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ナイフの持ち主

 翌朝、マリアが部屋を出る音で目が覚める。

 昨日は疲れていたせいか早く横になったのでぐっすりと眠れた。

 子供達を見るとまだ寝ている。

 ロッティも寝ている。

 眠っていると綺麗な妖精に見えるな。


 顔を洗いに外に出ると涼しい風が通り過ぎる。

 この世界に来たときはまだ朝は寒かったが、今は日中が暑く朝は涼しく感じられる季節になった。

 井戸の横の置かれた水瓶から水を取り顔を洗う。

 冷たい水が残っていた眠気を水と一緒に洗い流してくれるようだ。

 風が気持ちいいのでしばらく井戸の近くで涼んでいると部屋の中から鳴き声が聞こえる。

 何かあったのかと思い急いで部屋に戻るとレンが泣いていた。

 ハナがそんなレンを抱きしめ頭を撫でている。


「あ……おかあさん」

 私に気付いたハナが声をあげる。

 泣いていたレンもそれを聞いて私を見る。

「なんでかってに、いなくなるの!」

 何故だか知らないが怒っている。

「こわいゆめ……みたみたい」

 それで私がいなくて泣いたのか。

「あかあさん、あやまって」

 私が悪いのだろうか。

「はやく、あやまって!」

 謝らないとレンの機嫌が直りそうにない。

「すまん」

「ちゃんと、あやまって」

 あれでは許してもらえないみたいだ。

「ごめんなさい」

「いいよ」

 それを見てハナが笑っている。

「なんで、おねえちゃん、わらってるの?」

 レンが不思議そうにハナを見つめる。

「セイゾーもそうやって……レンに叱られてた」

 ハナがそう言うとレンも一緒に笑い出した。

「別にレンゲが悪い訳じゃないわよ」

 いつの間にかロッティがそばにいて私の肩に座ると慰めてくれた。

 皆起きたので朝の準備をして朝食に向かった。


「今日はシティの所に行ってナイフを渡してくる」

 食事が終わるとマリアにそう告げる。

「わかりました。気を付けてくださいね」

 マリアが少し心配そうな顔をする。

 知らない相手なので少し嫌な気持ちがあるが、私が見つけて勝手に使ったナイフだし私が返すのが筋だろう。

 子供達はマリアの手伝いだ。

「私はラミットの所に行って来るわ」

 ロッティも何か用事があるようだ。

 お菓子をねだりに行くのでなければいいのだが。

 子供達が羨ましそうな目で私とロッティを見る。

「用事が終われば帰ってくる。そしたら遊ぼう」

 子供達の頭を撫でる。

「私もそうするわ」

 ロッティが子供達の前へ飛んで行くとサムズアップする。


 ロッティと一緒に教会を出ると、ロッティを農場へ送る。

 ロッティは町では珍しい存在だし何か問題が起きるのではないかと思うと心配になる。

「近いんだし別に送らなくてもいいわよ」

「ロッティが心配だからな」

「なっ、何言ってんのよ。あんたに心配されても別に嬉しくないわよ」

 恥ずかしかったのかそう言って私を置いて先に飛んでいく。

 私はそれを追いかけたが、すぐにラビーの家に着いた。

「ほら、もう着いたわ。あんたも気をつけて行って来なさいよ」

 そう言ってロッティはラビーの家に入っていった。

 それを見届けると私も町の西に行く。


 町の西は、前に侵入する時に通ったが、夜だったし急いでいたこともありよく見ていない。

 東と同じで家は少ないが、東に比べると少し豪勢な家が目立つ。

 その中からシティの家を探す。

 私が家を探していると、自警団が話しかけてきた。

 その顔を見ると門番をしていた男だ。


「この前はフライングラビットをありがとう。ところでこんな所で何やってるんだ?」

 今日は門番ではなく見回りなのだろうか。

「シティの家を探している」

「シティさんの家ならあそこだよ」

 自警団の男は近くの家を指差した。

 この前兎を安く譲ったお陰か私を疑いもせずに教えてくれ。

 その家も豪勢ではあるが、他の家ほどではなく落ち着いた雰囲気が感じられる家だった。

「ありがとう」

 自警団の男に礼を言うと早速その邸に向かった。


 邸の敷地は私の胸の高さ程度の垣根に囲まれている。

 垣根の切れ目の入り口から邸の玄関までは石畳で、庭には芝生のような草が植えられており花壇もある。

 手入れがされているようで見ていて気持ちのいい庭だ。

 邸の玄関に着くと扉をノックする。

