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部活動勧誘大会4

「あ! あんた!」

「あら、マリアナ様。このような所でどうなさいました?」

「それぞれのスペースを見てあげてるに決まってるでしょ。あたしの見たところ、お茶会同好会とかいいわね」

「そうですか」


 身分に捕らわれず楽しくお茶会、などという活動概要のせいだろうか?

 まあ、事前に確認したところによると、高位貴族の生徒は所属しておらず、下位貴族の生徒ばかりが所属しているうえに、活動もあまり活発ではないようだ。


「あ、お菓子じゃない。せっかくだし食べてあげるわ」


 そう言ってケーキを一切れ用意されていたお皿にとって食べ始める。


「ふーん、なかなか美味しいわね。でも、あたしがキッチンメイドみたいに食事を作るなんてやっぱりおかしいわよね」


 そう言えば、乙女ゲームには手作りのお菓子や料理を振舞うイベントはなかったな。

 マリアナ様はケーキを一切れぺろりと食べきってしまうと、次のお菓子をお皿に取る。


「ちょっと甘さが足りないわね。あたしはもっと甘い方が好きなの、覚えておいて」


 覚えておいてと言われても、だれもマリアナ様の為に作っているわけではないし、こんな態度を取られて今後作りたいとも思わないだろう。


「それにしてもちょうどよかったわ、動き回って小腹が空いてたのよね。あ、飲み物はないの? ……ったく、準備が悪いわね」


 飲み物がないと知ると、マリアナ様はわざとらしいため息を吐き出す。


「まあ、いいわ。今日は機嫌がいいから許してあげる」


 許してあげるって、だから、誰もマリアナ様の為にお菓子を用意しているわけではないのだけれど。


「あたしってやっぱりヒロインなのよね。色々な部活に歓迎されちゃった」


 料理部のスペースに置かれている簡単なレシピの冊子を手に取って眺めるが、前世の記憶と照らし合わせても、そんなに作り方や材料に差があるようではなさそうだ。


「でもやっぱり引く手あまたっていうの? 一つの所に決めるのは、他の所に申し訳ないっていうか」


 寮の厨房は生徒が借りることが出来るのだろうか?

 乙女ゲームにはそこまで設定していなかったから、聞いてみないとわからない。


「マネージャーっていう手もあるけど、それじゃものたりないじゃない? それに、やっぱりそうじゃなくって、あたしと一緒に部活動をしたいと思われてるみたいだし」


 しかし、この世界に転生してから料理なんてものはしたことがないし、最初から自分で作るよりも、やはり料理部に入ってちゃんと初めからやった方がいいだろうか。


「モテるってつらいわぁ。まあ、あんたにはわからないだろうけどねぇ」


 ミッシェル様の好物が乙女ゲームの設定と変わっていないことは確認済みだし、郊外デートやお部屋でのお茶会の際に、わたくしが作ったものを食べてもらえると嬉しい。


「ちょっと、聞いてるの?」

「え、わたくしに話していらっしゃいましたの?」

「他に誰が居るっていうのよ!」

「てっきり大きな独り言かと思っておりましたわ」

「はあ?」

「では、わたくしは次のスペースに行きますので失礼しますわね」

「ちょっとっ!」

「まだ何か?」

「あんたにイイ役柄を上げるわ」

「役柄ですか?」


 コテリと首を傾げる。


「あたしを引きたてる悪役令嬢の役よ! あーもう、役立たずにチャンスを与えてあげるなんて、あたしってばなんて優しいのかしら」

「悪役、令嬢……ですか?」

「そうよ!」


 胸を張るマリアナ様にわたくしをはじめとして、周囲の生徒は困惑した表情を浮かべる。

 この世界に悪役令嬢なんていう単語は存在しない。

 言葉から何となく意味は想像できるだろうが、公爵令嬢に向かって男爵令嬢が言っていいような言葉ではないと思ってしまうだろう。


「念のためお聞きしますが」

「なによ」

「悪役令嬢とはなんですか?」

「はあ? そんな事もわからないの? ほんと役立たずね。いい、あんたはあたしを引き立てるために、最後は婚約破棄されて誰からも見捨てられて惨めな結末を迎えるの」

「婚約破棄、ですか?」

「そうよ、そしてあたしは王子達と幸せに暮らすの」

「あの、わたくしの婚約者は王子方ではないのですが」

「だからなに?」

「マリアナ様はミッシェル様の婚約者の座を狙っておりますの?」

「あんなモブどうでもいいわよ」

「それなのに、婚約破棄、ですか?」

「そうだっていってるでしょ、頭悪いわね!」


 いや、頭が悪いのはそっちでは?


「あんたはあたしの踏み台になるのよ」

「……まあ、夢を見るだけなら勝手に、と言いたいのですが、わたくしも体裁というものがございますので」

「なによ」

「理不尽なことを、格下の者からされて黙っているほどお人好しではありませんの」

「だからなによ」

「つまり、痛い目に遭いたくなければ、身の丈に合った行動をなさってください、という事ですわね」

「……あ、ああ! そういうことね。なんだ、やればできるじゃないの!」

「はい?」

「そうよ、その調子でせいぜい悪役令嬢してよね、そうすれば役立たずから、愚図に格上げしてあげるわよ」


 そう言うと、マリアナ様はお皿を適当にテーブルに置いて、機嫌がよさそうに立ち去って行った。


「……わたくしの言った意味、通じてませんわね」


 ため息と共にそう呟けば、同情したような視線が向けられた。

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