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明日の未来へ

 次の日から慌しい日々が始まった。

 事件を聞いた自警団がやってきて今回の騒ぎの調査を行う。

 別の教会からもすぐに使者が来て、教会側の全面的な否を認めたので私達に特にお咎めはなかった。

 あの事件を近くに住んでいた住民達も遠巻きに見ており、私達を庇ってくれた。

 その中にはラビー達の姿もあった。

 ラビーが助けてあげられなくてごめんと謝っていたが、あの状況では仕方がない。

 事件を聞いて、シティが尋ねてきて私は凄く怒られた。

 今回の件を相談してくれれば何か力になれた、匿ってやることだってできたと怒られたが、その気持ちが嬉しかった。


 事件の事以上に騒ぎになったのは、この町に女神が現れたという噂が広まったせいだ。 

 セーイス教会ではいつのまにかこの町が1つの聖地となっていた。

 そのため聖地巡礼をしに来るセーイス教会の信者が大量に町に押し寄せた。

 町に収まりきらない人の数は町の外にまで広がった。

 大量の人が集まれば商人だってそれに目を付けて集まる。

 農家や広場の店も生産より供給が多くなってしまい忙しそうにしている。

 商人が物資を運んで来てくれなければ大変な事になっていただろう。


 教会横にある銭湯も利用者が後を絶たずにしばらくは朝から晩までの営業となった。

 さすがに忙しくて人手が足りず町の人が手伝ってくれた。

 その中には騎士のトニーの姿もあった。

 今回の責任を感じて、しばらくはここの手伝いをしたいと言ってくれた。


 銭湯の利用者が多くなったので新しい銭湯や個人で風呂を持ちたいという要望も出てきて、ドンが嬉しい悲鳴を上げていた。

 タイガのビンも人気が出て、ドンと同様に忙しくなっていた。

 商業組合もこの人気に乗じてラドにもう1つ空いていた家を借りてエールや食事を販売しだした。


 黒毛鼠達の露天風呂に入る姿が人気となり、露天風呂の黒毛鼠とお風呂に入りたいという人が増えて露天風呂が別に作られることにもなった。

 その管理はロッティが引き受けてくれて湖から他のローティーを連れてきて、黒毛鼠の数も増やそうと計画している。


 人が大量に集まるので物資の移動も多くなる。

 そこで目に留まったのがレオスの作っていたリヤカーだった。

 人が多くいる中で馬車は使いにくいので、リヤカーを欲しがる人が多くなって販売用に生産を始めたらしい。

 本来の仕事も人が増えたせいで忙しくなり従業員の数を増やしていた。

 レオス自身は荷車の生産ばかりするようになって自分の仕事が変わってしまったとぼやいていた。


 女神が現れた場所であり、巡礼者も多いのに教会が古いままでは申し訳ないと、教会の本部がマリアの教会を新しくする計画を立てた。

 マリアも女神を光臨させて聖女という噂が広まっていた。

 マリアは嫌がっていたが、そのお陰で私の噂はあまり広まらなかったのでよかったと複雑そうな顔をしていた。

 シティも自分も何かしてやりたいと出会うたびに私に言ってくるようになった。


 そんな忙しい毎日が続き、1年近くが経った。

 町に訪れる人は減ってはいるが、それでもまだまだ多い。

 私はシティの援助を受けてある建物を建設してもらった。

 新しい教会の裏手に町の柵を広げて作った児童施設だ。

 親のいない子供達を保護するだけでなく、町の子供達を日中預かったり、子供達に教育を受ける場所としても活用している。

 そんな施設を作りたいとシティに相談したらすぐに賛成してくれてた。

 

 私の考えにレオスやタイガ、ドン等も賛同してくれた。

 彼らが作る物には女神がセイゾーの墓に彫った蓮の花の刻印が刻まれ、売り上げの一部をこの施設に寄付してくれることになった。

 その取り組みの管理をラビーが引き受けてくれて、ギルドから独立して専用の事務所を立ち上げてくれた。

 その刻印は女神が作ったと広まってしまい、いつも間にか蓮の紋章と呼ばれるようになり、真似をした商品が出る中、特別な扱いを受けた。


 私がこの児童施設に専念することになり、銭湯の方はラミットが責任者になってくれた。

 ロッティやローティー達も子供達と触れ合いたいのか、銭湯や露天風呂の管理を育て上げた黒毛鼠達に任せていた。

 子供達もライガも手伝いをしてくれる。


 その児童施設が今日やっと完成した。

 教会の雰囲気を壊さないようにイメージした児童施設の庭の片隅には大きな花壇があった。

 花壇の中央は歩けるようになっており、中心には小さな池がある。

 その池には蓮の花が咲く。

 池の前にはセイゾーの墓がある。


 私は今セイゾーの墓の前に立っている。

 初夏を思わせる緑の濃い匂いを含んだ風が吹いている。

 風になびく髪を手で押さえる。

 ゆっくりとセイゾーの墓の前にしゃがむと手に持った色とりどりの花を供える。

 回りにも沢山の花があるのだから供える必要もないかと思ったが、もう習慣になっていた。

「セイゾー、やっと完成したぞ」

 答えの返せないセイゾーに話しかける。

「今日はセイゾーの命日らしいぞ」

 忘れていなかったのに恥ずかしくて知らなかったふりをする。

「子供達の幸せな未来を願うといったセイゾーの気持ちに答えたかったんだ」

 セーイスからセイゾーの死後の願いを聞いたときから考えていた。

「この児童施設の名前な、ロータスフラワーって言うんだ」

 セイゾーが付けてくれた名前がいつまでも残るようにと思って付けた。

「だからさ、ここから子供達を見守っていてくれよ」

 セイゾーは私達だけではなく他の子供達のことも心配しそうだしな。


「おかあさーん」

「おかあさん……」

 子供達が呼ぶ声が聞こえる。

「子供達が呼んでるから行くよ」

 膝を伸ばして立ち上がる。

「たまには夢でもいいから会いに来いよ。私はいつだってあんたに逢いたいんだからな」

 ゆっくりと振り返り墓を背にする。

 出来たばかりのロータスフラワー児童施設が目に映る。

「セイゾーが願った子供達の幸せな未来を私が明日へと繋いでいく」

 私の決心をセイゾーへ伝える。

「だから、私の事もいつまでも見守っていてほしい……」

 自分で言って顔が熱くなるのを感じる。

 火照った顔を涼しい風が冷やしてくれる。

 私は子供達がいる場所へ歩き出した。

 私の子供達がいる場所へ、そして今から多くの子供達を救う場所へ。


 完

 ここまで読んで頂いて誠にありがとうございます。

 少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。

 前作のラスト部分で終わろうと思っていましたが、続きを書いて前作も合わせて物語に一応まとまりを付けたつもりです。

 蛇足に感じてしまった場合は申し訳ありません。

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