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学園で初めての夕食

 夕食の時間が近づいてきて、名残惜しい気分を引きずりながら女子寮に戻ると、自室に戻る途中に通りかかる談話室が少々騒がしかった。

 何か起きたのかと少しだけ覗いてみると、マリアナ様が寮長に怒られている所だった。

 やはりわたくしの予想通りの行動をして苦情が入ったのだろうか?

 入寮早々に反省室行きになどなれば、女子寮の新記録を達成するかもしれない。

 わたくしが中に入って事を大きくするのも面倒なので、そのまま顔を引っ込めて自室に戻る。

 部屋に戻って、改めて授業で使うことになる教科書などを眺めて夕食までのわずかな時間をつぶすと、部屋に置いた時計を確認して寮の食堂に向かう。

 規則と言うわけではないが、平日は朝食から夕食までの間は制服で過ごすことが普通とされている。

 この学園では学年によって制服の色が変わるという事はないので、一目で自分と同学年なのか違うのかを見破るのは見た目に頼るしかない。

 それでも、上位貴族の令嬢とは一通り面識がある為、わたくしは入寮したてではあるけれども堂々と上座の席に座った。

 座るとすぐにキッチンメイドが本日の夕食のメニューを差し出してきたので、その中から食べたいものと量の指定をしてメニューを返す。

 向かいの席には寮長である三年の侯爵令嬢が座っている。


「ごきげんよう、メレディス様。入寮おめでとうございます」

「ごきげんよう、フリッカ様。本日よりどうぞよろしくお願いいたします」

「私が一応寮長を務めておりますが、メレディス様が入寮なさったとなれば、この寮で一番地位が高いのはメレディス様になりますね」

「王子方がいらっしゃるので、流石に学園で一番というわけにはまいりませんけれどもね」

「正直、メレディス様がいらっしゃってほっとしています」

「ふふ、苦労なさっているようですわね」

「寮長になった時に覚悟はしておりましたが、流石にこれだけ自国と隣国の王子がおりますと、気を使ってしまいますね。早々に問題を起こす女生徒も居ますし」

「問題ですか?」

「ええ、なんでも分不相応にも関わらず、王子様達に接触を試みた男爵令嬢が居りまして」

「あらまあ、それは大変ですわね」

「せめて、伯爵家の方の令嬢でしたらまだましだったのかもしれないのですが、男爵令嬢でしょう? 本来なら王子様達と話をするのもおかしいと申しますのに、それぞれの王子様達より自分の時間を過ごしているのを邪魔されたと、苦情を頂きました」

「わたくしも本日王子方にはご挨拶いたしましたが、皆様癖のある方々ですものね」

「自国の王子様達だけでも十分ですのに、今は隣国の王子様達もいらっしゃいますでしょう? 前寮長も相当気疲れしていたようです」


 その言葉に苦笑してしまう。

 ゼシュティア様が入学した時点で、この学園には王族が通っているという事になるので、身分制度がしっかりしているこの学園では、他の生徒はさぞかし気を使ってしまっていることだろう。

 長期休暇の際などは実家に帰ることもあるし、その時にお茶会やそのほかの催し物で会う事もあったが、学園生活について深く語られたことはないし、わたくしの方から深く聞いたこともない。

 乙女ゲームのシナリオ的になら、彼らがヒロインが入学するまでにどのような学生生活を送っているのか知っているが、規則の戻った学園で彼らがどのような学園生活を送っているのか、詳しく聞いて乙女ゲームに巻き込まれるつもりも無かったし、なにより聞くことに意味があるとは思えなかったからだ。

 もちろん、話のきっかけとして軽く聞いたことはあるし、相手から話をされたこともある。

 まったくの無知と言うわけではないけれど、そこまで詳しいわけじゃない。

 もうこの時点で、乙女ゲームに登場するお助けキャラの役割の一つである、ヒロインに攻略対象の情報や攻略のアドバイスをするという事は無理だろう。

 今日のように世界の強制力は働くかもしれないが、基本的に規則が変わって付き合う生徒も変わっている彼らの行動も変わっているはずだ。

 話をしていると、女子寮の食堂付きのキッチンメイドが食事をテーブルの上に置いてくれる。

 購買では自分でものを購入するし、部屋では自分でお茶を淹れることもあるが、食堂や談話室では基本的にメイドがその作業を担ってくれることになっている。

 ほんの数年前までは食堂の食事も自分で取るように規則を変更していたらしいが、身分制度が戻ったため、寮の仕様も元に戻された。

 身分に捕らわれないという校則だった時はバイキング形式だったのだが、栄養バランスの面も考えて撤廃された。

 乙女ゲームの好感度上げの選択肢には、食べた物を尋ねられるものもあるのだが、バイキング形式ではなくなったのでそのような会話が出ても選択肢が変わってくるだろう。

 食事を始めてしまえば自然とフリッカ様との会話も途切れ、お互いに黙って料理を口に運んでいく。


「ちょっと、なんでこんな端の席に座らないといけないのよ、あっちだって空いてるじゃない」

「いいから黙って座って頂戴。男爵令嬢である私達があんな上座に座るなんて出来るわけがないでしょう」


 賑やかな声を上げてマリアナ様が文句を言うのを、わたくしが知らない女生徒が咎めている。

 マリアナ様の同室の生徒だろうか?


「はあ」


 向かいの席でフリッカ様がため息を吐き出す。


「確か、マリアナ様でしたわね。談話室でフリッカ様に注意を受けている所をおみかけしましたが、彼女が例の?」

「そうです。そういえば、メレディス様も入寮してすぐに談話室に呼び出されたと聞きましたね」

「呼び出されたと言いますか、入寮早々に初対面で部屋に入れろと言われたので、話があるのなら談話室で聞くと妥協したのですわ」

「公爵令嬢の部屋に初対面の男爵令嬢が突撃……、彼女はどうにもこの学園の規則を理解していないようですね」

「そうですわね、数年前に撤廃された校則の事も話していましたし、知識が偏っているようですわね」

「ああ、あの身分に捕らわれないという校則ですか。今も続いていたらと思うとぞっとしてしまいますね」

「そうですわね」


 乙女ゲームを避けたいのに、わざわざ舞台を用意してやるつもりはない。

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