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騎士の訪問

 銭湯の開店から1ヶ月が経ち、仕事に慣れ余裕も生まれ始めた。

 銭湯へ来る客の数も安定してきて、生活の目処も立ちそうだ。

 帰りはロッティを肩に乗せて帰るのがお約束となりつつある。

 銭湯の帰り道、雲もないのに月の見えない夜道を歩く。

 時折吹く風は暑かった時期を忘れるような肌寒ささえ感じる。

 私は教会に戻っていつものように食事を済ませて風呂に入る。

 子供達を寝かして私達が小声で話をしている時だった。

 外から何かを叩く音が聞こえる。


「こんな夜遅くになんでしょか?」

 3人で顔を合わせる。

「私が見てこよう」

 そう言って私が立とうとするとマリアが止める。

「いえ、教会の扉かもしれませんので私が行きます」

 マリアが真剣な顔をしている。

「分かった」

 いつもと違うマリアの雰囲気に気圧されて従ってしまう。

「こんな夜に失礼な客ね。マリア気をつけてね」

 ロッティがそう言うとマリアは頷いて部屋を出て行った。

 ロッティの何気ない一言に胸が妙にざわめく。


 ロッティとマリアの帰りを待つ。

「遅くないか?」

 まだ少ししか経っていないが心配になる。

「急病人かしら。それでも心配ね」

 ロッティも私と同じらしく不安な表情を浮かべる。

「様子を見てくる」

「私も行くわ」

 私が立ち上がるとロッティもそれに続く。

「いや、ロッティは子供達を見ていてくれ」

 私に飛んできたロッティにお願いする。

「分かったわ」

 ロッティは素直に頷いてくれた。

 子供達を起こさないように静かに部屋を出る。


 部屋を出ると肌寒い風に乗せて嫌な気配を感じる。

 少なくない数の気配がある。

 教会の前が明かるいのが、暗い夜のため裏からでも分かる。

 胸のざわめきが強まり、急いで教会の表へ向かうと信じられない光景を目にする。


 以前教会に来た騎士と同じ装備をした人間達や馬車が見える。

 その手には松明が握られており、暗い夜をその炎で照らしている。

 私が驚いたのはその光景ではない。

 2人の騎士がマリアの両脇から腕を押さえるようにして捕まえている。

 一体何があったのか? 

 急いでマリアの下へ向かう。

 マリアの下へ走りながら思った。

 マリアの真剣な表情はこれを予期していたのではないか。

 私は銭湯の忙しさに、マリアが騎士がいつか来るのではと怯えていた事を忘れてしまっていた。

 自分の不甲斐なさに腹が立った。

 駆けつけざまに私を見て驚いている騎士を突き飛ばすとマリアを背に隠す。


「マリアは一体何があった?」

 背に隠したマリアに問う。

「分かりません。教会に行くと騎士達がいて急に私を捕まえました」

 マリアの話す声から困惑しているのが伝わってくる。

「おい、マリアが何をしたというんだ」

 騎士達を見回しながら現状の説明を聞く。

 すると騎士の中からスレイと名乗った偉そうな騎士が現れる。

「罪人を捕まえただけですよ」

「罪人?」

 スレイの言っている意味が分からず聞き返す。

「私は罪など犯していません」

 マリアがスレイの言葉を否定する。

 私だってマリアが罪人とは思わないので意味が分からなかった。

 それを見てスレイが鼻で笑う。


「先ほど説明したじゃないですか、教会本部に許可なく財を蓄えたこと、女神の恩恵の独占、後者に関しては反逆罪に等しいですよ」

 スレイはそう言うと、何やら細かく記載された紙を私達に見せる。

 そこにはスレイの言っていた罪状が書かれていた。

「財など蓄えていません。それに女神の恩恵とは何ですか? 説明してください」

 マリアは私の後ろからその紙を見ると信じられないといった顔をする。

「教会で保護して人間からお金を受け取っていたんですよね?」

「あれは食事代と言ったじゃないですか」

 以前教会に騎士が来たときもマリアは否定をしていた。

「ええ、そうかもしれませんね。しかしそれが本当かどうかも分かりません。判断するのはあなたじゃないんですよ? あれから届いたあなたな報告を見ましたが食事代にしては多いんじゃないですかね?」

 マリアの言葉を否定するようにスレイはゆっくりと首を振る。

「あれはセイゾーさんが、以前住まれていた人が教会に多めに食事代を入れてくれていたんです」

「それを今更言われても信じられませんし、亡くなっている方の事なんですから好きなように言えますよね」

 スレイがマリアの必死に訴える姿を見て嘲笑する。

 セイゾーとマリアをバカにされたようで腹が立ってくる。


「私は嘘の報告などしません。それに女神の恩恵とはなんですか?」

 マリアが後ろで私の服をつかむ。

 その手からは震えが伝わってくる。

「レンゲさんですよ。あなたは彼女を教会に報告もせず教会にかくまっているじゃないですか」

「あなたは何を言っているんですか?」

 マリアの声色が変わる。

 震える体で私の横に来るとスレイの前に立つ。

 その顔は冷静でスレイを冷たい目で見つめている。

 マリアのこんな表情を見るのは初めてだ。


「怖い顔をしないで下さい。それがあなたの本性ですか? 私だって教会に仕える騎士です。聖典の内容は多少は知っています。先祖の血を濃く受け継いだものは獣へと姿を変えられる。その力は女神の恩恵だという事も」

