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思わぬ再会

「いやー、実に素晴らしい」

 私の獣の姿を見てスレイが拍手をする。

 その顔はどこか満足そうだ。

 その一挙手一投足が私を苛立たせる。


「その姿のままレンゲさんを捕まえて、司教にでも渡せば喜んでもらえるかもしれません」

 スレイが騎士達に目配せすると、騎士達が馬車から槍を取り出す。

 その槍の石突には長い鎖が付いている。

 槍の先は返しが付いているので銛に近いかもしれない。

 その銛を持って騎士達が私を囲む。

 それで私を捕まえようとしていることは容易に想像できた。

 マリアを教会の前に置くと、騎士達の前に出て身構える。

 すぐにマリアを連れて逃げたかったが、部屋にいる子供達を連れて行くとなると追いつかれる心配がある。

 何とかして時間を作らなければいけない。

 スレイは騎士達に何か合図を送っている。

 私にどうやって投げるかの算段でもしているのかもしれない。


「投げなさい」

 スレイの合図で騎士達がそれを投げる。

 銛は私の後ろへ放たれた。

 狙っていたのは私ではない。

 マリアだ。

 意表を付かれて行動が遅れてしまった。

 もう避けている時間はない、すぐに後ろへ戻るとマリアをお腹の下に隠す。

 次の瞬間、体に痛みが走る。

 まるで熱した棒でも押し付けられているようだ。

 自分の姿を見ると体や肩に何本もの銛が刺さっている。


「レンゲさん! 出してください!」

 マリアが私の下で叫んでいるがマリアを出すわけにはいかない。

 体中に焼けるような痛みが鼓動に合わせるかのように継続して襲ってくる。

 騎士達が手に持った鎖を遠慮なく引っ張ると私の肉に銛の返しが食い込むのが分かる。

 体が千切れそうな痛みが全身を駆け巡る。

 私は咄嗟に口を開くと騎士達に炎を吐く。


「盾を」

 スレイがその行動を分かっていたかのように合図を送ると騎士達が盾を構えて炎を防ぐ。

「自警団のように甘くはないですよ?」

 私が予想通りの行動をした事が嬉しかったのかスレイがにやりと笑う。

 駆け出してその顔を殴ってやろうと思うが、鎖を引っ張られる痛みのせいで思うように動けない。

「レンゲさん、お願いします! このままじゃあなたまで死んでしまいます!」

 マリアの叫びが私の下から響く。

 私の下から出ようともがいている。

 鎖を伝って落ちる血がマリアにも見えるのかもしれない。

 耐え難い痛みはあるが、この体のせいなのか、興奮しているせいなのかは分からないが動けなくはない。

「大丈夫だ」

 マリアが安心してくれるとは思えないが、体の下にいるマリアに声をかけた。

 それでもマリアはもがくのをやめない。

 

「ちょっと! なんなのよこの状況!?」

 うるさい声が響く。

 声のした方を向くとロッティが私の近くへ飛んできた。

「おい、子供達はどうした?」

「寝てるわ。今は自分の心配をしなさいよ」

 ロッティが私の体に刺さった銛を心配そうに見つめる。

 銛を抜こうとしてくれるが、ロッティの力ではどうにもできなかった。


「妖精までいるんですか? そんな報告は受けてませんでしたね」

 ロッティの登場にスレイが驚いた表情を見せる。

「そういえば、レンゲさんには子供がいましたね。子供達も恩恵を受けているかもしれません。妖精と一緒に連れて行けば私の昇進も間違いないでしょう」

 スレイが狡猾な表情を浮かべる。

 この男は私達の事を自分の利益のための道具としか見ていないのか。

 私だけでなく、マリアも巻き込んでも飽き足らず、子供達やロッティにまで手をかけようとしている。

 この男を許してはおけない。

 怒りに捕らわれぬように自分を律する。

 私の体がどうなるかは分からない。

 それでもこの男をどうにかすればこの状況を覆らせる事ができるかもしれない。

 私達をセイゾーが守ってくれたように、私も大切な人を守りたい。


 スレイは私を捕らえて勝った気になっている。

 その油断から隙を見つけるの簡単だった。

 私達から目をそらした瞬間を狙って持てる力を振り駆け出す。

 私の行動に気づいた騎士がすぐに鎖を引っ張り思うように前に進めない。

 鎖を引っ張れば痛みで止まると思っていたのだろう、力のあまり入っていない鎖を引きずるようにして前に出るとスレイに向けて牙をむく。

 届くと思った瞬間スレイが1歩後ろに下がってそれをかわす。

 私の牙は空を切る。

 それを見ていた騎士達が鎖を引く力を強める。

 先ほどと違って前に進むことができない。

 それでも前に進もうと身をよじる。

 

