第39話
凍てつくような星明かりの下、瓦礫の山から苦労して引きずり出した男の体は実にひどい有様だった。
全身の皮膚はずたずたに裂け、あちこちから折れた骨が肉を貫いて飛び出している。顔面も左半分はそれなりに形を保っているが、右側は何かに押し潰されでもしたのか、骨格がひしゃげて目鼻の位置さえ定かでない。
「あーあ、こりゃこっぴどく壊れてるな。……あいつの方がまだマシだったか」
一応人間の形ではあるものの、悪質な冗談のように悲惨な状態の男を前に、黒塚は深々と溜め息を吐く。とは言え、悲観はなかった。これから取りかからなければならない大仕事さえ、未来に待つ見返りを考えれば鼻歌交じりにこなせるだろう。
「頼んだぜ。あんただけが頼りなんだ」
黒塚は仰臥する男の傍らに膝をつき、冷え切った灰色の頬を軽く叩いた。乾いた血が剥がれて落ちたが、相手はぴくりとも反応しない。男の持つ獣の耳と尾を覆う黒い長毛が、夜風に音もなく揺れるばかりだ。
「ま、とりあえず心臓だな」
一人零して、黒塚は立ち上がる。
やることは多いし、多少時間がかかるのは間違いない。けれど、それも一向に構わなかった。一年、五年、十年。その程度の月日は黒塚にとっては微々たる誤差の範囲でしかない。
すべては、この身が抱える願いが叶えばそれでいい。
黒塚は、男を担いで歩き出す。




