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名前の花

 事務所の中は色々な物が置かれていた。

 外見どおりそんなに広くはない。

「そこに座ってよ」

 タイガに促されて小さなテーブルと椅子が置かれている場所に腰掛ける。

 少し待っているとタイガが奥からお茶を持って現れた。

 タイガはお茶をテーブルに置くと反対の椅子に腰掛ける。

 お茶にはクッキーのような焼き菓子が添えられていた。


「遠慮しないで飲んで」

「ああ、ありがとう」

 焼き菓子を口に入れる。

 何かの木の実を砕いて練りこみ焼き上げたのか、程よい食感と甘すぎない味がした。

 これくらいの甘さが私には丁度いい。

「私が作ったんだけどどうかな?」

 少し照れくさそうにタイガが言う。

「私は好きな味だ」

 正直に感想を伝える。

「本当に? あんまり甘くなくて子供には少し不評だったよ」

「私にはこれくらいがいい」

 そう言うとタイガは嬉しそうにしていた。


「何か私に用があったのか?」

 初対面のタイガがいきなりお茶に誘ってきたのは何か用事があったのではと思った。

「いや、何もないよ。子供達が仲良くしてるし、遊ばせてあげたくてね。迷惑だったかい?」

「いや、こちらも助かる」

 子供達の遊ぶ時間を作ってやるのが目的だったようだ。

「そういえばさっきタイガの旦那を蹴ってしまった」

 先ほどの事を思い出しタイガに話す。

「あははは、いいんだよ。どうせ変な事言ったんだろ」

「ああ、まあな」

「旦那は仕事は丁寧なのに性格は雑だからね。何て言われたか聞いてもいいかい?」

 先ほどレオスに言われたことを思い出して恥ずかしくなる。

「私の子供達がセイゾーとの子供なのかって……」

 自分で言うと余計に恥ずかしい。

「ああ、なるほど。私も旦那からしか聞いたことはないけど子供達とすごい仲が良かったらしいね」

「ああ……」

 タイガはセイゾーを見たことはあるが、子供達を見たのは今日が初めてだったらしい。

「そういえば埋葬は昨日だったんだよね。思い出させちまってすまないね」

 タイガが私に深く頭を下げる。

「いや、それはいいんだ。ただ、少し恥ずかしかっただけだ」

「恥ずかしい? ああ、そういうことか」

 タイガが何か分かったような顔をする。

「なにがだ?」

「セイゾーは子供以外にも好かれていたんだなって思って」

「ど、どういうことだ」

 タイガは私の慌てている顔を見て破顔した。

「そういうことだよ」

 そういえば農場でラミットに態度に出ると言われた気がする。

 自分では分からないがそうなのだろうか。

 私が黙っているとタイガが話題を変えてくれた。


「レンゲって名前は花の蓮華なのかい?」

 セイゾーに言われたことを思い出す。

 レンとハナを合わせた名前。

 蓮華。

「ああ、そうだな」

 タイガが蓮華を知っているという事はこの世界にもあるのだろう。

 前の世界で見た果物もあるのだから驚くこともない。

「この町の近くに蓮華が一面に咲いてる湖があるよ」

 タイガが大きく手を広げながら言う。

「そうなのか?」

「別に見るだけなら危険はないし、今度見に行ったらいいよ」

「見るだけなら?」

 見る以外のことをしたら危険があるのだろうか? 

「花を折ったり、湖を汚すと妖精が怒るんだよ」

 妖精、名前は分かるが見たことはない。

「妖精がいるのか?」

「ローティーっていう妖精が住んでる湖だよ。ローティーが住む湖には蓮華の花が咲くんだよ」

 蓮華の花か、見てみたいな。

 セイゾーが付けてくれた名前の花。

 すぐにでも行きたい気持ちになるが、今からでは時間がない。


「場所は分かるか?」

 場所さえ分かればいつでも行ける。

「東に川があるのは分かるよね?」

 以前見たことがある。

「ああ、町に水を引いてる川か」

「そうそれ、あの川を北上して、林の中に入っていくとあるよ。あ、でも弱いとはいえモンスターがいるよ」

「どんなモンスターなんだ?」

 タイガは上を何か考えている。

「猿だね。名前は忘れちまったよ」

「頭にとさかがある猿か」

「そう、その猿だよ。レンゲは見たことあるのかい?」

 見たことがあるというか、何度も追い返していた。

「あれくらいなら何の問題もない」

「頼もしいね」

 猿なら人の姿でも十分に対応できる。

 集団で来られたり、ボス猿になると獣の姿にならないとまずいだろう。

「近いうちに行ってみる」

「私が言っといてなんだけど、行くなら十分気をつけてね」

「ああ」


 ふとタイガの手を見ると火傷のような跡を見つけた。

 古いものから新しいものまである。

「ああ、これかい?」

 タイガはそう言って手を私に見せてくれる。

「ビンを作るのに火傷してね。綺麗な手が台無しだよ」

 そう言うタイガの顔は特に悲観した様子はない。

 その顔から自分が好きでビンを作っているのが分かる。

「ビンがあるのか?」

「ビンなんて珍しくないだろ?」

 酒場で飲み物を飲んだときもグラスではなかった。

 教会でもビンは使っていなかった。

 いや、そういえば教会には大きなものではないがステンドグラスがあった。

 ならばビンを作る技術はあるのだろう。

「私はあまり見たことなくてな」

「まあ、生活にはあまり使われてないからな」

「綺麗な手なのにもったいないな」

 私がそう言うとタイガが顔を赤くする。

「な、なに言ってんだい」

 お世辞ではなく、本当にすらっとした指はとても美しい。

「私が好きでやってるんだからいいんだよ」

 恥ずかしいのかそっぽを向いてしまった。

 その後もタイガと色々と話をしていると、子供達が戻ってきた。


「おかあさん、おなかすいた」

「そろそろ……ごはん」

「ママ、わたしもおなかすいちゃった」

 子供達は仲良さそうに手を繋いでいる。

「そろそろ帰るか」

「ありがとうね。また来てくれよ」

「ああ、また来る」

 子供達を連れて外へ出る。

「ライガ、またあそぼ」

「ライガ……またね」

「ハナ、レン、またあそぼうね」

 子供達が別れたくなさそうな顔をしている。

 また近いうちに連れてきてあげよう。

「それじゃあ失礼する」

「ばいばーい」

「ばいばい……」

 タイガとライガに挨拶をして敷地を出る。。

「また来いよー」

「ぜってい、またきてねー」

 振り返るとライガが泣きそうになっている。

 これは本当に近いうちに連れてこないといけないな。

 子供達もいつまでもライガに手を振っている。

 前を見て歩かないとこけてしまうぞ。

 今日は色々と私にも子供達にもいい出会いになった。

 子供達と手を繋いで教会へと戻った。

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