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refrain  作者: 水幸
第十章 アストリア
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第44話

 アストリアの城が十二の塔と共に在るのは、世間に周知された事実である。

 海を背にした王城を囲み、回廊で繋がり合った六の巨大な塔。また、その各塔に付随する、やや小作りな六の副塔。二種十二基の建造物は無論ただのお飾りというわけではない。大きな塔はそれぞれ医師や魔術師の研究所、騎士団の本部など国家運営において重要な役目を担う施設に充てられ、副塔は副塔でそれら施設を補うような使い方をされている。

 流石に各塔の機能までもがあまねく知れ渡っているわけではないが、ともあれ「アストリアの十二の塔」が城下の人々は勿論、城外の世界にも広く知られている存在であることは確かだった。


 その林立する塔たちを横目に、アルスは桃の手を引いて住宅街を抜けた先、王城の敷地の外れへ向かっていた。

 徒歩であり、子供連れであるためにそれなりに時間はかかったものの、幸い途中で厄介な衛兵や顔馴染みの者に行き会うこともなく、やがて二人は目的地へと辿り着いた。


 そこは王城の真裏にあたる場所だった。足下は岸壁で、目の前には暗灰色の海原が広がっている。転落防止の柵などはなく、何かの拍子に海に落ちればまず無事では済まないであろう。

 危険であるということ意外に取り立てて特徴がない場所柄、周囲に人はいなかった。城内の喧噪もここまでは届かない。


 不安そうにこちらを仰ぐ桃に微笑んで、アルスは空いている左手を宙に掲げた。

 虚空を掻いた指先に、馴染んだ痺れが走る。感知した魔力に自身の魔力を重ねると、目の前の空間が揺らぎ、一瞬の後、崖の先に乳白色に輝く架け橋が出現した。

 現れたのはそれだけではない。今にも海中に崩れ落ちそうな細い橋の先には、わずかな土地があり、塔があった。


 突如現れた塔をあっけにとられた様子で見上げていた桃が、突然慌てて背後を振り返ったかと思うと、また前方に視線を戻した。

 どうやら背後に立ち並ぶ塔と比較したようだ。

 想像していたより大仰な反応に微笑して、アルスも改めて目の前の塔を仰いだ。


 アストリアの城が十二の塔に囲まれていることは事実である。

 だが、正確にはアストリアの塔は十三あるのだ。

 他の十二の塔に比べても圧倒的に小さいこの塔の存在を知る者はそう多くない。

 それと言うのも、この十三番目の塔は機密というほど秘匿されているわけではないものの、公に存在を肯定されている存在でもないからだ。

 十三番目の塔は、通常肉眼で視認することは出来ない。今は塔を護る術にアルスが干渉しているため、こうして観測出来ているものの、二人で立つこの場所から少し離れればまた目の前の道ごと不可視の領域となる。よほど高位の魔術師でない限り、遠くからこの塔を望むことは不可能だろう。

 その上、他の塔のように城と回廊で直接繋がっているわけでもなく、王城と十三番目の塔を結ぶのは荷物をやりとりする運搬装置専用の細い地下道だけだった。そのため内部へ立ち入りたいと思うなら、この目の前の道を使うより他にない。


 十三番目の塔はアストリアの王城の一部でありながら、他のエリアとは明らかに性質を異にするものであり、それ故に多くの人々の認識の外に零れた場所だった。


「さあ、行こうか」


 アルスは塔に向かって歩き出した。

 大人二人がなんとか並べる程度の幅の架け橋は、いつもなら一人で渡るものだった。初めてここに迷い込んだ時も一人だったし、遠い昔、幾度かシトラスと共に訪れた数少ない例外はあれど、それ以外で他人を伴った記憶はない。