 それが可笑しかったのかスレイが腹を抱えて笑い出す。

 目の前で絶好の隙が生まれる。

 まだ終わらせない。

 これ以上進めない体を無理やり前え進めようと体に力を込める。

 ふいに体の抵抗が弱まる。

 ほんの少しだけ体が前に進む。

 私は近くにあったスレイの腕に噛み付いた。

 鎧で守られていない鎖帷子だけの部分、そこに牙を突き立てた。


「うがあぁー」

 スレイの絶叫が響き渡る。

 私を離そうと、もう片方の手で私を殴ってくるが離してやるつもりはない。

 さらに噛む力を強めようとした時、顔に衝撃を受けて力が弱まる。

 その隙にスレイが私の牙から逃れると私から距離を取る。

 腕の1本でも引き千切ってやりたかった。 

 私はうまく立てずにその場にうずくまる。

 

「何やってんのよ!?」

 ロッティが私の所に飛んでくる。

「すまない」

 顔だけロッティのほうを向ける。

「あんた、片腕がえぐれてるじゃない!」

 ロッティの青ざめた表情で私の腕を見ている。

 その視線の先に目をやると無理やり前に進んだせいか、銛が抜けて肉がえぐれていた。

「顔だって体だってこんなに傷だらけにして……」

 私の顔に触れる手が震えていた。

 ロッティの目から涙が溢れている。

「早く治療を!」

 マリアが私の近くに駆け寄ると傷を癒そうとえぐれた片腕に手をかざす。

 マリアの手から出る光が当たると痛みが和らいでいく。


「よくも私の腕をこんな無残にしてくれましたね」

 スレイが痛みと憎しみに顔を歪ませながらこちらを見ている。

 スレイが合図を送ると私達の周りを騎士が取り囲む。

 私の姿を見てもう鎖も必要ないと思ったのだろう。

「死なない程度に存分に痛めつけてやりなさい」

 スレイの言葉に手に持つ剣や槍を私達に向ける。

「マリア、ロッティ私を置いて逃げろ!」

 私は2人を逃がそうと立ち上がろうとするがうまく立てない。

「動かないでください」

 マリアが私の体を抑える。

 傷ついた体ではマリアの力でさえ体に抵抗を与えた。


「ちょっとセーイス、出てきなさいよ!」

 ロッティが周りを見ながら急に大声を上げる。

 私やマリアもその声に周りを見渡すが女神の姿などない。

「どうしようもなくなって女神頼りですか? 妖精が呼んだからって女神が来るわけないでしょ」

 スレイが歪んだ顔に笑みを浮かべる。

 その顔はこの非常な行いも相まってあまりにも醜悪に見えた。

「セーイス早くしなさいよ! 私はレンゲ達を助けたいの。お願いよ、力を貸して!」

 ロッティが尚も叫ぶ。

「偉大なる女神セーイスよ。私はどうなっても構いません。どうかこの者達をお救い下さい。その力で罪なき者に一筋の光をお与え下さい」

 マリアも私の治療をしながら目を閉じ女神へと祈りを捧げる。

 そんな2人の姿にスレイが蔑んだ瞳で見つめて笑っている。

「そんな事で女神が助けるわけないじゃないですか。愚かですね」


「愚かなのはあなたですよ」

 スレイの言葉を暗闇から聞こえた声が否定する。

 その場にいた全員がその声の主を探すが、そこには誰もいなかった。

 松明の明かりが届かぬ暗闇から声は聞こえた気がした。

 私の目でも見通せない暗闇がいつの間にかそこにあった。

「私が愚かだと!? 誰だ、姿を見せなさい」

 スレイが声がした方向に向かって叫んだ。

「お望みとあらば」

 そう言って暗闇に包まれた道から1人の女性が出てくる。

 私はその女を見たことがある。

 女神セーイスと名乗った女だ。

「セーイス……」

 私の呟きにマリアが目を見開く。

「彼女が女神セーイス……」

 呆然としたままセーイスを見つめている。

 その顔からは、女神に見惚れているのか、闇から出てきた女神が信じられないのかは判断できない。


「ちょっと遅いじゃないの!」

 ロッティが姿を見せたセーイスに声を荒げる。

「すみません。ローティーがこんなにも人間に入れ込むなんて初めてじゃないですか?」

 セーイスはそんなロッティの声を涼しい顔で受け流している。

「い、今はそんな事どうでもいいでしょ。力を貸しなさいよ」

 ロッティの反応が面白かったのかセーイスが微笑んでいる。

「誰だ貴様は? 女神が闇の中から出てくるわけないじゃないですか。さてはあなた魔女ですね」

 スレイが突然現れたセーイスに苛立っている。

