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あほのこはつむ

まあ、やってしまったことはしかない。

よし、切り替えていこう。

大事なのは今さ。とりあえず現状確認は大事だと思う。

 今の僕を客観的に見てみると、3歳を過ぎても単語しか話せなかったけど、まともに意思疎通ができるようになってから、半年で普通に会話ができるようになり、最近は魔法を習いたいとごねり、文字を習ってから1ヵ月で文章でそれをアナ達に訴えた。

 あれ?おかしいぞ。

 僕テンプレ主人公をやろうなんて気はサラサラなかったはずなんだけど……

 次に魔法を習って、これはすごいさいのうだー、みたいになったら完璧に死亡フラグを回収していることになるっぽくね。

 てか、すでに一歩どころじゃなく踏み出してる気がする。

 アホの子作戦はどこにったみたいな感じになってるよね。

 しかも、ここまでやって今更アホの子を演じるのは無理ある気がする。

 普通に会話できてるし、文字どころか文章まで書いてるし。

 むしろここまでやってアホの子に戻ったら、絶対何か疑われる。



…………もしかしなくても絶体絶命?



 部屋でこれからの対応について考えていると、アナとダキが部屋に帰ってきた。

 両親は一緒に来ていない。

 どちらも深刻そうな顔をしている。まあ当たり前か。

 

「すみません、坊ちゃん。ダキと話をしていました。大切な話です。

 そして、この話はどうしても坊ちゃんに伝えなければいけないことです。」


「なに?」


「坊ちゃんは今のお屋敷についてどう思いますか?」


 思ったよりも漠然とした質問だった。

 ただ、アナが僕になにが聞きたいのか、これからどういう話をするのかは察しがついた。

 多分、アナたちは僕が魔法をやりたいと言っていることやさっき文章を書いたこと、その他にも普通の子供よりも優れているであろう僕の行動について両親に報告していないんじゃないかな。

 全部アナたちの独断、と言うと聞こえは悪いが、生き残るためとなれば必要な手段なのだろう。

 その原因は僕の考えが足りなかったせいなんだけど………

 やらかした僕が言うのもなんだけど、過ぎたことは仕方ない、僕よりよっぽど現状を理解しているアナたちにすべて任せてしまった方がいいのかな。


「坊ちゃん?」


 自分の考えに没頭して、アナの質問に答えていなかった。


「アナがいつも僕のそばにいるからとても楽しいよ。」


 お屋敷、という言葉にはあえて触れないで年齢相応の言葉でお茶を濁す。

 よっぽどブッ飛んだことを言わなかったら、何を言ってもアナの対応に変化はないだろう。

 アナは微笑んでいる。

 ただその微笑みには影があった。

 まるでこれから降りかかる現実を何もしらない不幸な子供に対して微笑みかけているよう。

 というより、アナの立場からしたらまんまその状況なんだけど。


「そうですか、坊ちゃん。

 …………これから話すことは誰にも話してはいけません。

 領主様に対してもです。

 約束できますか?」


「わかった。」





 アナの話はおおよそ僕の予想通りのものだった。

 ざっくりいうと、領主つまり僕の父はとても優しく、領民の対しても慈悲をかけている。かけすぎている。

 そのせいでいろいろなところに歪みが出てきている。

 ことの始まりは前領主、僕の祖父が亡くなり父が領主になった時から。




 祖父は厳格な人だったらしい。

 自らに厳しく、慎ましい生活を送りながら、それを領民にも求めた。

 自分に厳しすぎる祖父に対して、文句を言える領民はいなかった。

 ただ、それは現状に領民全員が何の不満を持っていないことというわけではない。

 祖父は自らの信念に忠実で頑固な人だった。

 息子である父が何を言っても何も変わらなかったらしい。

 それでも、祖父は優秀な領主であった。

 紛争が絶えないこの土地で強い領主が他の何事よりも優先される。

 祖父は強い領主だった。

 領主でありながら、先陣で活躍し、祖父のその強さで紛争が激減したらしい。

 領内の経営についても厳しいながら公正であり、この世界では相当珍しく実力には相応しい地位を、との考えで出世に貴賎を問わなかった。

 そんな祖父の評価としては全体的に『厳しいのは嫌だけど、公正な人。生まれよりもその者の実力を見てくれる人』とそんな感じ。

 まあ、そのおかげで、その他の貴族たちとの調整には大分苦労していたそうだ。

 そんな祖父が亡くなり、父へと領主の地位が移った時、父は大々的に困っている領民すべてに対して救済策を行った。

 すべての原因はこの救済策にある。

 なんでも領主の私費を使っての慈善事業である。

 はっきり言って僕が聞いても非現実的な政策だった。

 困った人を救いたい。

 そんな気持ちだけで行った政策。

 先祖代々溜め込んできた領主としての財産を切り崩して、領内すべての村々に孤児院を作り、教育を与えた。

 領民に対する税をさげ、悪天候などにより不作になった領民には税の免除ばかりか支援まで行った。

 これだけのこと私財のみで賄った。

 いくら大領主といわれる我が領の主であってもこれだけのことをすれば数年で財産はなくなる。

 周りの人たちが猛反対するのは当たり前だろう。

 ただ、父は祖父と変な部分だけ似てしまったらしく、とてつもなく頑固な性格で明らかに失敗が見えているこの政策については一歩も引かなかった。


 領主が領民のために行動するのは領主の義務である。


 その信念の為に父を引き止める臣下もだんだんと減ってゆき、現状父を支えているのは叔父を中心とした少数の先祖代々の伝統を重んじる一部の人と父の人柄に惚れた奇特な人たちだけだった。

 その叔父でさえも最近は父に愛想をつかせてきていて、いつ叔父が父の元を離れるかわからないそうだ。

 そして、叔父が父の元を離れるというのはイコール叔父のクーデターを意味するとのこと。

 祖父が亡くなって5年、父の政策は今もなお続いていて、あと1、2年で領主としての資産が尽きる。

 その前に現状を改善しなければ、もし何か、例えば今は落ち着いている紛争が激化でもしたら、それに対応する予算はほとんど残っていない。

 こんな経緯があるのであれば、もし、クーデターを行ったとしても僕や母、アナたちに特に危害はないのでないかと思っていたが、どうもそうは問屋が卸さないらしい。

 確かに父を慕う臣下と呼べる人たちというのは少ない。

 だからといって、クーデターを起こした叔父にみんなが従うかどうかまではわからない。

 むしろ、我こそは!、という輩が多く出るであろうことが予想できる。

 この国の領主は代々領主一家以外はなれないという典型的な家督制度がある。

 だから、もし叔父に反抗する貴族たちは父の息子、つまり僕や顔も見たことのない兄弟たちを神輿にする可能性が高い。

 そのため、叔父以外の領主になれる者は揉め事の種以外にならない。

 いくら叔父に可愛がられていようとも、領地のために兄を害そうとしている叔父が争いの種にしかならない僕を逃がしてくれるとは思えない。

 アホの子なら尚更、他の貴族に簡単に担がれてしまう。

 あれ?アホの子作戦って完全に裏目ってね?

 アホの子作戦自体遂行できてなかった感じではあるけど。

 とまあ、丁寧にアナから受けた説明をまとめるとそんな感じ。

 要するに完全に詰んでね?

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