精霊との出会い4
「どちら様ですか?」
「あたしよ」
「あたし、などというお名前の知り合いはおりませんわね」
「マリアナよ! 声でわかるでしょ!」
「ああ、マリアナ様でしたか。このような時間に何の御用でしょうか?」
「話があるのよ、部屋に入れなさい」
「お断りしますわ」
「はあ?」
「こんな時間に人を部屋に入れるなんて、常識はずれでしょう?」
「ちっ、いいから入れなさいよ」
「そんなにお話ししたいのなら談話室で」
「悪役令嬢のくせにあたしに命令する気なの?」
「公爵令嬢として、男爵令嬢に常識的な話をしているだけですが、なにか?」
「うっさいわね! あたしはヒロインなのよ! いいから中に入れなさいよ!」
「お断りいたします、といいましたわよね」
「話があるのよ!」
「ですから、談話室でならお聞きしますわ」
「……わかったわ、談話室で、皆の前であんたが如何に卑怯かを知ってもらうのもいいかもしれないわね」
何が卑怯と言うのだろうか?
とりあえず、談話室で話す事は了承を貰えたので、ドアを開けて外に出ると、仁王立ちしているマリアナ様が居て、思わずため息を吐き出したくなってしまった。
こんな時間に他人の部屋の前で仁王立ちしているなんて、貴族としてどうかと思うのだが、本人はわかっていないのだろう。
「ほら、さっさと行くわよ」
男爵令嬢が公爵令嬢に対して命令とは、本当にわかっていない。
しかしながら、先行するのを無理に追い越すのも、公爵令嬢として品性に欠けるかもしれないので、自分なりのペースで歩いていく。
「遅いわよ!」
「別に急ぐものでもございませんでしょう」
わたくしの言葉に舌打ちをして、マリアナ様はずんずんと廊下を歩いて談話室に向かって行く。
それにしても、卑怯とはどういうことだろうか?
まさかとは思うが、自分が持っていないのに精霊をわたくしが持っているのが卑怯だとか?
うーん、ありえそうだ。
そんな事を考えているうちに談話室に到着し、マリアナ様は迷いなく上座の席に向かって行く。
わたくしが居るから上座で間違いはないのだが、男爵令嬢であるマリアナ様が上座に向かうのは、やはり違和感がある。
どかりと偉そうに上座のソファーに座るマリアナ様にため息を吐き出したいのをこらえつつ、向かいのソファーに座る。
「それで、お話と言うのはなんでしょう?」
「あんたが、シナリオにない精霊なんて捕まえてるっていう話よ」
やっぱりそれか、と内心げんなりとしてしまう。
「いい、精霊なんて乙女ゲームではナティコト様の攻略の時にちょっと名前が出てくるだけの存在なのよ、それを捕まえるとか、あんた何様のつもりなわけ? 好感度上げとかしたいの? 悪役令嬢の分際で」
「そのようなことをおっしゃるのでしたら、マリアナ様も精霊愛好会に入ればよろしかったではありませんか」
「あたしはいろんなところからスカウトを受けてて忙しいのよ。暇人のあんたと一緒にしないで」
「そうですか」
まったく、この人はどうしたいのだろうか。
「いい、あんたはあたしの引き立て役なの! そこのところをわきまえなさいよね」
「公爵令嬢であるわたくしが、たかが男爵令嬢の引き立て役になるとは、笑えますわね」
「ふん、悪役令嬢っぷりは板についてるじゃない。でも、あたしよりも目立つのは間違ってるのよ。そこのところはき違えないで」
「大丈夫ですわよ、いまのところ、マリアナ様より目立っている(男爵)令嬢はいませんわ」
「そう? ならいいのよ。まったく、悪役令嬢に折角任命してあげたんだから、あたしの為に役に立ちなさいよ、この役立たずキャラがっ」
「散々な言われようですわね。男爵令嬢如きが公爵令嬢であるこのわたくしに向かって、そのような口を利く時点で自分の価値を落としているという事にはお気づきでして?」
「なに言ってんの? このあたしに話してもらえるのよ、感謝して欲しいぐらいだわ」
その自信は何処から……。
周囲の視線も冷たいものになっているのだが、マリアナ様は気づく様子もない。
「まあ、いいわ。本題に入るわよ」
「今までのは本題ではないのですか」
「そうよ。いい、あんたのつかまえた精霊をあたしに差し出しなさい」
「そう言われましても、精霊との契約をホイホイ出来るのでしたら、誰も苦労はしないと思いますわよ」
「ヒロインであるあたしがどうして苦労しなくちゃいけないのよ。あんたがあたしに差し出せば解決するじゃない」
「それは、公爵令嬢であるわたくしが、男爵令嬢であるマリアナ様に貢げと言っているように聞こえますが?」
「そうよ。あたしの役に立てるんだから、ありがたく思いなさいよ」
その言葉にわたくしは大きくため息を吐き出して、ソファーから立ち上がる。
「男爵令嬢如きに、どうしてわたくしが貢がなくてはいけませんの? 身の程をわきまえた行動をなさったら如何ですか」
「悪役令嬢役をやるのはいいけど、今はそんなのどうでもいいのよ。あたしが持ってない物を悪役令嬢であるあんたが持ってるのがおかしいから寄越せっていう話なの、わかる?」
「まったくわかりませんわね」
「役立たずの上に馬鹿なの? このあたしが差し出せって言ってるんだから、喜んで差し出すぐらいしなさいよ」
「お断りしますわ。精霊が欲しいのでしたらご自分で捕まえてくださいませ」
そう言ってわたくしは談話室を後にする。
背後から「ふざけるな」とか「役立たずが」とか聞こえてくるけれど、気にしてたらきりがない。
まったく、こちらはなるべくと言うよりも、全く関わり合いになりたくないのに、絡んでくるのは非常に迷惑だ。