 けれど、今日は違う。


 右手が塞がる感覚はどこか懐かしかったが、肌に伝わるのは大人の硬い指先ではなく、小さな手のひらの温もりだった。

 視線を落とせば、黒い耳と桃色の髪が揺れている。

 しかし、表情は見えなかった。


「不安かい?」


 アルスの問いに桃はぱっと顔を上げてから、また少し俯き、ふるふると首を振った。「大丈夫です」とあまり大丈夫でなさそうな声が返ってくる。


「……心配要らないよ。君を恐ろしい目に遭わせたりはしないから」


 はい、と桃は小さく首肯した。それを見て大人だなと思いかけたアルスは、すぐにその印象を訂正した。


(……大人しい、と言うべきか)


 確か桃は今年で七歳になるはずだ。見た目は年相応だが、この年頃の少女にしては随分感情を抑えているように感じられた。諦観に似た受容を聞き分けの良さと受け取り、手放しにいい子だと喜べるほど、アルスは楽観的にはなれなかった。

 ただ、この大人しさもやはり、現在の状況にあっては仕方ない――というより当然のものかもしれない。


 杏里。

 彼女を早く見つけなくては。


 ククにはああ言ったものの、アルスもまた焦っていたし、それより強く後悔していた。こうなる前にいつでも彼女の居場所を特定出来るような策を講じていれば――そう昨日から何度思ったか分からない。


 だが、そうではない、とアルスはこれもまた改めて思い直した。

 アルスは杏里を信頼していた。かつて旅の仲間として彼女と共有した時間はおよそ一年程度のものではあったが、杏里の根の部分で優しい気性は嫌いでなかったし、何より杏里はアルスに対して過度な期待をしたり、失望したりしなかった。そうした居心地の良い距離感は旅が終わり、ごくたまにしか連絡を取り合わなくなっても変わらなかったし、むしろそうした関係になってより一層、杏里はアルスにとって親しい存在になっていった。

 だからこそ、その杏里が望まないであろう行いに及ぶ理由などなかった。

 彼女の行動を制限したり監視したりしていれば、確かに今の事態は防げたかもしれない。だが、それは少なくとも「友人」のすることではない。

 だから、今のこの状況に焦りを感じたとしても、あれこれと余計なことまで掘り返して後悔すべきではないと、本当はよく分かっていた。それが単なる時間の浪費だとも。

 今はただ、やるべきことをやるしかない。



 海を渡る橋はすぐに終わった。

 目前に迫った塔の壁面は常に潮風に晒されているのにも関わらず、まっさらに白く美しい。出入り口は一見存在しないが、アルスが外壁に触れると、壁の一部が音もなく地面に沈み込み、内部への通路が現れた。


