43話 好きな人
カズヤとドクターの戦いが幕を開けた
果たして勝てるのか?
「私は電雷、反撃、地震、夢喰い、空間識、困窮、略奪を持っている。勝てるのか?」
ドクターは少し低めの声で脅しをかける。
「わからない。でもやるしかないんだ」
カズヤは件を強く握りしめて薄い涙を零す。
「リリアを…ユーキを助けたい。ユーキは忘れてはいけなかった。リリアの事を。だって、だって。ユーキはリリアの事が好きだったんだ。ずっとずっと昔から。」
カズヤは歯を食いしばった。
そしてドクターへと走っていく。
「はぁぁぁあ!」
ドクターに振りかざされた剣はたちまちドクターを斬り裂く。
パチン!
そして、また指を鳴らす音。
「がぁぁあ!」
カズヤの叫び声。
カズヤに外傷はない。
ただ、ただ痛みが自らに跳ね返ってくる。
何故かは理解ができた。
先程ドクターが言っていた反撃であろうと理解した。
カズヤは攻撃的ではあるが考えない訳ではない。
「どうすればいい。でも、反撃とは言え万能では無いはず。なら!蒼火神槌!」
カズヤが叫ぶとドクターの上から蒼い炎が降ってくる。
「なんだ!これ!」
ドクターは避けた。
その行動が全てを理解するための材料には十分だった。
「物理反撃だろ…分かったよ。なら骨の髄まで燃やし尽くしてやる!」
カズヤは剣を構えた。
「はぁ…バレたなら仕方ない。雷神雷轟」
ドクターは体に電気を纏わせた。
いや、雷神を体に憑依させたの方が正しい
「な…なに!」
カズヤは驚くしかなかった。
「黒炎竜!」
黒い炎を纏う龍がドクターを襲う。
ジリ!ビリリ!シュン!
「当たるか。そんな遅い攻撃」
ドクターは物凄い速さで避けた。
そして
ドン!
「がはぁ!」
カズヤは吐血した。
「なに…殴られた…のか。速すぎて…見えなかった」
カズヤは殴られた。
陽炎を使う間もなく。
「こんなの…避けられるわけが無い。速すぎる。」
カズヤは手詰まりだった。
「さぁ!さぁ!どうした!雷神を前にして為す術もないか!あははははは!」
ドクターは煽る。
「負けない、諦めるわけにはいかない。だからここで逃げるわけにはいかないんだ!」
カズヤは目を閉じ耳を澄まして音を聞く。
ドクターの声。
自分の鼓動。
自分の息遣い。
炎の燃え盛る音。
雷光の弾ける音。
室内のダクトを通る空気の音。
シャッターの向こうから聞こえる呼吸音。
ユーキの啜り泣く音。
そして………
ドクターの足音。
「そこだ!」
ドクターが動き出した瞬間カズヤは横薙ぎに剣を振る
「ぐあぁ!」
ドクターは腕にかすり傷を負った。
「自分のスピードに過信しすぎて反撃を使わなかった。まさか、斬られると思ってなかっただろ。」
カズヤは剣に着いた血を振り払う
「ふふ…ふははは!あっははははは!面白いよやっぱり!まさかなこの速さを見切るとはさすがだ!でも。まさか足音を出さずに動けないとでも?」
ドクターは言った
ドン!
バキ!
ドーン!
「あぁがぁ!」
室内に響き渡る鈍い音と悲痛な叫び。
目にも止まらない速さでカズヤを殴り続けるドクター。
それに、抵抗する事すら許されないカズヤ。
「私は雷神雷轟を使っている時は反撃と略奪以外は使えない。ただ、この速さで反撃と略奪は使えるんだ。凄いだろぉ?」
見下しながらひたすらに殴り続ける。
ドグン!
バコン!
バキ!
「……」
「声も出せなくなったか!」
ドクターは無慈悲にただ。ただ。
「り…りぁを…ゆ……き…」
カズヤは膨れ上がった瞼に邪魔され薄らと見えるユーキを見て。言った。
カズヤはユーキを庇うようにして戦い続けていた。
決してドクターがユーキの方へ行かないようにユーキとはあえて逆の立ち位置で戦い続けていた。
「………あぁ…」
もう、意識も朦朧とし
口の中には血の味。
呼吸すらも苦しく。
このまま死んでしまうのではないかと
恐怖で心が押し潰されそうだった。
「このまま、死んじゃえよ!そしてその力私にくれ!!」
ドクターは笑顔で殴り続けた。
「僕は…何も忘れたくない…」
そう声がした。
途端カズヤの周りに氷の壁が出来た。
「ん!なに!」
ドクターは思わず後ろに飛び退く
ドサ!
「カズヤ…ごめん。」
そして倒れたカズヤをユーキはそっと抱きかかえた。
「僕は何も失いたくない。全部思い出した。あの、かけがえのない思い出。忘れちゃいけない思い出。そして大好きなリリア、大切なカズヤをいたぶったお前は絶対に許さない。ここでお前を斬る。」
ユーキの目には怒りが宿っていた。
「お前に何が出来る!この速さについてこれるのか?無理だ!」
ドクターは笑い見下しユーキを煽る。
「僕は鈍い。遅い。何もかもカズヤに劣っている。でも関係ない。お前を倒すのにそんなことなんて!」
ユーキは剣を構えた。
「そうか…ならお前も消してやる!」
ドクターも再び電気を纏う
カズヤはドクターにより大怪我を負わされた。
そこに立ったのはユーキだった。
失っていた記憶を取り戻しカズヤを助けるため
そしてリリアを助けるためにそこに立った。
次回 決死の思い




