銭湯開店
銭湯の開店前にすることは多かった。
開店時間をどうするか、お湯の交換の頻度はどうするか、入浴方法の説明等考える事が多い。
開店時間に関しては昼から日没して客足が途絶えるまでで予定した。
日没を過ぎて暗くなると広場以外は人が少なくなるので、とりあえずお試しでこの時間帯にしてお客の要望等も取り入れていく。
お湯の交換に関しては夕方前と日没くらいにする。
入浴方法に関しては脱衣所に案内板を設置することにした。
看板に関してはラビーが私も手伝いたいと言ってくれて書いてくれる事になった。
ラビーは丁寧な字を書くのを知っていたので心配はしていない。
風呂釜の管理は主に私が担当するが、カウンターで接客をしながらなので、火の様子はロッティと黒毛鼠達が見てくれる。
子供達は困っているお客さんの対応をする。
入浴料は銅貨2枚、手拭は持参で銭湯で購入を希望する人は銅貨1枚だ。
かなりやっつけな方法だとは思うが、銭湯どころか店で働いたこともないので営業しながら改善していくしかない。
それからも細かい打ち合わせなどを行い、銭湯完成から5日後に開店した。
建物の改装中から銭湯の噂があったのと、ラビーがギルドでも宣伝を行ってくれたおかげで初日から多くの人が来てくれた。
行列ができる程ではないが、お風呂を待つ人がでるくらいにはお客が入っている。
予想していなかった問題としては、お風呂に入った事がない人が多かったのでのぼせてしまう人がいた事だ。
すぐにマリアが駆けつけてくれて、脱衣所で横にすると頭に水で冷やした手拭を置き休んでもらった。
蒸し風呂も同様で、限界まで我慢する人がいて同様の処置となった。
この問題に関しては入浴説明の案内板に注意書きとして追加する。
お客は昼過ぎから農作業を終えた人が多くなり、夕暮れからはお店を閉めた人や仕事が終わってくる人が多かった。
これは子供達がお客と話して分かったことだ。
日没を過ぎて暗くなるとお客はかなり少なくなる。
この辺りは夜になると明かりもないので予想通りではある。
慣れない事と忙しい事もあって人間に対する苦手意識など気にする暇もなかった。
ラビー一家やレオス一家等知り合いも多く来てくれた。
いつもは夕食もお風呂も済ませている時間になってようやく銭湯を閉めた。
お風呂の掃除は私だけでやろうと思っていたが、黒毛鼠達が手伝ってくれた。
本当に器用になんでもするなと思う。
子供達は暗くなる前に教会に帰らせた。
黒毛鼠達は掃除が終わると露天風呂に浸かっていた。
黒毛鼠の子供達も連れてきて仲良く入っている。
子供の黒毛鼠には深いのではと心配したが、ぷかぷかと浮いて気持ち良さそうにしている。
泳いで遊ぶやつもいた。
黒毛鼠の背中に疲れた様子で座って足湯をしているロッティを肩に乗せて教会に帰る。
肩に乗せたのはロッティが疲れて飛びたくない言ったためだ。
「本当に疲れたわね」
私の肩の上でロッティが私の頭にもたれかかる。
邪魔だと思ったが、黒毛鼠達を指揮して頑張ってくれたロッティを労うためにそのままにする。
「ロッティのおかげで助かったよ」
「まあね、私はすごいから……」
ロッティがそのまま寝てしまう。
肩から落ちないように手のひらにロッティを乗せる。
教会に帰るとマリアが夕食の準備をしてくれており、皆食べずに待ってくれていた。
お疲れ様と帰りを迎えてくれた子供達とマリアの姿に胸が温かくなる。
ロッティも夕食の匂いに目を覚ましたので、皆で夕食を食べた。
当たり前な光景になりつつあるこの夕食の時間も今日の仕事の疲れを癒してくれる空間となる。
食事が終わるとロッティと風呂に入った。
子供達は私を待っている間にマリアと風呂に入っていた。
ロッティは疲れているのか風呂の桶の中でもうつらうつらとしている。
溺れてしまわないように早めに風呂を上がってロッティを寝かしてやる。
疲れていたせいか今日のロッティはやけに素直だった。
「おかあさん、あそぼ」
「いたしばい……いしょによも」
今日はあまり子供に構ってあげられなかったせいか、子供達が甘えてきた。
それが嬉しかったので疲れていたが一緒に板芝居読んでやる。
ハナとレンが膝に乗ってくる。
さすがに2人だと重たいし、変な場所を踏まれると痛い。
こうやって子供達と一緒にいる時間を作るためにも、銭湯の休日の日を作るか人を雇うか考えないといけないな。
板芝居を読み始めて少しすると子供達が静かになった。
膝に乗った子供達の顔を覗き込むと目を閉じて気持ち良さそうに眠っている。
子供達も疲れていたのだろう。
それでも私と一緒に居たくて眠いのを我慢していたのだと思うと嬉しくなる。
子供達を起こさないように順番に抱きかかえて藁のベッドに寝かしてやる。
「寝ちゃったんですね」
なにやら静かに書類を読んでいたマリアが顔を上げる。
「さっきから何を読んでいたんだ」
気になったのでマリアに尋ねる。
「昔この教会でお世話になっていた人に手紙を送った返事が来たんです」
マリアは懐かしそうな顔をして、その手紙を丁寧に折りたたむ。
紙は安いものではないので何か重要な事かと思ったが、手紙の内容を聞くのも失礼だと思い詮索はしなかった。
「私達もそろそろ寝ましょうか」
「ああ」
マリアの提案に疲れていた私は素直に頷く。
明かりを消して横になる。
「レンゲさん。色々ありましたけど、私は今の生活が幸せです」
マリアが静かな声で話す。
「こんな生活がずっと続いてほしいです」
その言葉は私に言ったのだろうか、それはまるで女神に祈るかのように聞こえた。
「私も同じ気持ちだ」
私もこの生活が大切に思っているのは同じ気持ちだ。
マリアからの返事はなかった。
もう寝てしまったのだろう。
私も明日に備えて眠りに就く。