 桃の手を引きながら、アルスは屋内に踏み込んだ。

 短い通路を進むとすぐに白銀の扉に行き当たったが、ほどなくしてそれがわずかに内側に開かれた。


 扉の向こうには、白いワンピース姿の魔女が立っていた。

 見目こそアルスと同年代、二十代後半くらいに見えるが、実際は遥かに年上である。いつも通り、長い青髪に魔力を帯びた髪飾りを付けている。


「やあ、リティア」


「……」


 きらめく水面のような瞳を瞬かせ、魔女がアルスを静かに見つめる。と、その視線がちらりと桃に移動して、再びアルスに戻された。

 そして、納得したのだろう。

 魔女は当たり前のように扉を閉めようとした。


「っと、話くらい聞いてくれてもいいんじゃないかな」


 アルスが慌てて扉を掴んでも、狭間から覗く冷ややかなまなざしは変わらなかった。


「嫌よ。私を隠し子騒動に巻き込まないで」


「そんなわけないって君はよく知ってるだろ」


 相手の力がわずかに緩んだのを見逃さず、アルスは素早く扉の内側に割り込んだ。

 勿論、桃を導くことも忘れない。


 文句をなみなみ湛えた瞳でこちらを睨む魔女――リスティアーナに、アルスは微笑んだ。


「君の素晴らしい良心に感謝するよ」


 柔和な顔立ちをしているリスティアーナは黙っていればそれなりに上品な女性に見えるのだが、しかしこの状況で彼女が黙っているわけなどなかった。


「あなたにも良心というものが存在するなら、今すぐ帰ってくれるかしら?」


「冷たいな。最近引きこもりがちだろ? 君だってたまには人と接した方がいいと思うよ」


「余計なお世話よ」


 吐き捨てたリスティアーナが、不意に桃を見下ろした。


「……あなた、体調は?」


「……? あの……」


「そう、別に問題ないのね」


 一方的に頷いた後、再び冷えた視線がアルスに向かった。


「いいわ、飲み物くらいは出してあげる。ちょうどいいお茶が出来たばかりなの」





「……で、お嬢さん。こちらの原材料は?」


 中央部を螺旋階段に貫かれた魔女の塔は、地上四階、地下一階の全五階層の住居になっている。二階の半分を占める開放的なリビングは塔の外殻や他の階層と同じ白壁で、王城と海側の両方に大きな窓が設けられていた。


 その一角、青いガラステーブルの上に置かれたティーカップの中身を見つめて、アルスは落胆と共に問いかけた。

 試しに軽く傾けてみても、カップの中のどす黒い液体はほとんど揺れることはない。液体、というより粘液のようだ。


「それ? 屋上に生えてた植物を煎じてみたの」


 向かいのソファに座ったリスティアーナは平然と答えて、自らは柔らかな湯気が立つ普通の紅茶に口を付けている。


「色々混ぜてたら、そんなに素敵な飲み物になったというわけ」


「で、君は飲んだのかな」


「冗談じゃないわ」


「だろうね」


 目にくる刺激臭に耐えかねて、アルスはカップを遠ざけた。まだ臭う。更に遠ざける。

 無意味な嫌がらせの首謀者は一連のアルスの行動をつまらなさそうに見守った後、「で、あれは?」と、これもまた気怠げな声音で尋ねてきた。


「彼女は友人の子供だよ」


 アルスは部屋の右手を見遣った。

 リビングと隣室を区切るガラス壁の向こうに、ダイニングチェアに座った桃の姿が見える。


「杏里……前に話したことがあると思うけど」


「そう」

 リスティアーナは驚かなかった。

「だけど子供は一人では作れないわ」


 驚かないのはいいとしても、もう少し言葉を選んでほしい。


「それは……」


「あなたじゃないことは分かってるわよ。あなたがあまり話題に上げたがらない人でしょう? 私のため、誰かのため……それ以上に、他ならぬあなた自身のためにね」


 アルスは溜め息を吐いた。


「話が早くて助かるけど、ここは空気を読んで手加減してくれてもいいんじゃないかな」


 難しいわね、とリスティアーナは短く言った。




 一連の事情を説明するのに大した時間はかからなかった。

 アルスが話をしている間ひたすら沈黙を守っていたリスティアーナは、すべてを聞き終えるとすぐに口を開いた。


「つまり、あの子は母親とはぐれてここまで来たってことね。例の父親については……」


「多分知らないと思う。桃は話題に出さないし、杏……彼女の母親も、あの子には話さないと言っていたから」


 その報告を聞いたのは随分前のことだったが、そう宣言した時の――生まれたばかりの桃を見つめる杏里の静かなまなざしを思い出すと、彼女の意思がそう簡単に覆るとは思えなかった。


 アルスが知る限り、杏里は桃を一人で育てようとしていた。

 それが彼女の選んだ道だった。


「だけど、あの子がこの塔に適応してるのは母親から受け継いだ才能ではないわよね」


 魔女に容赦はない。横目で桃に会話が聞こえていないことを確かめて、そうだね、とアルスは頷いた。


「それにしても、予想以上に早い順応だったな」


「あなたよりずっと魔術師の素質があるんじゃないかしら」


 口調こそ皮肉っぽいが、リスティアーナの瞳は真剣だった。

 彼女の豊かに波打つ長い髪と少々不健康に白い肌は、この塔に満ちる高濃度の魔力によって淡く光を纏っていた。

 魔力は大気中にごく当たり前に存在するものだが、度を超えて濃度が高まれば人体へ害を及ぼす毒へと変わる。だからそんな状況を人工的に作っているこの塔に、魔術的素養のない人間が長時間滞在するのはまず難しい。

