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銭湯の開店前に

 教会に騎士が来てから2週間が経った。

 いつ騎士がまた来るのではとマリアは少し怖がっていた。

 そんな悪い空気の中で、良い知らせが教会に届いた。


「だいたい完成したぞ」

「不都合な点とかあれば直すから見てくれ」

 ドンとレオスが夕食前の時間に教会にやってきて銭湯の完成を知らせてくれた。

 教会の隣なので進捗状況は分かっていたのだが、建物の中は邪魔になるからと入っていないので、完成間近としか分かっていなかった。

 その報告にマリアも子供達もロッティも喜んだ。

 もちろん私も喜ぶ。

 皆で一緒に銭湯へ向かう。


 銭湯は民家を改装して作ったのだが、建物の面影がほとんどなくなっていた。

 外壁は形を変え新しい木を張り直し、屋根も綺麗になっていた。

 入り口も人が通りやすいように大きめに作り変えられており、家の回りもベンチなどが置かれ憩いの場となっている。

 中に入るとカウンターがあり、左右に男女が分かれる仕組みになっていた。

 男女の部屋の構造は変わらないという事で女性の方に入る。

 10人用の風呂だが、脱衣所は余裕を持たせて20人用の棚が設置されていた。

 20人が一度に着替えるには少し狭いが、一度に皆が着替える状況も珍しいので問題はないだろう。

 脱衣所の扉を開けると風呂がある。

 

 体を洗うように浴槽とは別にお湯が溜めている場所が作られている。

 どこからお湯を持ってくるのかと思ったが、蒸し風呂を蒸すときに使う熱を利用して水を温める作りになっていた。

 風呂場から蒸し風呂へ行く扉があり、男女の風呂がここで繋がっている。

 もちろん覗けないように衝立が設けてある。

 風呂の隅に蒸し風呂の蒸気を通すパイプが通してあって風呂が冷めにくい構造も作られていた。

 先ほど見た体を洗う浴槽と同じ原理だ。

 通しているパイプの量の違いで温度調整をしているのだろう。

 追い炊きができないのでドンが考案したものだ。

 

 元の家の中を見たことはないが、完全に別物になっていると思われる。

 銭湯を出て裏に回ると大きな風呂釜が1つだけあり、この1つですべて問題なく風呂も蒸し風呂も利用できるようだ。

 井戸にも手を加えられており、水を汲みやすくるために釣瓶が3つも付いている。

 組む位置が高い場所にあるのは汲んだ水を温める専用の浴槽との高さとの関係かと思ったが、ロッティが黒毛鼠達に水を汲ませるためにそう作るように提案したらしい。


「大丈夫なのか?」

 心配になってロッティに確認する。

「問題ないわ。ドン達も心配してたけど、何度も実際に水を汲ませてお墨付きをもらったほどよ。その代わり……」

 ロッティが風呂の排水を溜める場所を指差す。

 そころ石が組まれた露天風呂みたいになっていた。

「ここで黒毛鼠達もお風呂に入れてあげてね」

 排水を利用するといっても、そこは外で景色も見えるので中よりもいい風呂に見えた。

「それは問題ない」

「チュッチュッチュー」

「チュチュチュー」

 どこからともなく黒毛鼠が現れて私の周りで嬉しそうに跳び跳ねている。

「ありがとうって喜んでるわ」

 ロッティが通訳してくれるが、見ただけで伝わるくらいに喜んでいる。

 ロッティは黒毛鼠を連れてお湯の入っていない露天風呂へ行くとお風呂に浸かる真似をした。

 想像で楽しんでいるようだ。


「どうだ?」

 一通り見て回った後ドンが私に確認してくる。

「ありがとう。素晴らしい作りだ。特に問題があるようには見えない」

 それを聞いて当然だろと言わんばかりにドンが笑う。

「試運転は済ませているが、何かあれば言ってこいすぐに直す」

「内装とかの問題なら俺に言ってきてもかまわねーぜ」

 ドンとレオスが胸をはる。

「本当にありがとう」

 そんな2人に頭を深く下げお礼を言う。

「ありがとうございます」

「ありがとー」

「ありがとう……」

 マリアや子供達も私に続いて頭を下げた。

「よせよ、俺達も興味があったしな」

「そうだ、町の人のためにもなる」

 レオスとドンは照れくさそうに頬をかく。


「それで名前はどうする?」

「名前?」

「銭湯の名前だよ。銭湯って名前でいいのか?」

 銭湯を作ることばかりを考えていて名前を考えていなかった。

 他に銭湯もないし問題はないか。

「構わない」

「ちょっと待ちなさい」

 私の言葉を聞いてロッティが止める。

 いつの間に露天風呂から戻ってきたようだ。

「それは可愛くないわね」

 ロッティが首を振っている。

「じゃあ何がいいんだ?」

 ロッティが腕を組んで考える。

「ロッティの湯」

 名案を思いついたとかのように目を開いて銭湯の名前を口にした。

「かわいいー」

「ローティーのゆ……でもいい」

 ハナも思いついたのか案を口にした。

「妖精の風呂みたいだな。それなら蓮の湯でもいいんじゃないか」

 私が何気なく口にしたら皆が私に注目する。

「いいですね」

「いいじゃねーか」

「いいな」

 大人たちは気に入っている。

「蓮なら私も賛成ね」

「わたしたちの、なまえのはな」

「はすのゆ……いいひびき」

 ロッティと子供達も問題なさそうだ。

「それなら蓮の湯にするか」

 私の言葉に一同が賛成してくれた。


 レオスがその名前の看板を明日作ってくれる事になった。

 私達も準備等をして開店に備えなければならない。

 銭湯が町の人に受け入れられるか心配な気持ちはあったが、同時に少しわくわくとする気持ちがあった。

 それは他の皆も同じようで、どこか挑戦的な瞳をしていた。

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