攻略対象に会ってしまう5
飛行訓練場では隣国の第二王子のアルフォンス様と遭遇する。
第二王子ではあるけれども年齢はベリランブル様と同じで、母親は王妃と王位継承権は実際にはベリランブル様より高いのだが、ベリランブル様の母親が亡くなったことでベリランブル様が御輿に担がれ王位継承権争いに介入してきたため、政治的抗争問題から避難するために兄と同じくこの国に留学してきている。
幼いころに暗殺されかけたことがあり、それが実はベリランブル様の母方の身内が差し向けたという事もあり、他人、特にベリランブル様を信用せずに敵視している。
わたくしとは同じ時期に暗殺者を向けられたもの同士という事で、それなりに親しくしているけれども、それでも成長したアルフォンス様の内面に立ち入れているかと言えばそんなことはない。
わたくしにすら自分の内面を見せることが出来ないことをこの国にやって来た時に言われ、わたくしはそれに別に構わないと答えた。
別に、わたくしとアルフォンス様ははとこという血縁関係はあれども、婚約者でもなければずっと親しくしている友人と言うわけでもない。
ヒロインがアルフォンス様を攻略する際は、どうやってアルフォンス様の信用を勝ち取るかがカギになってくるのだが、わたくしはそもそもそんなものを勝ち取るつもりはない。
今の距離感がアルフォンス様とわたくしの適正なものなら、それが一番正しいのだから、無理に変えることはないと伝えた。
それが逆によかったのかもしれないが、アルフォンス様はわたくしを拒絶するという事はない。
そもそも、一見人当たりはよさそうに振舞っているのだ。
ミッシェル様と一緒に飛行訓練場に行くと、ちょうど休憩に入るところなのか、空から箒に乗ったアルフォンス様がおりてくる所だった。
「やあ、メレディス。入学おめでとう、その制服姿も似合っているよ」
「ありがとうございます、アルフォンス様」
「ここに来たという事は飛行部に入部希望かな?」
「いいえ、残念ながら純粋に見学に来ただけでしてよ」
「そうか、それは残念だ。吾もメレディスが入部すれば張り切りがいがあるのだけれどな」
「お世辞は間に合っておりますわ」
苦笑して言えば、それ以上追及してくることもなく、アルフォンス様は今しがたまで使用していた箒を撫でる。
「空はいい」
「そうですわね」
「裏切る時もあるが、おおむね吾を受け入れてくれる」
「さようですか」
「メレディスは空が好きか?」
「そうですわね……。薄雲のかかった本日のような穏やかな春の空は好きですわ」
「では、今度厚く雲のかかった嵐の夜に飛行に誘う事にしようか」
「あら、婚約者の目の前でデートのお誘いでして? もちろんお断りさせていただきますわ」
「婚約者? ……ああ、すまないね。気が付かなかったよ」
「今に始まったことではありませんので、気にしていませんよ」
「そう、ならよかったよ。君も入学したんだね」
「はい」
「これからは同じ学園に通う者としてよろしく頼むよ」
「勿体ないお言葉です」
「メレディス、何か困ったことがあったら先輩である吾にちゃんと頼るんだよ」
「頭の片隅で覚えておきますわね。アルフォンス様に借りを作ったら後が恐ろしそうですもの」
「はは、酷いな」
クスリとアルフォンス様は面白そうに笑うと、そう言えば、と今度は唇を歪めて笑う。
「さっきここに新入生だと思われる女生徒が来たよ」
「あら、そうなのですか? わたくし達と同じように学園内を見学しているのかもしれませんわね」
「キョロキョロしていたからそうかもしれないけど、うちの部員が声をかけたら『なんでもないです』と言って、そっけない態度を取られてしまったそうだよ」
「そうですか」
「でも不思議な事に、しばらくそのままキョロキョロとして、がっかりと肩を落としたように飛行訓練場から出て行ったんだ」
「がっかりしたようにですか? 何か目的が……あったのでしょうね」
話されて思い浮かんだのがマリアナ様だった。
わたくしというきっかけを失ったとはいえ、該当の場所に行けば当たり前のように攻略対象と遭遇して、仲良く話が出来ると思ったのかもしれない。
幸いな事にすれ違いはしなかったけれども、他の場所にも同じように行っているのだとしたら、今頃女子寮の寮長あたりに苦情がいっているかもしれない。
「それにしても、同じ制服でも中身が違うと本当に別物に見える物だな」
「そうでしょうか?」
「あの女生徒の物は若干サイズが合っていないように見えた、仕立てがきちんとされていないのだろうな。その事を考えると下位貴族の令嬢だろう」
「まあ、下位貴族から王族まで通っておりますものね」
「数年前までは身分に捕らわれずに交流するという教育方針だったようだけど、今は元に戻って本当によかったと思っているよ。下位貴族の子女にまで気を遣うのは疲れてしまう」
「わたくし、アルフォンス様のそういう猫かぶりなところ、すごいと思いますわ」
「処世術だよ」
アルフォンス様はそう言うと練習に戻ると言って、箒にまたがると手を振って空に飛んで行ってしまった。
本当に空が好きなのだろう。
飛び立つ瞬間、かつて見た子供の頃のようなすがすがしい笑顔をしていた。
目ぼしいところ、というか乙女ゲームのプロローグで回るべきところを回り終えたので、わたくしとミッシェル様は男子寮に戻って休むことにした。
途中、購買で簡単につまめるものを購入し、飲み物も購入しておいたので、今度はミッシェル様が手ずからお茶を淹れる必要はない。
ミッシェル様の部屋に戻ると、先ほどのように並んでソファーに座り、購入して来たお菓子を食べて飲み物を飲む。
「改めて、貴族や王族が通う学園なだけあって、広いのですね」
「僕達がまだ使用する予定のないところは回ってないし、まだまだ施設はあるからね」
「講堂や食堂、聖堂はまた明日にでもご案内いただけますか?」
「もちろん、喜んで」
ミッシェル様はそう言って微笑むと、「それにしても」と話を切り出す。
「改めてメレディスの顔の広さには驚かされるよ」
「本日遭遇した方の大半が血縁者ですけれどもね」
「ふふ、我が国の王族の従姉妹で、隣国の王族のはとこが僕の婚約者なんて、本当に僕は果報者だよ。しかも、愛されているんだしね」
「あら、わたくしだけがミッシェル様を愛しておりますの?」
「もちろん、僕だってメレディスを愛しているよ」
ミッシェル様はそう言うとわたくしの髪を一房とってそれに口づける。
その様子に心臓がドキドキとしてしまうけれども、ミッシェル様のこういった愛情表現は今に始まったことではないので慣れなければいけないのかもしれない。
「婚姻するまでに、ミッシェル様の愛情表現に慣れることが出来るでしょうか? このままではわたくしの心臓が持ちませんわ」
「いっぱいすれば慣れるかな?」
そう言って悪戯っぽく笑ったミッシェル様が、わたくしの髪を手放すとその指をわたくしの顎に当ててわずかに上を向かせる。
抵抗せずに目を閉じれば、そっと口づけられて首筋を撫でられる。
ぞくぞくとした感覚を感じてしまうけれども、嫌なものではないし、前世の知識からこれが快感だという事もわかる。
何度かバードキスをされて、唇へのキスが終わると今度は唇が首筋に下りて行って襟元をずらされてそこにキスをされる。
「愛してるよ」
「わたくしもですわ」
そう言い合って、顔を上げたミッシェル様と目を開けたわたくしは見つめ合って微笑みあった後、もう一度唇を重ねた。