 今でこそ違和感をまったく覚えないアルスとて、遠い昔、初めてこの塔に踏み入れた時には多少の目眩を感じたものだ。

 アルス自身の妙な感覚はほどなくして消えたものの、何度か一緒にここを訪れたことのあるシトラスはこの環境にちっとも馴染めないようで、あまり長居しないのが常だった。


 しかし、そんな人を選ぶ環境の中で、桃に一切変わった様子は見られなかった。

 今も大人しくしている姿が目に入るだけで顔色や表情におかしなところはない。もし表面化していないだけで何か異変があるのだとすれば、リスティアーナが早々に指摘しているだろうが、それもない。

 ということはつまり、彼女はこの塔に完全に適応しているということだ。


 状況を鑑みるに、やはり桃は特別な体質をしているようだ。

 未だいくらかの疑問は残っていたが、さておき少女の体調面の懸念も消えた今、アルスはとうとうここに来た主目的を切り出そうとした。


「あの子をここに置くのは嫌よ」


「……まだ何も言ってないんだけどな」


「言わなくたって想像つくわよ。大体よくもそんなはた迷惑なことを考えるわね。私がいいと言うとでも思ったの?」


「思ったよ」

 アルスは付け足した。

「今も思ってる」


「……どうして」


「君はとっても親切だから」


 リスティアーナは一瞬鼻白んだような表情になったが、次いで少し思案するように目を伏せた。


「……そうね、親切ついでに彼女を利用しても構わないなら考えてあげてもいいけど。あの子、素材としては優秀みたいだし、うまく育てれば陛下の護衛くらいにはなるかしら」


「それは出来ないな……と言うより、やめたほうがいいと思うよ。素養の有無を置いておくにしても、彼女の周囲……父親のこともある」


 桃の父親。――ライック。


 あの男が生きているかもしれないというククの意見には表面上反対したし、彼女ほど強くその可能性を視野に入れているわけでもない。

 だが、ククの言う通り、ライックが死んだという証左がないのも事実だった。

 七年前、クレストとライック、ユイージナという少女を呑み込んで崩壊したリバリティ城。その跡地をいくら探しても、彼の死を確定させるようなものは何も見つからなかった。人間の部位らしきものはいくつか出てきたが、いずれも損傷が激しくて結局誰のものかは分からずじまいだ。

 だからライックだけではなく、あの場で死んだ三人ともその死が確実なものであると言い切ることは出来なかった。


 しかし、今はそれらの事実についてあれこれ考えている場合ではない。とにかくリスティアーナを説得しなければ。


「それでなくとも、桃の事情がはっきりしない内に彼女の存在を公にしてしまえば、予期しない形で陛下に危険が迫る可能性もある。それは君にとって歓迎しないことなんじゃないかな?」


