わたくしは攻略対象の集まっている席を見なかったことにして、ミッシェル様と別の席に座る事にした。

 本当に、あの方々はどうしてこんな時期にあんなところに集まっているのだろうか?

 ともあれ、わたくしはミッシェル様と一緒に講義の内容をテキストと照らし合わせて勉強をしていく。

 図書室なので当たり前なのだが、攻略対象達が居る席は静かだ、一言も誰も発していない。

 勉強を教え合うと言うのならともかく、本気でなんで集まった?


「あ、皆様こんなところに居たんですねぇ」


 そんな事を考えていると、マリアナ様が図書室にやって来て、迷いなく攻略対象が集まっているテーブルに近づいていく。


「もう、探しちゃったんですよ。でも、皆様が揃ってるんだったらちょうどいいですね、一緒にお勉強しましょう」


 マリアナ様、あからさまに無視をされているけれど、気にせずに六人に近づいていき、近くのテーブルから椅子を引きずって来て無理やり空いている場所に座っている。


「そういえば、聞いてくれますか? メレディス様ってば、精霊をこき使ってるんですよ。一人だけ召使いが居る状態で過ごすとか、ずるいと思いませんか? 皆様だって自分の事は自分でやってるのに」


 身の程をわかっていない、とマリアナ様は誰が聞いているわけでもないのにぐちぐちと話し始めている。

 一応ここは図書室なわけで、小声で時折話すのならともかく、あんなに大声で話すような場所ではない。


「あの人、本当に生意気ですよね。自分の立場をわかってないって言うか、何のために存在してるのか自覚がないって言うか、本当に役立たずで馬鹿で、意味が分かりません」


 お助けキャラを放棄しているのだから、ヒロインであるマリアナ様にとってはそうだろうが、彼らから見れば意味が分からないのはマリアナ様の方だろう。

 実際、こちらから見ているだけでも攻略対象達の機嫌が悪くなっていっているのがわかる。


「それに、あたしにたいしてもいつも酷い態度を取ってくるんですよ。身分をわきまえろとか、何様っていう感じですよね。あたしが皆様と仲良くしてるからってきっと嫉妬してるんですよ、醜いですよね。あたし、毎日のようにメレディス様に嫌味を言われて、辛い日々を送っているんです」


 毎日マリアナ様に会っている覚えはないのだが、嘘をつくのもいい加減にして欲しいものだ。

 精霊については確かに他の寮生には無い召使い的扱いが出来る存在ではあるが、ちゃんと学園長の了承を得ているのだし、何の問題もないはずだ。


「それに、メレディス様って何でもないっていう顔をしながら、裏では女子寮を自分の物のように扱ってるんですよ。公爵令嬢だからってやっていい事と悪いことがあるのに、その区別もつかないんですかね」


 身分制度のしっかりしているこの学園で、堂々と公爵令嬢の悪口を言うよりはましだろう、そんなことしていないけど。


「あのさぁ」

「なんですか? ナティコト様!」

「誰の許可を貰ってそこに座ってるのか知らないけど、ここは図書室なわけ、ペラペラと煩いんだよね」

「え、だって折角皆様がいるんですよ。この機会に親睦を深めるいいチャンスじゃないですか」

「何のチャンスかは知りませんが、ここにいらっしゃるのは我が国と隣国の王子様方です。貴女が居ていい場所ではありませんよ」

「やだなあ、シルバーン様。二人っきりじゃないからって拗ねてるんですか? 後でシルバーン様のお部屋に行きましょうか?」

「貴女は男子寮に立ち入り禁止になっているはずですが? きちんとした書面でお知らせしていますよね」

「あんなもの、あたし達の前ではただの紙切れじゃないですか」

「生徒会からの正式な通告書を紙きれと言う愚かな生徒は初めて見ましたよ」

「愚かって、皆様がいるからってそんな事言わないでくださいよ」


 ポジティブだなぁとしみじみ思ってしまう。

 一般の女生徒なら、シルバーン様にあんなことを言われたら、速攻で頭を下げて逃げ出している所だ。

 しかしながら、勇敢と無謀をはき違えてはいけないのと同じように、この場面では頭を下げて退席するのが正しい。

 もっとも、そこの判断がつくようなのであれば、マリアナ様は今頃立場をわきまえた行動をしているだろうが、それが見られないという事は、今後も同じような行動を続けるわけで、本気で反省室行きの最速記録を更新しそうだ。

 というか、生徒会から正式に通達が出ているのに無視しようとか、問答無用で反省室行き案件だろう。

 ミッシェル様と若干離れた位置で観察を続けていると、フリッカ様が慌てた様子で図書室に入って来てきょろきょろと室内を見渡して、眉間にしわを寄せると、ツカツカと足音を立ててマリアナ様の所まで歩いていく。


「マリアナ様。貴女、また補習をさぼっているのですってね。講師の方が私の所に相談に来ましたのよ」

「サボってるわけじゃないですよ。こうして皆様とお勉強しているんです」

「それとこれは別でしょう。貴女の授業態度が悪いから行われている補習なのよ、それをさぼるなんて、何を考えているの」

「うるさいなぁ、モブが騒がないでくれますか? ここは図書室なんですよ」

「いいから、講師の方がお待ちなの、行くわよ」

「せっかく皆様と一緒に居るのに邪魔してくるとか、メレディス様の差し金ですか、この腰巾着」


 いえ、わたくしはここにいますが?


「もし、大人しく補習に行かないなら、いい加減反省室に入ってもらいますけど、よろしいのかしら?」

「はあ? ヒロインであるあたしに向かって何言ってるかわかってるの?」

「ヒロインとか意味の分からないことを言っている貴女よりは、まともな思考をしていると思うわ。ほら、どうするのかしら?」

「ちっ、生意気な女ね。……見ましたか? メレディス様はこんな人にまでこうやって命令して、あたしのことを虐めてくるんですよ」


 いや、その切り替えはどうなの?

 今のやり取りを見ていたらどう考えても皆様どちらが正しいかわかるだろう。

 何も言わない皆様に、マリアナ様は明らかにいら立っているようだが、しばらくして目をウルウルとさせて、手で顔を覆った。


「あたしは、皆様と一緒に居たいだけなのに、どうして皆してあたしのことを虐めるの」


 その変わり身の早さだけは、高位貴族も感心すると思うが、今更感がすさまじいので、やはり何とも言えない。

 その証拠に、皆様すっかりマリアナ様の事を無視して自分の勉強に集中している。

 というか、そもそもなんで攻略対象が一堂に会しているのか、本当に謎過ぎる。

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