ラドの許可
教会に帰ると騎士は帰っていた。
マリアは少し疲れた顔をしていたが、私達が帰ってきたのに気付くとすぐにいつもの微笑を浮かべる。
「おかえりなさい。あら、ハナちゃんも、レンちゃんも、泥だらけですね」
子供達がマリアに嬉しそうに泥団子を見せる。
「すごい上手に出来てるわね」
泥団子を見せた子供達の頭を撫でている。
子供達もその反応に満足そうな顔をする。
「マリア、すぐに風呂を沸かすから子供達を風呂に入れてくれ」
子供達の相手をしているマリアに声をかける。
「構いませんけど、レンゲさんは?」
「私は風呂を沸かしたらラドに会いに行く」
許可が貰える貰えないに関わらず、早めに話をしておいた方がいいと思った。
「分かりました」
マリアは理由も聴かずに了承してくれた。
マリアの了承を得るとすぐに風呂を沸かし、ラドの家に向かった。
家にはラミットしかいなかった。
ラドは農場の方にいるらしく、ラミットがお茶を誘ってくれるが、丁重に断って農場に行く。
農場に着くとラドとロッティは黒毛鼠の所にいた。
「何してるんだ?」
私の声を聞いて2人がこちらを向く。
「レンゲじゃない、ちょっと見ていきなさいよ」
ロッティが何やら自慢げな顔をする。
ロッティが黒毛鼠達を指差すのでそちらを見る。
黒毛鼠が何やら小さな看板を手に持つ。
『こんにちは』
看板を見るとそう書かれていた。
まさかもう言葉を覚えさせたのだろうか。
「チュチュー」
「チュッチュチュー」
黒毛鼠達が何を言っているか分からない。
「レンゲは黒毛鼠と知り合いなのね。すごいでしょって言ってるわよ」
確かにすごいし、びっくりした。
「ラドとロッティで教えたのか?」
「おらは看板を作っただけだ」
「ラドの話を聞いて面白そうだから私が手伝ってるのよ」
この短時間でよく教えたものだ。
理解する黒下鼠もやっぱりすごいな。
「まだ、挨拶とか簡単な単語しか分からないけどね」
ロッティがそう言うが十分過ぎると思う。
「レンゲは何しに来たのよ?」
「ラドに用事があってな」
「おらにだか?」
用事があるといわれてラドが何の事か分からず首を傾げる。
そんなラドに今回の銭湯の話と、空いている空き家を貸してもらって改装していいか聞いてみた。
「問題ないだ」
考える様子もなく即答された。
逆にこちらが心配になるくらいの返事だった。
「本当にいいのか?」
心配になり再度確認する。
「構わないだ。ラビーも妻もお風呂が出来たら喜ぶだ。おらも入ってみたいだ」
どうやらラビーからお風呂の話を聞いていて夫婦共に興味があったらしい。
こんなにあっさり決まるとは思っていなかった。
レオスとドンが心配していなかった理由もラドの人柄を知っていたからかもしれない。
ラドにお礼を言って帰ろうとするとロッティが止める。
「ちょっと、一緒に帰りましょうよ。それで、持って貰いたいものがあるの」
ロッティに案内されてラドと一緒に付いていく 。
ロッティはそのままラドの家に入ると、入り口近くにあるものを指差す。
「これか?」
そこには包みと子供達の半分の高さくらいの樽があった。
「この樽はさすがに私じゃ持てないわ」
「何が入っているんだ?」
「ワインよ」
こんな量のワインをどこで手に入れたんだろうか。
ここにあるという事はラドから貰ったのだろうか。
「余ってるやつだからやるだ」
ラドが笑みを浮かべながらそう言った。
やると簡単に言われてもこの量だと結構な価値があるんじゃないだろうか。
私が心配しているのが分かったのかラドが私の肩を叩く。
「おらも貰ったもので、ラビーが飲みすぎるから隠してただ。貰ってくれた方が嬉しいだ」
ロッティがねだったのかと思ったらそういう理由があるらしい。
「レンゲ、私が無理やりもらったと思ってたでしょ」
ロッティがじとっとした目で私を見る。
「すまん、少しだけ思った」
「いいわよ。こっちの包みの中身は私が作ってもらったものだし」
他の物をねだっていたようだ。
中身を見せてもらうと小さなコップ等ロッティの体格に合わせた物が入っていた。
服もあるが、ラミットが作ったのだろうか。
ロッティはいつ湖に帰るのかと思っていたが、これを見ると当分の間は一緒に生活するようだ。
ラドにお礼を言ってロッティと教会へ向かう。
樽は何とか持てるくらいの重さだ。
成人男性の重さくらいはあるんじゃないだろうか。
重さよりも持ち方が分からないので持ちにくい。
「ねえ、迷惑じゃないかしら」
樽の持ち方を考えていた私にロッティが話しかけてくる。
「何がだ?」
「急に押しかけてよ。何だかあんた達といると楽しそうだなって思って」
付いてきた理由はそういうことだったのか。
「私は迷惑じゃないし、マリアも迷惑に思ってないだろ。子供達もロッティを気に入っている」
「レンゲは?」
私がロッティを気に入ってるかどうかも気になるのだろうか。
「気に入ってるよ」
「そっか……」
なんだか嬉しそうな顔を浮かべて上機嫌に空を飛んでいる。
ロッティ風に言うと月の淡い光を浴びて空を優雅に舞っているというとこだろうか。
淡い光の元を探して空を見上げる。
夜空に月が浮かんでいる。
それは当たり前の光景だ。
そんな当たり前の光景を元の世界では眺めることもなかった。
私も随分と変わったのだなと思う。
「どうしたのよ?」
いつの間にか立ち止まっていた私を心配してロッティが声をかけてくる。
「なんでもない」
ロッティにそう言うと教会までの短い距離を歩いた。