「だからこの塔で陛下に隠して面倒を見ろっていうの?」


「彼女の母親を見つけるまででいいんだ」


「本当のことを言いなさいよ」

 リスティアーナが今日何度目かの低い声を出した。

「なんだかんだ言って、あなたはあの子供を妹に近付けたくないだけでしょう?」


「それは……」


「いい加減じたばた悪あがきするのはやめたら? この忠告はこれで百回目くらいかしら」


 淡々とした声音には嫌悪と非難が滲んでいた。


「……君の言いたいことはよく分かるよ。だけど、今は桃のこともある。その時じゃない」


「その時なんてとっくに過ぎてるわよ、アルス。もうあなた一人がどうにか出来る段階でないのは分かってるでしょ?」


「……もしかして心配してくれてる?」


「違うわよ、頭がおかしいのも大概にして」


 リスティアーナは本気で憤慨した。


「私が迷惑するって言いたいの」


「分かってるよ」

 軽口を引っ込めて、アルスは頭を振った。

「分かってるけど今は対応しきれない。桃のことはとにかく、王都の祝典も迫ってるし、ここで問題を表面化させたくない。……全部、僕の身勝手だけどね」


「身勝手と自覚した上で、あなたは自分の都合で問題を先延ばしにするのね」


「……ああ」


 馬鹿な人、とリスティアーナは呟いた。感情の乗らない一言は骨身にこたえたが、反論は無論不可能だった。

 二人の間に訪れた沈黙は広い室内を居心地悪そうに漂った後、リスティアーナの溜め息によって破られた。


「……いいわ。あなたの馬鹿に付き合ってあげる」


「ありがとう、リティア」


「どういたしまして、あっちゃん」


 剥き出しの皮肉には触れず、アルスは立ち上がった。

 隣室への扉を開き、桃の前にしゃがみ込む。


「桃、しばらくここにいてくれるかい? ここは君にとって一番安全な場所なんだ」


 言い訳がましいなど自分でも思ったし、実際言い訳だった。


「もちろん僕もなるべく顔を出すし、不便があったらいつでも何でも相談に乗るよ」


「分かりました……あの」


 頷いた桃は、アルスの後ろに立つリスティアーナを恐る恐る仰いだ。


「……よろしくお願いします」


「よろしくする気はないわ」

 塔の主はにべもない。

「私はただ、あなたに衣食住を提供するだけ。それ以上のことは期待しないで頂戴」


「リティア」


「文句は言わせないわよ」


 確かにアルスはどうこう言える立場ではないが、それにしても彼女の剣幕に桃が怯えている様子なのはいただけない。


「ごめん、桃。この人は別に悪い人ではないんだ。今は僕がご機嫌を損ねたから、少しプリプリしてるだけで」

「ちょっと!」


 大声を上げたリスティアーナは何か言いかけたものの、思い直したように息を吐いた。


「……上にいくつか空いている部屋があるわ。行って好きな部屋を選んでおいて」


「は、はい」


 桃は戸惑いつつも階段へ向かっていく。その背が螺旋階段を上って見えなくなった途端、アルスの背後から冷ややかな声が投げられた。


「面倒だと思ったらすぐに放り出すから」


「そう言わずに。僕もしばらくここに通うから」


「全然嬉しくない特典ね。ま、あなたにとっては夜遊びが出来なくて苦痛かもしれないけど」


 随分な物言いだが、いつものことだ。

 ともあれ、リスティアーナが一度決定した行動の指針をその場の感情や機嫌の良し悪しで左右させないことはよく知っていた。だからこそアルスは彼女に桃を託すことを決めたのだ。

 そんなこちらのはた迷惑な信頼もとっくに承知の上なのだろう。リスティアーナは最後に一つ、宣言した。


「もちろん、迷惑料は後で請求するわよ」


「……今から覚悟しておくよ」


 この際、多少家が傾いても仕方ないだろう。

 



 塔から出ると、傾きかけた太陽が海原に光を弾かせていた。

 凪いだ風を受けていると気持ちまでつい緩みそうになるが、やるべきことはまだたくさんあった。まずは放り投げた仕事を片付けに、魔術師塔に戻らねば。

 海上を渡る架け橋は既に消え失せていたが、アルスが手をかざすと再び姿を現した。

 来た道を今度は一人で歩いていると、ふと対岸の王城敷地に一つの影が小さく見えた。こちらへ向かって駆けてくる。

 アルスが道を渡りきるのとほぼ同時に、白い獣が目の前に滑り込み、その場に同じ色の霧が立ち上った。

 すぐにそこから、人の姿に戻ったミナベルが現れる。


「アルス様!」


 彼女の顔にいつもの微笑みはなく、困惑した表情を見れば良い知らせではないことは明らかだった。

 アルスが事情を尋ねるまでもなく、彼女は口を開いた。


「クク様が……」

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