今後への不安
「先ほどの女生徒ですが、入寮初日ということもあり、減点処置に留めておきました。もっとも、このスピードで減点が続くようでは、本当に反省室に行くことになると思います」
「そうですか。フリッカ様も気苦労しそうですわね」
「すぐに同室の女生徒が頭を下げながら食事の席に引きずっていきましたので、特段騒ぎが続くという事はありませんでした」
「同室の方も大変ですわね」
「本当に」
フリッカ様はため息を吐き出すと、魔法を発動する際に使用する扇子を取り出す。
「それで、こちらが本題なのですが、メレディス様宛にプレゼントを預かっているのですが、お渡ししてもよろしいですか?」
「ええ、よろしいですわ」
わたくしがそう言うと、フリッカ様が扇子を振り、空間圧縮魔法で収納していたプレゼントをローテーブルの上に出現させる。
主に手紙、それに花束がメインだが、購買部で買ったと思われるお菓子も混ざっている。
「皆様、行動が早いですわね」
「身分制度がしっかりしているとはいえ、何かの機会に目にかけてもらえるかもしれないと言う淡い期待もあるのでしょう。それに、元からお知り合いの方々からのお手紙もあります」
「そのようですわね」
わたくしは手紙の差出人を確認しながらそう頷く。
明日はミッシェル様と今日行かなかった施設の見学に行く約束をしているが、入寮した記念のお茶会を入学式が始まる前に行うのもいいかもしれない。
「わざわざありがとうございました。お手間をかけてしまいましたね」
「いえ、これも寮長としての仕事の一つですから、お気になさらないでください」
「来年、わたくしが寮長になったら色々と大変な思いをしそうですわね」
「そうでしょうね」
今年は新入生という事で寮長にはならなかったが、序列が一番上になっているわたくしが次の女子寮の寮長になる事は、ほぼ確定している。
ちなみに、今年の男子寮の寮長はシルバーン様だ。
王族の公務と寮長の仕事が重なってしまう可能性があるから、王族は基本的に寮長にはならない。
そうでなくても、第一王子から第三王子までが通っている状態、王族が寮長になるともなれば誰の派閥につくかで寮内が荒れてしまう可能性もある。
よって、様々な理由から王族は伝統的に寮長にはならないようになっているのだ。
もちろん、他に適任が居ないからと寮長になった王族も過去に居ないわけでもないが、本当に数少ない例外と言っていいだろう。
わたくしのお母様は確かに元王女だが、既に降嫁しているため、わたくしは王族の括りには入っていない。
まあ、血統だけはいいので、もしかしたらわたくしとミッシェル様の間に女児が生まれた際は、年齢が合えば王妃候補として名を連ねるかもしれない。
「それでは、私はこれで失礼します」
「ええ、ご苦労様でした」
フリッカ様が部屋を出て行ってから、部屋のドアにしっかり鍵をかけると、改めてテーブルの上に積みあがった手紙や花、贈り物の山を見る。
手紙の内容をざっと読んでいくが、基本的には寮生活を共に出来ることが嬉しいと言うものだが、中には告白めいたものまである。
乙女ゲームの設定上、メレディスは女生徒の信頼が厚いというものがあるが、しっかりと反映されているらしい。
それが好意と言うには行き過ぎているものになっている例もあるが、まあこのぐらいならば許容範囲だ。
顔見知りの令嬢からの手紙や贈り物と、そうでない令嬢との物に分けてから、返事やお礼状を書く作業に入る。
入浴予定の時間までそれを続け、書き終わったものを空間圧縮魔法で収納すると、お風呂の準備にかかる。
お風呂は実家から運び込んだマジックアイテムになっていて、蛇口をひねればどこからともなく適温のお湯が出て来て、湯船に溜まっている間にその温度が下がるという事も無い。
非常に高価なマジックアイテムではあるが、公爵家としてはこのぐらいの出費は痛手にはならない。
あっという間に湯船にお湯がたまっていくのを見て、脱衣所に戻って着ている服を脱いでいく。
洗濯籠に服を放り込んでいる頃には湯船にお湯がたまっているので、脱衣所の棚に置いてある香油の瓶を手に取ると、湯船に行って数滴たらしてから浴槽の縁に瓶を置いてかけ湯をして体と髪を洗ってから湯船に入る。
「ふう」
温かいお湯に思わず息が零れ、香油の柔らかい花の香りが体に馴染んでいく気がする。
公爵家で過ごしていた際は、入浴後はメイドが保湿効果のあるクリームを塗り込んでくれるのだが、寮では自分でするしかない。
その事を考えると今から憂鬱だが、スキンケアを怠ってミッシェル様にがっかりされては元も子もないので、こればかりは慣れるしかないか、メイド代わりの寮生を捕まえるしかない。
先ほど手紙をもらった寮生の中から見繕ってもいいだろう。
来年は寮長になるのだから、副寮長となる片腕も探さなくてはいけない。
わたくしとて暇ではないので、やはり乙女ゲームになど関わる暇などないだろう。
じっくりとお湯につかって体を温めてから浴槽から上がり香油の瓶を手に脱衣所に戻る。
その際に浴槽の栓を抜いておくのも忘れない。
香油の瓶を棚に戻してからバスタオルで体の水気を吸い取ると、バスタオルを洗濯籠に放り込んでバスローブを羽織って部屋に戻る。
部屋の一人掛け用のソファーに座って扇子を持って振り、保湿クリームやスキンケア用品を取り出すと、自分の肌の手入れをしていく。
前世では当たり前のようにやっていたことだが、この世界で『してもらう』事に慣れてしまっているので、未だに少々手元がおぼつかない。
それでもなんとかスキンケアを終えて、バスローブを脱ぐとネグリジェに着替えて、グッと背伸びをする。
今日は結局乙女ゲームのプロローグをヒロイン抜きで行ってしまったようなものになってしまった。
世界の強制力と言うものはやはり侮れないのかもしれない。
ヒロインも転生者であるし、乙女ゲームの舞台になっている学園生活は思った以上に大変になりそうだ。




