子供を狙うもの
体が重い。
寝苦しさで目が覚めると、下の娘が私の上に乗って寝ている。
それを起こさないようにゆっくりと移動させ起きる。
外を見ると夜が明けている。
子供達は疲れていたのかまだ起きる気配がない。
起きる前に水を汲みに行こうとすると物音で上の娘が起きてしまった。
「まだ寝ていていいぞ」
すこし寝ぼけている風な上の娘にそう伝える。
「うん……わかった」
外に出て井戸で水を汲む。
そういえば子供達に名前を付けないといけないな。
私も名前がないので何か考えておかないといけない。
3人で暮らすとしても呼び合うときにさすがに不便だろう。
今までそんな事も考える余裕がなかったのだと実感する。
部屋に戻ると子供達は起きていた。
寝ていていいと言ったが2人とも起きてしまったようだ。
汲んできた水で顔を洗わせる。
その間に火を起こし昨日の肉を温める。
「またおにく、たべれるー」
「すごい……」
昨日の余りも物だが喜んでくれた。
今日は狩りに行ったら果物も探してみよう。
この様子ならきっと喜んでくれるはずだ。
子供達と朝食を済ませ、後片付けも終わらせる。
さすがに子供達は狩りに連れて行けない。
「出かけてくる。村の中から出るなよ」
「どこいくの?」
「ついてっちゃ……だめ?」
付いてきたそうな顔をこちらに向ける。
「だめだ」
もっと優しく伝えればよかっただろうか。
「わかったー」
「おとなしく……まってる」
悲しそうな表情が胸に刺さる。
「大丈夫だ。お前達の所に帰ってくる」
そう言って子供達の頭を撫でる。
「うん」
「うん……」
子供達の返事を確認し狩りへと出かける。
村を出てしばらくすると昨日と同じように姿を変える。
服は敗れてしまうので姿を変える前に分かる場所に脱いでおいた。
林を奥に駆けると木々の密度が高くなっていく。
人の手が入らない場所なのだろう。
すぐに沢山の実を付けている蔓を見つける。
キウイみたいなものだろうか、口を器用に使いもいでいく。
食べられるという知識はあるが名前もわからない。
女神がくれたという人としての知識も曖昧なものなのかもしれない。
生活に困らないだけありがたいので文句はない。
手は使えないので元の姿に戻り皮をむいて口に入れる。
酸味が強いが瑞々しくてうまい。
これなら子供達でも食べられるだろう。
持ち運べる物を持ってくればよかった。
面倒だが一度服を取りに行くとそれに包んで運ぶことにする。
服を取りに行った帰りに先ほど見落としていたのか野いちごを見つける。
獣の姿のまま口を突っ込み食べてみると、口いっぱいに甘酸っぱさが広がる。
これは子供達が喜びそうだ。
見たところ大量に生っているので元の姿に戻り収穫する。
潰れないように服に包むとキウイみたいな果物の所に戻りそれも包む。
獣の姿になってもそれをくわえれば運ぶことができる。
一度子供達の元に戻ろうか考えていると、昨日と同じ黒毛鼠の群れを見つける。
まだこちらには気付いていない。
昨日も思ったが警戒心があまりないのではないだろうか。
獣の姿になり、黒毛鼠の群れに飛び掛る。
さすがに私の姿を見つけると蜘蛛の子を散らすように逃げる。
黒毛鼠が遅いのか私の体が早いのか分からないが、難なく逃げ遅れた1匹捕まえることができた。
その獲物と包みをくわえて村へと帰る。
村の近くに来たので元の姿に戻り服を着る。
服に包んでいたものを両手いっぱいに持つと村へと歩いていく。
村に近づくと何か様子がおかしい。
持っていた物をその場に置くとゆっくりと村へ近づき中の様子を探る。
私の目に映ったのは信じられない光景だった。
村の中に人がいる、それも子供達を連れ出そうとしている。
すぐに飛び出したかったが、隙をみつけるため入り口とは反対側から村に入り家の影に隠れて様子を伺う。
「こっちへ来い、お前らはどうせ捨てられたんだよ」
男がそう言いながら下の娘の手を持ち引っ張る。
「しかし運がよかったね。身を隠そうとしていた場所に獣人の子供がいるなんて。見た目もいいし高く売れそうだよ」
女は上の娘を捕まえている。
「他に人もいないし家出か捨て子だろうな」
「そうだろうね。まったくあんたが下手を打つから、顔まで見られるなんて最悪だよ」
女が男を恨めしげに見る。
「すまねえな」
男の方が女より立場が弱いのかもしれない。
「はなして、おかあさん、かえってくる」
「すてられて……ない」
子供達が激しく抵抗すると、男達は苛立ったのか声を荒げる。
「うるせー、お前らは捨てられたんだよ」
「黙って付いてきなよ」
男達が乱暴に子供達を蹴る。
子供達の体は軽く、転がるように地面に倒れる。
「いたいよー、いたいよー」
「いたい……おかあさん、たすけて」
子供達が抱き合い俯き泣いていた。
何かが切れる音がした。
意識もしていないのに体が獣へと変わって行く。
まるで目の前の人間への怒りと共に体が膨れ上がっていくようだ。
憎い、憎い、憎い。
私の大切な子供に害なすものを許してはおけない。
男達に向かい怒りの咆哮を浴びせようとすると、抑えられない怒りのせいなのか口からは炎が吹き出る。
その炎は村を焼き尽くさんばかりに広がっていく。
残念ながら男達は炎を浴びてはいなかった。
しかし、その顔は恐怖に歪んでいた。
すぐにでも屍に変えてやろう。
その時、子供達の姿が見える。
突然の大きな音に驚いているのか身を寄せ合ったままだ。
俯いたままの子供達はこちらを見てはいないが、この姿を見られてしまっただろうか。
子供達は幸いにも村の入り口近くにいるため炎に飲まれる心配はないだろう。
すぐに助けたいがこの姿では無理だ。
炎に包まれる村の中から子供達を見ていると男達が別々の方向に逃げ出すのが見えた。
逃がさない。
子供達を無視して村の出入り口から逃げる男は後にして、違う方向に逃げる女を追う。
逃げる女を追おうと村を飛び出すと、村へ走ってくる人の姿が見える。
男達の仲間かもしれない。
すぐさま女を追うのを諦め子供達の元へと駆ける。




