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入学式パーティー9(ゼシュティア視点)

「ゼシュティア様っ」

「……ああ、もう解放されたのか」


 ダンスが終わったタイミングで声をかけられて、振り返るとそこには無礼な男爵令嬢が居た。


「あたしとダンスを踊ってもらえませんか?」

「断る」

「え、なんで?」

「何でと言われれば、逆になぜ私が男爵令嬢如きとダンスを踊らなければいけない?」

「それは、あたしがゼシュティア様にとって大切な人になるからです」

「くだらないな」


 男爵令嬢など、側室にするにしても身分が低すぎる。

 それにこの男爵令嬢は庶子だとも聞く。

 母親の家の後ろ盾も無く、父親の家の後ろ盾だけ、しかも男爵家。

 話にならないな。

 男爵令嬢を無視して他の令嬢の手を取ると、横から手が伸びて来て、その令嬢が押し倒された。


「ちょっと、ゼシュティア様に気安く触らないでよ!」

「な、なにをするのですかっ」

「ふんっ、身の程知らずにもあたしの前でゼシュティア様とダンスをしようとするのが悪いのよ」


 呆れたものだ。

 今この男爵令嬢が突き飛ばしたのは伯爵令嬢だぞ。

 私にダンスを願い出ることが出来る、ぎりぎりの爵位の後ろ盾を持っている令嬢だ。

 身分制度のしっかりしているこの学園で、自分がどれほど愚かな行動をしているのかわかってないのだろう。

 これがもしメレディスにしていたら、私は今この場でこの令嬢を手打ちにしていたかもしれないな。

 メレディスにはミッシェルが居る。

 それはずっと前から変わらない、わかり切った事だ。

 それでも、メレディスが私にとって特別な女である事に変わりはない。

 ダンバートや、ナティコトにとってもそうだろう。

 つかず離れず、そんな距離感を保ちながらも、メレディスは器用に私達の心の中に触れてくる。

 私達の一部はメレディスによって作られていると言ってもいいのかもしれない。


「ゼシュティア様、こんな人放っておいて、あたしと踊ってください」


 にっこりと微笑んで差し出された手に思わず吐き気がしてしまいそうだ。

 薄っぺらい、表面だけを取り繕ったものだとわかってしまう。

 この女が見ているのは、私ではなく、私の容姿や地位だ。

 確かに私は王太子の座に一番近いと言われているが、確実なものではない。

 万が一ダンバートの体が治れば、一気に王太子候補に名前が上がる。

 あいつの母親は第一妃だからな。

 それにナティコトも油断できない。

 本人はそのつもりはないようだが、周囲は黙っていないだろう。

 あいつの母親の実家は野心家で有名だ、自分の親戚から王太子ひいては国王を出したいと思っていても不思議ではない。

 だから、私は父を含めて兄弟を殺してでも自分の地位を確かなものにしなければいけない。

 こんな愚かな小娘に構っている暇はない。


「この私に手を差し出すとはいい度胸だな」

「え?」

「この学園で最も身分の低い男爵令嬢が、第一王子の私にダンスの申し込みだと?」

「……あ、えっと、ゼシュティア様があたしを信用できないっていうのは、今は仕方がないですけど、その、大丈夫ですよ。あたしはちゃんとわかってますから」

「なんのことだ?」

「ゼシュティア様のお母さんのせいで他人を信用してないんですよね」

「どういうことだ」

「あたしなら、ゼシュティア様の事を救ってあげられます! お母さんの呪縛から救ってあげることが出来ますよ!」


 自分に絶対的な自信を持っている者の瞳。

 だが、どろどろと濁っていて醜いな。


「貴様如きに何がわかる」

「わかってますよ、あたしはぜーんぶ」

「そうか、なら私が今言いたいこともわかっているな?」

「……もちろん! その言葉、待ってたんです! 『大切な物がない世界なんて、つまらない』ですよね!」

「違うな」

「え?」

「今私が言いたいことは、失せろ、だ」

「そんな、シナリオと違う……」

「何のシナリオかは知らないが、くだらないものに私を巻き込むな」

「おかしいわ、こんなの……変よ」

「変なのはお前だ。身分制度のあるこの学園で自分の身分を考えずに、上位者に近づこうなんて、無礼すぎて笑えるな」

「こんなの絶対に認めないわ! 絶対にシナリオに戻してやるんだから!」


 男爵令嬢はそう言うと、私を睨みつけた後に立ち去って行った。

 まったく、無礼にもほどがあるな。

 あのような女が、この学園に存在しているだけで有害なのではないか?

 私や他の王子達は寮が別だし学年も違う者もいるが、メレディスは同じ女子寮で学年も同じだ。

 メレディスもあの男爵令嬢を避けているようではあるが、絡まれる機会は多いかもしれない。

 そう考えると、早めにあの男爵令嬢をこの学園から排除してしまった方がいいのではないか?


『わたくしの事が信用できないのでしょう? そんなもの、わたくしはこれっぽっちも気にしませんわ。それがゼシュティア様の王の器なのでしたら、無理に変えてしまう方がおかしいでしょう』


 堂々とそう言ったメレディスの言葉が今でも忘れられない。

 私が母から受けた影響は今でも根強く残っているが、それでもメレディスは私にとっては特別だ。

 他人を信用できない私が、それでも僅かにでも希望を持てる人間だ。

 本当に、なぜメレディスが王妃候補ではないのだろうか。

 血が近いから、それは間違いないだろう。

 メレディスの子供が女児であって、年齢が合えばその子供が次の王妃候補になるだろう。

 それが私の子供とであればいいが、他の王子の子供だとしたら、……気に入らないな。

 まったく、世の中はままならないことばかりだな。

 別に、今の王妃候補の令嬢が気に入らないわけではないが、どうしたってメレディスと比べてしまう。

 メレディスは完璧だ。

 信頼も、能力も問題ない。

 まったく、それなのになんで従姉妹と言うだけで、王妃候補から外れるのだろうか。

 まあ、今更言っても仕方がないだろう。

 どんな手を使ったとしても、メレディスが王妃候補に名を連ねることはないし、メレディスの愛する者はミッシェルだからな。

 まったく、メレディスはいつからあんなにミッシェルの事を愛するようになったのだろう。

 私が気が付いた時には、もうミッシェルの事を愛していたからな。

 そんな事を考えながら、何事もなかったように、次のダンス相手を見繕って踊り始める。

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