教会への帰り道
子供達が期待する目で私を見ている。
早く獣の姿になってほしいのだろう。
私は服を脱ぐとマリアに蓮の花と一緒に渡した。
マリアはそれを文句も言わずに受け取ってくれた。
バスケットに服を綺麗に畳んで入れると、その上に花を乗せている。
「ちょっと、また裸になるの?」
ローティーは私が獣になって子供達を乗せる事を知らなかったので、突然私が服を脱いで驚いている。
「子供達を乗せると約束したんだ」
そうローティーに言うと獣の姿へと変わった。
子供達が背に乗りやすいようにその場に伏せる。
「わーい、はやくのろー」
「うん……たのしみ」
レンがハナの手を引いて私の上に乗る。
子供達が乗っても重いとは感じないが、毛を引っ張られるくすぐったい。
立ち上がろうとするとマリアが自分を指差している。
意味が分からず立ち上がると、マリアは首を振って指で地面を指している。
もしかして伏せろと言っているのだろうか。
試しに伏せてみるとマリアが嬉しそうに私の背に乗ってきた。
マリアを乗せるとは言っていないが、今更降りろとも言えない。
マリアが乗って事を確認すると再び立ち上がる。
その時ローティーが私の頭に乗った。
「お前は飛べるんじゃないのか?」
「いいじゃない。私も乗りたいのよ」
降りる気はないようだ。
4人を乗せてゆっくりと走る。
重さは大したことはないが、落ちないように気を使うのが大変だ。
「はやーい、はやーい」
「すごい……きもちいい」
子供達の楽しそうな声が聞こえる。
自分の背中に子供達を乗せて走る日が来るとは夢にも思っていなかった。
「ちょっと、速すぎじゃないですかね。私バスケットを持ってるんですよ」
マリアは少し怖がっている。
そういえばマリアが荷物を持っているのを忘れていた。
「気持ちいいわね。私じゃこんなに早く飛べないわ。もっと飛ばしなさい」
ローティーは自分が落ちても飛べるからと無茶を言っている気がする。
マリアのために少し速度を落として駆ける。
「おかあさん、とまってー」
レンが叫ぶ、何かあったのだろうか。
ゆっくり速度を落として止まる。
私が止まるとレンが私から飛び降りる。
「おい、どうした」
「レンゲがどうしたって言ってるわよ」
ローティーが私の言葉をレンに伝えてくれる。
「ササユイもとってくるー」
レンがそう言うと湖に行く道中で見た花を2本だけ持ってきた。
「レン……ササユリだよ」
ハナがレンに間違いを指摘する。
「あ、ササユリかー」
レンは笑って私の上に片手に花を持ったまま器用に乗る。
「はい、おねえちゃん」
レンが持っていたササユリの1本を花に手渡す。
「え……いいの?」
「うん」
「ありがとう……」
ハナは嬉しそうにレンから花を受け取った。
レンの行動に私が花を受け取った訳でもないのに嬉しくなる。
レンが乗るのを確認したら、少しでも長く乗せてあげたいので林の出口までゆっくり歩く。
林の出口まで距離は離れていなかったのですぐに到着する。
出口で伏せると皆を降ろした。
元の姿に戻るとマリアから服を受け取る。
「おかあさん、あげるー」
レンが持っていたもう1本のササユリを私に渡してきた。
自分のではなかったのだろうか。
不意打ちのその行動に目頭が熱くなるのを感じる。
「ありがとう。嬉しいぞ」
レンを抱きしめる。
「おかあさん、どうしたの?」
急に抱きしめられてレンが戸惑っている。
「なんでもない」
すぐにレンを解放してやる。
「さて、帰るか」
そうして皆で町まで歩いた。
ラビーの家まで着くとラミットがいた。
「おかえりなさい」
笑顔で私達を迎えてくれた。
「あら、ローティーまで一緒に帰ってきたのね。可愛いお客様だわ」
私の獣の姿を見た時も驚かなかったが、ローティーを見ても驚いていない。
「そうよ、私は可愛いの。よろしくね」
ローティーはラミットの近くに飛んでいくと挨拶をしている。
ラミットがどこに持っていたか分からないがお菓子をローティーに渡す。
「ありがとー!」
ローティーが嬉しそうにこちらに飛んでくる。
「あの人はいい人だわ」
お菓子をくれたからだろうか?
変な人に付いていかないか心配になる。
「あら、その手に持っているのはササユリ? もう咲いているのね。やっぱり綺麗だわ」
ラミットが私が持っている花を見つめる。
「レン……」
私の横でハナがレンに何か耳打ちしている。
レンがハナの言葉に頷くと、ハナがラミットに駆け寄った。
「これ……あげる」
持っていたササユリをラミットに渡す。
「え? いいの?」
ラミットが驚いた顔をしてハナを見る。
「うん……」
ラミットはしゃがむとハナの頭を優しく撫でた。
「ありがとうね。おばさんがいい事教えてあげる。ササユリの花言葉は上品とか希少って意味なの」
「じょうひん……きしょう?」
「そうよ。マリアが持っている蓮のお花は清らかな心って意味の花言葉があるの。まるであなた達みたいね」
そう言ってもう一度ハナの頭を撫でるとラミットは立ち上がった。
「今日はお夕飯は皆で食べましょ」
ラミットが私達にそう提案する。
「いいですね。まだ食事の用意をしていないし助かるわ」
マリアも賛成のようだ。
マリアがいいのなら私達に反対する理由もない。
今日はラビーの家でご馳走になる事になった。
「それじゃあ、おばさん今から張り切って用意するわね」
これだけの人数分を作るのは大変だと思うのにラミットが嬉しそうな顔をしている。
「何か手伝おうか?」
私がそう言うとラミットはマリアが持つ花を見つめる。
「あの花をセイゾーさんに供えるんじゃないの?」
優しく微笑んでくれた。
「ああ、行ってくる」
ラミットにそう告げると、皆で教会に戻ることにする。
「マリア……おはなもつ」
「あたしもー」
子供達がマリアから蓮の花を受け取る。
「おかあさん、きょうそうしよ」
「また……きょうそう?」
その手に花を握り締めレンが走り出す。
突然走り出したレンをハナが追いかける。
「おい、こけるなよ」
私を置いて走る子供達を追いかける。
「え? 走るんですか?」
後ろからマリアの驚く声が聞こえる。
私達は教会へと走り出した。




