入学式パーティー1
煌びやかに飾られた講堂では、入学祝のパーティーが開かれている。
乙女ゲームではここからが本番スタートとなり、メインストーリーが始まっていく。
もちろん初のガチャイベントでもあり、出現したキャラのレア度によってイベント内容が少しずつ変わってくるのだが、そもそもプロローグである入学式前に、攻略対象との出会いをうまくこなせなかったマリアナ様がこの入学式パーティーイベントをこなせるとは思えない。
「メレディス、新入生代表挨拶お疲れ様」
「ミッシェル様。まったく家の序列から言ってわたくしが行いましたけれども、成績順で言えばミッシェル様がなさってもよろしいのに」
「そうかな? クラス分けの為にある入学試験の結果はクラス分けでしかわからないけど、メレディスだって上位だったと思うけどね」
「そうでしょうか?」
「そうだよ」
ミッシェル様の言葉にわたくしは多少納得できないまま、腰に手を当てられて、そのまま軽食コーナーへと向かう。
軽食コーナーはサンドイッチなどの軽くつまめるものが多く配置されているけれど、祝い事だからだろうか、ケーキ類も豊富に並べられている。
ケーキコーナーの前にはナティコト様が居り、給仕の者に指示をして様々な種類のケーキをお皿の上に盛り付けさせている。
相変わらずの甘党のようだ。
「わたくしはあんなに量を頂きませんわよ?」
「そうだね、メレディスはむしろ小食だよね」
クスリと微笑まれて、わたくしとミッシェル様は軽食コーナーの給仕に食べたい物と量を指定してお皿に盛らせていく。
今いる場所は上位貴族もしくは王族用の軽食コーナーになっている為、下位貴族であるマリアナ様は来ることが出来ない。
入学式が始まるまで、談話室で他の令嬢と話したり、お茶会を開いたりして入手した情報によると、マリアナ様は毎日学舎にいって探し人をしているようにうろつきまわっているらしい。
だが、基本的に動きがランダムな攻略対象に会えるわけもなく、イライラとした様子で寮に帰ってくる日々が続いているそうだ。
同室の男爵令嬢はそんなマリアナ様が問題行動を起こさないように目を光らせているらしい。
目を離すと分不相応な席に座ろうとするので、寮内ではそれを止めるのに必死らしいし、この学園の規則を毎日のように口酸っぱく話しているらしい。
効果は今の所お察しと言う感じだろう。
給仕から料理の盛りつけられたお皿を受け取り、近くにある休憩スペースで仲良く食事をしていると、不意に手元に影が差し、何事かと見ると、そこにはマリアナ様がいた。
高位貴族・王族用のスペースに男爵令嬢がいるなんて、入学式パーティーが始まる前にもちゃんと軽食スペースの利用者制限については説明されていたはずなのに、聞いていなかったのだろうか?
「ひどいわ!」
「急にこんなところで大声を出してなんだと言うのですか?」
「この間のお茶会にあたしを誘ってくれないなんて! あんまりじゃない!」
「お茶会ですか? あれはわたくしにお手紙や贈り物をなさった方へのお礼を兼ねての物でしたので、特にそう言った物を下さらなかったマリアナ様をお誘いしなかっただけでしてよ」
「そんなの差別よ! 皆が楽しそうにお茶会の話をして、それに付いていけなかったあたしの惨めさが、わかるっていうの!?」
「どのようにおっしゃられましても、趣旨とは反する方をお招きするのはどうかと思いますのよ」
「どこまでも役立たずね!」
その言葉にわたくしが何かを言う前に、隣に座っていたミッシェル様が機嫌の悪そうな声を出す。
「君、さっきから聞いていれば、公爵令嬢であるメレディスに対して随分と失礼なことを言うね」
「モブは黙ってなさいよ! って、メレディスの婚約者? 相手に無視されまくってる不遇キャラのくせに何仲良く食事してるわけ?」
「挙句の果てにメレディスを呼び捨てね。君の実家は随分な教育不足の令嬢を学園に送り込んだようだね。僕とメレディスの仲の良さは上位貴族なら誰だって知っているよ」
「そんなわけないでしょう。あんたはメレディスに後回しに扱われてる不憫キャラなのよ!」
「わたくしがミッシェル様を後回しにするようなことはございませんわ」
「はあ? ほんとになんなのこのバグ女。何のとりえもないんだから、あたしの役に立つぐらいの事をしなさいよね」
「メレディスは取柄ばかりだと思うよ」
「ありがとうございます、ミッシェル様。そう言っていただけると、婚約者としてほっといたしますわ」
「僕は真実を言っているだけだよ」
「まあ」
その言葉に僅かに頬に熱が集まってしまう。
こんな献身的なミッシェル様を放置するなんて、乙女ゲームの仕様上、仕方がないとはいえ、本当に乙女ゲームの中のメレディスはどうかしていたとしか思えない。
「あんた達のイチャイチャを見に来たんじゃないのよ! ほら、早く今からでもいいから王子達をあたしに紹介しなさいよ。イベントが出来ないじゃない」
「何度も申しましたが、わたくしがマリアナ様に王子方を紹介する意味も義理もございませんわ」
「あーもうっ! ごたごた言ってるんじゃないわよ! あんたはヒロインのあたしの役に立つしか能がないんだから、ちゃんと働きなさいよね!」
「わたくしはマリアナ様の為に存在しているわけではございませんの。勘違いをなさらないでいただけますか?」
「はあ? ふざけないでよ!」
「ふざけているのは……」
そこで不自然にわたくしの声が途切れてしまう。
不機嫌な様子を隠しもしない攻略対象達が、揃ってこちらに向かってきているからだ。
わたくしが言葉を途切れさせて、マリアナ様の背後に注目していることに気が付いたのか、マリアナ様が振り返ると、先ほどまでの鬼のような顔は何処へやら、ヒロインらしい愛らしい表情を作っている。
女って怖い。
「あ、皆様お揃いなんですね。ふふ、そんな怖い顔しちゃってどうしちゃったんですか? せっかくのパーティーなんだし楽しみましょうよ」
上機嫌で態度も口調も変えて言うマリアナ様にはいっそ感心してしまうけれども、先ほどまで大声でわたくしやミッシェル様にあのような口をきいていたのは、恐らく皆様聞いていただろう。
「そうだ、聞いてください。メレディス様ってば酷いんですよ。あたしを仲間外れにして、自分だけ楽しいお茶会を開いてたんです。あたしが男爵家の庶子だからってバカにしてるんですよ」
「それに何か問題がありますか?」
「え?」
シルバーン様の言葉にマリアナ様が目を瞬かせて首を傾げた。




