第37話
古びた船と潮風が、灰色の海を渡っていく。時折、鳥の群れが頭上を通り過ぎるくらいで、景色の変化はあまりない。
それでもククは船室に下りずに、甲板で海を眺めていた。眺めたところでどうなるものでもないと分かってはいたけれど、なんとなくそうしていたかった。
これが感傷というものなんだろうか、と頭の隅で考える。
もしそうなら、この胸の底が痛むような感情も同じ名前のものなのだろう。
(……わたしは、この旅で何を得て)
(何を、失ったんだろう)
目を閉じると、波の音が大きくなった。
もう、隣で杏里の声が聞こえることはない。ライックが優しく笑ってくれることも、ディオンが呆れたように歩いてくることも。クレストとも、再び出会うことはない。
彼らとの出会いや時間、最後に迎えた結末は、すべてが正しく美しいものではなかった。むしろ、間違いの方が多かったのかもしれない。
……けれど。
ゆっくりと瞼を開ける。
相変わらず空も海も鈍い色だ。けれど、その分厚い雲の合間を縫って、弱々しい陽光が水面をほのかに染めていた。
(みんなと一緒だった時間が、正しくても、正しくなくても)
(もう、二度と、戻ってくることはないんだ)
それでも、明日もその先も、未来はずっと続いていく。
繰り返す片道の日々を、わたしはまたあの場所で生きていく。胸を衝くこの離愁もきっとすぐに手放して、また。
だから、せめて、今だけはこの言葉を口にしたかった。
「……また、いつか」
祈りは、水面に落ちて消えていく。
船は灰色の海を進んでいく。