「魔女? 私がセーイスですよ?」

 スレイの言葉にセーイスが反応する。

「魔女が女神の名前を語るな! お前達、この魔女も痛めつけて捕らえなさい」

 スレイは突然現れたセーイスを女神とは認めず私達と同じように痛めつける気だ。

「セーイス、お前も逃げろ」

 この女神にも恩がある。

 私のために傷ついてほしくはない。

 そんな私の言葉に女神が目を丸くする。

「私にまでそんな事を言ってくれるなんてあなた変わりましたね。大丈夫ですよ」

 セーイスが私に優しく微笑む。


「おいで」

 セーイスがそう呟くと、セーイスの背後から何かが出てくる。

 私の獣の姿に似た真っ黒い犬だった。

 1匹ではない、2匹、3匹、4匹と出てくる。

 姿だけでなく大きさも牛のように大きく、その口からは炎が漏れている。

 その光景を見た、スレイや騎士達が驚愕した表情を浮かべる。


「怯むな、魔女の力だ! さっさと始末しろ」

 スレイが騎士達に命令する。

「本当に愚かですね」

 セーイスがそう口にしたのを合図のように黒い犬達が騎士達に襲い掛かる。

 圧倒的な力だった。

 黒い犬達は騎士達に噛み付いては振り回し、その戦意を削いでいく。

 そんな光景を見て足を震わせ逃げようとする騎士までいる。

 しかし、誰一人として逃げることは叶わなかった。

 黒い犬は背を向けた騎士に一瞬にして追いつくと前足を振り上げその体を地面に叩きつける。

 そんな惨状を一瞬にして作り上げセーイスはスレイに微笑んだ。


「殺しはしません。ただ愚かな行いの報いは受けてもらいます」

 セーイスがそう言うと騎士達を片付けた黒い犬達がスレイを取り囲む。

 黒犬達はすぐには襲い掛からずにスレイの周りはゆっくりと回る。

「ひいぃぃ、た、助けてくれ!」

 圧倒的な力の差を見せ付けた力の持ち主に取り囲まれ恐怖している。

「嫌です」

 セーイスがにっこりと笑ってそう言うと黒い犬達がスレイの四肢に噛み付く。

「うぎゃあぁー!」

 凄まじい痛みだったのだろう、スレイが絶叫する。

 痛みに体が耐えれなかったのか体をびくびくと震わせた後気絶した。


「もういい」

 私がセーイスに言うと黒い犬達はスレイを放しセーイスの周りに座る。

「殺さないのね」

 ロッティがセーイスの方を向いて口を開いた。

「はい。それは望んでいないようでしたから」

 セーイスは私の気持ちが分かったのだろうか。

「来てくれて助かったわ。ありがとう」

 ロッティがセーイスに頭を下げる。

 それを見て私とマリアもお礼を言って頭を下げた。


「これは一体!?」

 突然の声に私達は警戒態勢をとる。

 そこには1人の女性と数人の騎士がいた。

 騎士の中にはトニーの姿も見える。

 新手か?

 緊張感が走る中マリアが前に出る。

「落ち着いてください。彼女は敵ではありません」

 マリアは現れた女性に頭を下げると親しそうに何かを話してこちらに連れてくる。

 マリアの話ではこの女性は昔教会でお世話になっていた女性だそうで、現在は別の地区の司祭の地位にあるという。

 マリアは手紙で、教会に騎士が来てれのない罪に問われた事を相談したそうだ。

 トニーはその事を知っていて、今回のマリアを捕らえる話を知ってすぐにこの女性を呼びに行ったらしい。

 マリアがセーイスの存在を説明すると皆が膝をつきまるで王に謁見するかのような態度をとった。


「畏まらなくていいです。この者達の処罰はお任せします」

 セーイスがスレイ達を一瞥する。

 騎士達がすぐにスレイ達を捕らえるとスレイ達が持って来た馬車に押し込む。

 私達を乗せるために持って来た馬車にまさか自分たちが乗せられるとはスレイも思っていたなかっただろう。

 同情する気持ちは微塵もない。

 スレイ達を馬車に押し込めた後、マリアがお世話になったいた女性はセーイスの前で膝を着き今回の聖堂騎士にあるまじき行為を謝罪していた。

 今回の件に関しては、騎士達の単独行動ではなく他の司祭及び司教の関与も疑われるため、大司教への報告をし教会の膿み出しを行うと約束した。

 その後マリアと少し話をして騎士達と帰っていった。

 私も事の顛末を見届けると安心したのか意識を失った。

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