 スレイは冷静なマリアを嘲笑うように自分の知っている知識をひけらかす。

 私が以外にも獣の姿に変われる存在がいるとは聞いていたが、それは女神の恩恵だったのか。

「違います。聖典に載っているのは文では、その力はまるで女神の恩恵のようだ。です」

 マリアが得意気に解説していたスレイの発言を否定し訂正する。

「そんな浅はかな考えでレンゲさん達が築き上げた生活を壊さないで下さい。どうせ自分の出世のために利用しようとしか思っていないのでしょ」

 マリアの気魄にスレイが後ずさる。

 スレイはマリアの行動が気に食わなかったのか右手を振り上げるとマリアの頬に向かって振りぬく。

 その行動に気づいて止めようとしたが間に合わなかった。

 マリアはその勢いに耐えれなかったのか、私とは反対方向に倒れる。


「ふんっ、シスターの癖に生意気ですね。おい、さっさと捕まえろ」

 スレイの命令で先ほどマリアを捕まえていた騎士が同じようにマリアの腕をつかむ。

「おい」

 我慢が出来ずにスレイの髪をつかむ。

「マリアを離せ」

 スレイの顔を自分の目の前に引っ張るとその目を睨みつける。

「痛いですよ、レンゲさん。離してくれませんか」

 スレイがマリアに見せた態度とは違って笑顔を私に向ける。

 その態度が気に食わなかった。

 その明らかに作り笑いという顔が私の心を余計に苛立たせる。

 マリアがにした平手打ちをしてやろうと空いている方の手を構える。


「だめです!」

 マリアの声でその手が止まる。

「騎士に手を上げてしまったらレンゲさんまで罪人されてしまいます」

 マリアが必死に首を振りながらやめろと訴えかける。

「別に私はレンゲさんが手に入るならどっちでもいいんですよ?」

 そう言ってスレイが私をおちょくるように自分の頬を指差す。

 まるで叩けるものなら叩いてみろと言っているようだ。

 奥歯を噛み締めつかんだ髪を離し腕を下ろす。

 苛立つ気持ちを拳を握り我慢する。


「なんで他の騎士はこいつをほっとくんだ」

 他の騎士がこの状況を見て何もしない事にも苛立つ。

 理由が分からずマリアに問う。

「教会の騎士だからといって立派な人ばかりではありません」

 マリアが悔しそうに答える。

 そんなマリアを捕まえている騎士の表情を見るとにやにやと笑っている。

 まるでこの状況を楽しんでいるような顔だ。

 その顔は私の子供をさらおうとしていた男達と何も変わらない。

 握った拳に爪が食い込む。


「レンゲさん、私の事は放っておいて逃げて下さい。折角セイゾーさんが作ってくれた居場所を守れなくてすみません……」

 騎士に両腕をつかまれたマリアが涙を浮かべ私に謝る。

「謝るな」

 そんなマリアを見たくはない。

「マリアは悪くないじゃないか」

 マリアは私達を受け入れ今まで守ってくれた。

 マリアが謝る必要なんてない。

「レンゲさん……」

 そんな私を見てマリアの瞳から雫がこぼれる。


「茶番は終わりましたか? もうお別れですよ。反逆罪は死刑なんですから」

 スレイが私達のやり取りを冷ややかな目で見つめながら言う。

「死刑だと?」

 マリアの方を向くと沈痛な面持ちで下を向く。

 マリアの態度を見てそれが嘘ではない事を実感する。

「どういうことだ? マリアは悪くないじゃないか。そんな事が許されるのか?」

 マリアが俯いたまま否定してくれない。

 マリアが涙で濡らした顔を上げると私を見ていつものように微笑む。


「セイゾーさんやレンゲさんや子供達に会えて幸せでした。皆さんが大好きです。だからお願いします。逃げて下さい」

 もう二度と会えないようなマリアの言葉を受け入れる事がでず首を振る。

「逃げて!」

 マリアの懇願が響く。

「その女を黙らせなさい!」

 スレイが叫ぶと、マリアを捕まえていた騎士がマリアの顔を地面に押し付ける。

 マリアは小さく呻いただけで抵抗しない。

 無理やり私の方を向くと強い意志を込めた眼光で私を見る。

 目で訴えかけている。

 それが気に食わなかったのか騎士がマリアの顔を踏む。


 もう私は限界だった。

 私を守るためにセイゾーだけでなくマリアまでその命を犠牲にしなければいけないのか。

 抑えきれない怒りが私の心を埋め尽くす。

 私の体が獣へと変わっていく。

「だめです。レンゲさんセイゾーさんの言葉を思い出して下さい」

 マリアの言葉に我に返る。

 私が怒りに支配されたせいでセイゾーを死なせてしまった。

 同じ過ちを繰り返してはならない。

 怒りに満ちた心にほんの少しの冷静さが生まれる。


 獣へと変わった瞬間マリアへと飛び掛り牙を向ける。

 それに驚いた騎士がマリアから逃げるように離れる。

 その瞬間を狙ってマリアをくわえると教会を背にするように飛びずさった。

 もう大切な人を殺させはしない。

 その想いで怒りを無理やり抑え付けた。


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