 しばらく待っても反応がないのでもう一度大きめにノックする。

 そうすると扉が開いた。

「うるさいね。聞こえてるよ。がんがん叩くんじゃないよ」

 不機嫌そうに老婆が顔を出した。

「私はレンゲという。あんたがシティか?」

 老婆が眉間にしわを寄せる。

「随分と偉そうな喋り方だね。私がシティだよ」

 この不機嫌そうな老婆がシティだった。

 私はナイフを取り出しシティに見せる。

「あんた初対面の相手にナイフを突きつけんのかい?」

「違う」

 シティに柄の部分を見せる。

「見えやしないよ。ちょっと中に入りな」

 そう行ってシティが中に入っていくので付いていく。


 中はラビーの家より広かった。

 玄関を入ると土間はなく、すぐに靴を脱いであがるようになっている。

 床板は木を磨き上げ何かを塗ってあるのか綺麗なフローリングのようになっており、壁も同様だ。

 華美な装飾はないが木材の美しさだけで高級感が出ている。

 感心しながらシティが入った部屋に私も入る。

 シティは机からメガネを取り出してかけると、私からナイフを受け取り柄を見る。

 すると急に驚き震えるようにして私の方を向く。


「あ、あんた一体これをどこで」

 その瞳には涙が浮かぶ。

「近くの村だ、今は廃村だったか」

「どの家だい」

「入り口近くだ。その家に布に包まれ大事に保管されていた」

 それを聞いたシティは涙を流しながらそのナイフを胸に抱く。

 私は声をかけることも出来ずにシティが落ち着くのを待った。


「すまないね。取り乱しちまったよ」

 シティはポケットから取り出した手拭で涙を拭くと大きく深呼吸をした。

「こりゃ私の旦那のだ」

「ラビーからそう聞いてここに持ってきた。すまんがそのナイフを何度か使わしてもらった」

 獣の解体などに使った事を老婆に説明した。

「こんなナイフで解体なんてするんじゃないよ。これだから若いもんは」

 そう言ったシティの顔は怒ってなどおらず、むしろ笑みを浮かべている。

「旦那が大切にしていたんだけどね。なくしたと思ってたよ」

 そう言ってシティがゆっくりと昔を懐かしむように語りだした。

 あの村を出たのは40年以上も前の事で、その当時はまだこの町もこれほど大きくなく、周辺の村で協力して道を作り、土地を広げ、みんなで寄り集まって今のこの町の原型を作り上げたらしい。

 その当時に飢饉とモンスターの大量発生が重なり、かなり悲惨な状況に多くの村が陥ったことでこの町を作る計画ができた事も教えてくれた。

 このナイフはそんな悲しい思い出の村に忘れたまま取りに行けなかったのかもしれない。


「今まで気にもしていなかったナイフなんだけどね、旦那が死んでから妙に気になっていたんだよ。まさか届けに来るやつがいるとはね」

「大切にしていたのは見て分かっていたからな。持ち主が分かれば返すさ」

 老婆はそれを聞いて嬉しそうに笑う。

「あんた、レンゲといったかね。何かお礼をしなくちゃね」

「気にするな」

 お礼が欲しくて返しに来たわけじゃない。

「若いくせに欲がないね。欲しいもんはないのかい?」

「欲しかったものは今私のそばにいるよ」

 シティも昔の話を聞かせてくれたので、私も離れていた子供達と再会できた事を話す。

 何故かシティがまた泣き出した。

「レンゲがあの噂の教会の女だったのかい。この町が不甲斐ないせいでレンゲには悲しい思いをさせちまったね。亡くなった男にも本当に申し訳ない事をしたよ」

 この人も私達のために涙を流してくれるのか。

 私達の事を知らなかったはずなのに不思議なものだ。


「私に何かしてやれることはないかい?」

 シティが老婆とは思えない強く真っ直ぐな瞳を私に向ける。

「気にするな。セイゾーが作ってくれた居場所に子供達と居れるだけで私は幸せだ。今はマリアもいるしな」

 あと小さい同居人も増えたなと心の中で思う。

「それじゃあ、用は済んだから私は帰る」

 このままここにいたらシティに気を使わせてしまいそうだ。

「本当にありがとうね」

 そう行ってシティは部屋を出る私に深く頭を垂れ続けた。


 セイゾーがいなければナイフを返すことも出来なかった。

 これもセイゾーと関わって生まれた絆なのだろうか。

 私はそんな事を考えながら教会へ歩いた。


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