花のために
ローティーはクッキーを食べるとお茶まで飲んでいた。
すっかり子供達と打ち解け合っている。
「そろそろいいか?」
ローティーに近づく。
「話って何よ」
ローティーが羽を使って器用に私の顔の高さに浮く。
「蓮華を譲ってくれ」
ローティーに頭を下げお願いする。
「蓮華って蓮の花のこと? だったらだめよ」
予想はしていたが断られた。
「何故だ?」
「何故って、この花は私達が咲かせた花なのよ? 他の皆も大切にしているの。あんた達にあげないわ」
他の皆?
「ローティー以外にも妖精がいるのか?」
「皆ローティーよ」
「ローティーはお前だろ?」
「私もローティーだけど、皆もローティーなの!」
顔の近くで大声を出され耳が痛い。
もしかしてローティーは妖精の種類の名前なのだろうか。
「名前はないのか?」
「名前? そんなのないわよ」
「不便じゃないのか?」
「今まで困ったことないわ」
妖精同士は名前がなくても困らないのか。
ローティーが言うのだからそうなのだろう。
「どうしたら花を譲ってくれる? 何かと交換できないか?」
「だめなものはだめよ。 交換したいものなんてないわ」
「菓子は?」
「ぐっ、お、お菓子でもだめよ」
あれだけ好きそうだったお菓子でもだめなのか。
私が困っていると子供達がローティーを見つめる。
「ローティー、どうしてもだめ?」
「どうしたら……いいの?」
悲しそうな顔でローティーにお願いしている。
「ごめんね。分けてあげたいんだけど、私が勝手に決めれないの」
子供達に申し訳なさそうにローティーが説明する。
態度が違い過ぎる。
「そんなー」
「おはな……ひつよう」
子供達が瞳に涙を溜める。
私だと耐えそうにない顔をローティーに向け続ける。
「ちょっと、子供を使うのはずるいんじゃない!?」
ローティーが私を睨む。
「いや、私がやらせた訳ではない」
ローティーも子供にあんな顔をされたら耐えれないようだ。
「ローティーの皆さんがいいと言えばいいんですか?」
私達を見守っていたマリアが話に入ってきた。
「まあ、そうなるわね」
「どうすればローティーの皆さんが納得してくれますか?」
「余程のことでもないと納得なんてしないわよ」
ローティーがそっぽを向く。
「余程困ってることはないですか?」
「え!? あんたには関係ないわ!」
「あるんですね?」
ローティーが後ろにいるマリアから見えないように私の胸に隠れる。
「ちょっと、この女がどんどん質問攻めしてくるんだけど」
そう言ってまた私を睨む。
「私を睨むな。文句はマリアに言え」
「なんか目が怖い」
ローティーが私だけに聞こえるように小声で話す。
マリアはまたあの目になってたのか。
「それで、困ってることがあるのか?」
「まあね。 でも人間や獣人のあんた達に言っても仕様がないわ」
ローティーが私の胸につかまったまま話す。
邪魔だから離れてほしい。
「一応聞かせてくれないか」
「まあ、別にいいけど」
そう言ってローティーが渋々といった感じで口を開く。
「ここに住む私達を気に入った化物がいて毎日のようにここに来るのよ」
「化物?」
私はここに初めて来るので私ではない。
「モホークモンキーって知ってる?」
「それが化物の名前か」
「違うわ。頭にとさかを生やした猿よ」
いつもの猿か。
あの猿はそんな名前だったのか。
「あの猿ってそんな名前だったんですね」
マリアも驚いている。
知らなかったのは私だけではないようだ。
「あの猿くらいなら私達でも追い払えるわ。その猿よりすごいでっかいボスがいるの。他の猿よりもとさかも大きくて顔も怖いのよ」
そんな猿を見た気がする。
「そのボス猿が私達をいやらしい目で見ながら湖の周りを歩くの。みんな怖がって隠れて出てこなくなったわ」
ローティーは思い出したのか自分の体を抱きしめ震える。
「いつもは他のローティーも飛び回ってるのか?」
「なんか嫌な言い方ね。葉の上で日光浴したり。優雅に空でダンスをしてるのよ」
「飛び回ってるんじゃないか」
「言い方!」
ローティーが怒って私の頭を叩く。
別に痛くないのでそのままにする。
「そのボス猿を来ないようにしたらいいのか?」
「見たこともないからそんな軽口が叩けるのよ。腕や体はすごい筋肉で他の猿と比べ物にならないのよ」
「レンゲさん、さすがに危険なのでは、そんな猿は聞いたこともないですし」
マリアが不安そうな顔をする。
「おかあさん、あぶないの?」
「あぶないこと……しないで」
マリアの不安が伝わったのか子供達まで不安そうにしている。
私の予想が間違いなければ、農場に来たボス猿だ。
特徴も一致している。
「そのボス猿を懲らしめたら他のローティーに花の事を相談してくれるか?」
「できるもんならやってみなさいよ。できなかったら笑ってやるわ。できたら何でもお願いを聞いてあげる」
「その言葉忘れるなよ」
ローティーから言質を取った。
後はボス猿を探すだけだ。
「ボス猿はいつ頃来るんだ?」
「すぐ来るんじゃない? 多い日だろ1日で2、3回も来るわよ」
余程ローティーにご執心のようだ。
いい機会なので、子供達に獣の姿を見せることにする。
セイゾーを信じるなら怖がらないはずだ。
「ハナ、レン、私は今から獣になる」
「は? あんた何言ってんの?」
ローティーがうるさい。
「けものー?」
「けものに……なれるの?」
「あら、子供達は知らなかったんですね。いいんですか?」
マリアが少し心配そうにする。
「怖がるかな?」
「それはないと思いますよ」
マリアもセイゾーと同じ事を言ってくれた。
私は服を脱ぐ。
「え!? なんで裸になってるの?」
「わたしも……ぬぐ?」
「あたしもー」
マリアが急いで子供達が服を脱ぐのを止めてくれた。
それを確認して獣の姿に変わる。
「えぇー!? でかっ! なんで犬の姿になれるのよ!?」
ローティーが騒がしい。
「おー、かっこいい」
「わたしも……なりたい」
その姿を見て子供達がまた服を脱ごうとするがマリアがそれを許さない。
この姿になると人間と会話ができないのが不便だ。
「ちょっと、何とか言いなさいよ。何よその姿は」
「さっきからうるさいぞ」
どうせ吠えているようにしか聞こえないだろうと思ってローティーに文句を言う。
「うるさいって何よ!」
「え? お前私の声が聞こえるのか?」
「今喋ってるじゃない」
子供達とマリアを見る。
「おかあさんが、わんわんいってる」
「なんか……かわいい」
「やっぱり怖がらなかったですね」
私の声は聞こえてないようだ。
マリアは子供達が怖がっていない事が世予想通りだったのを嬉しそうにしている。
「何でローティーだけ私の声が聞こえるんだ?」
「それは私がすごいからよ」
胸をそらして自慢げにしている。
このローティーだけは特別な妖精なのか。
「他のローティーとは私は話せないのか?」
「皆話せるわ」
このローティーに感心した私がバカだった。
「ちょっと、ちょっと、ボス猿が来たわよ」
ここから離れているが湖の辺にボス猿の姿が見える。
そのまま水際に沿ってゆっくりと歩いている。
「あの化物よ? 見たでしょ? あんた体はでかいかもだけど懲らしめれるの?」
「まかせろ」
ローティーにそう言うと、ボス猿に気付かれないように木々の中を駆けた。




