湖へ行く前に
「おかあさん……あさだよ」
「あさだぞー」
子供達の声で目が覚める。
昨日はマリアと話していていつもより寝るのが遅かった。
子供達が私の体をゆする。
なんだかそれが心地よい。
そう思っていたら、急に体に衝撃を受ける。
「うっ!」
いきなりだったので声が出てしまった。
目を開けて見ると、レンが私の上に飛び乗っていた。
朝から元気な娘だ。
楽しそうに笑う姿に怒る気も失せる。
「急に乗ったら苦しいだろ」
「おはよー、だっておかあさん、おきないから」
「おかあさん……おはよう」
私が起きないのが悪かったようだ。
レンを持ち上げ名がながら体を起こす。
「おはよう」
そう言って立ち上がり部屋を見回すがマリアはもう起きて朝食の支度に行っているようだ。
子供達を連れて顔を洗うと、マリアの家に行く。
「おはようございます」
マリアが笑顔で挨拶をしてくれる。
「おはよう、マリア」
「マリア、おはよー」
「マリア……おはよう」
子供達は再会したときからマリアを呼び捨てにしていたが、マリアも気にした様子はない。
「マリアお姉ちゃんって呼んでみるか?」
子供達に提案してみる。
「マリアはマリアだよー」
「マリアおねえちゃん……いいにくい」
「あら、そう呼ばれるのも嬉しいですね」
マリアは嬉しそうにしているが、子供達はそう呼ぶ気はなさそうだ。
マリアが朝食をテーブルに並べ終わると皆で食べる。
朝食を食べ終わる頃に今日の予定を子供達に話す。
食べている時に話すとレンが話しに夢中になりそうだ。
「今日はみんなで湖に行くぞ」
「みずうみ……? わからない」
ハナもレンも湖が分からないみたいだ。
「大きい水たまりみたいなもんだ」
「おー、すごーい、おねえちゃんあそぼーね」
「レン……いっぱいあそぶ」
子供達が何か勘違いをしている。
遊びに行くのではないのだが。
「花を取りに行くんだ」
「わたしを……?」
ハナが首を傾げる。
その仕草はとても可愛い。
「いや、ハナじゃなくて花だ」
「ん……?」
セイゾーが付けた名前のせいで説明が難しい。
「蓮華の花を取りに行くのよ」
マリアがフォローしてくれる。
「おかあさんとおねえちゃん?」
レンまで首を傾げる。
マリアが余計に子供達を混乱させた。
子供達が2人揃って首を傾げているので可愛さが何倍にもなる。
「言い方が悪かったわ、蓮華という名前のお花を湖に取りに行くのよ」
「なまえが……おかあさんといっしょ」
「そういうことかー」
子供達が納得してくれた。
「私の名前と同じで、2人の名前を合わせたものだ」
子供達に蓮と華という字を合わせると、蓮華という文字になる事を説明する。
「変わった文字ですね。セイゾーさんはレンゲさんから名前をとって子供達に名前を付けたんですね」
「いや、子供達に名前を付けた後に私の名前も付けてくれた」
マリアが首を傾げる。
子供達には負けるがマリアも可愛い仕草だ。
「レンゲさんの名前もセイゾーさんが付けたんですか?」
「ああ」
マリアが少し考えて納得したような顔をする。
「昨日の話からするとレンゲさんも名前がなかったんですね」
理解が早くて助かる。
「ああ、子供達の名前を合わせて私の名前にしたんだ」
「そう言われると3人の名前が特別な感じがして今まで以上に素敵に聞こえますね」
「あたしとおねえちゃん、あわせたらおかあさん」
「セイゾー……すごい」
初めから考えていたらすごかったかもしれないが、たまたまそうなったのだろう。
それでも私はこの名前が好きだ。
名前の話が一区切りするマリアが食器を片付ける。
私は湖に出かける前にマリア昨日欲しいと言っていた破れた服を探しに行こうと考えた。
「マリア、昨日の言った破れた服を探しに行って来る。すぐに戻る」
「そんな急がなくてもいいんですよ?」
「時間はかからない。ハナとレンはマリアと待ってろ」
「わかったー」
「いってらっしゃい……」
子供達に見送られて村に行く。
林まで行くと、服を脱ぎ獣の姿になる。
この方が早い。
村まで林の中を駆ける。
村に着くと破れた服を探した。
たしか使っていた家の近くで獣の姿になった時、破れてそのままにしているはずだ。
焼けた家の回りを探すが見つからない。
燃えてしまったのだろうか。
風に飛ばされた可能性もある。
捜索範囲を広げると、村の柵に引っかかっていた。
見つかってよかった。
ついでに村に置いていたナイフもくわえて服を脱いだ場所に戻ってから教会に戻った。
「ただいま、マリア見つけてきたぞ」
「本当ですか! 見せてください」
マリアがすごい食いついてきた。
「これが女神セーイスが与えた服ですか、子供達と同じで上質な生地ですね」
すごく嬉しそうだ。
「もらっていいんですか?」
「ああ」
「ありがとうございます。大切に保管しますね。あら、そのナイフは?」
マリアが私が持っていたナイフを見ている。
「これは女神から貰ったものではなくて、村で見つけたものだ」
マリアにナイフを渡す。
「そうなんですか……」
すごく残念そうにしている。
「あら、消えかかってますけど名前が書かれていますね」
マリアがナイフの柄を見つめている。
名前が書かれていたことに気付かなかった。
「タウンって書かれてますね」
「知っている人か?」
「聞いたことあるような……」
マリアが必死に思い出そうとナイフを持って揺らしている。
危ないからナイフは置いてほしい。
「すみません、思い出せないです。ラビーなら仕事で色々な人と接するので分かるかもしれません」
マリアがそう言ってナイフを私に返してくる。
「大事に保管されていたからな。持ち主がいるなら返したい。今度ラビーに聞いてみる」
少しぞんざいに扱ってしまったが、そこは許してもらおう。
「まだ、いかないの?」
「はやく……いこ」
マリアと話していると子供達がもう出発したそうに私の服を引っ張る。
「マリアは準備できてるか?」
「はい、大丈夫です」
そう言って何やらバスケットを手に持つ。
「それは?」
「せっかくみんなで湖まで行くので、簡単なお菓子を作りました」
「おかしー」
「はやく……たべたい」
子供達がバスケットに熱い視線を送っている。
教会では食事は朝と晩だけで、お腹が空くと昼くらいに軽く何かを口に入れる。
1日2回も食事が取れるので私は満足しているが、子供達は育ち盛りなのか昼に食べ物を欲しがるらしい。
お菓子が食べたいだけかもしれない。
準備ができたようなので湖に向かうことにした。




