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黒毛鼠

 ラミットに連れられて家の裏の農場へ向かう。

「どうしただ?」

 農場にいたラビーの父親が気になったのか話しかけてきた。

「あら、お父さん。レンゲちゃんが黒毛鼠を見たいんですって」

「そうなのか? いくらでも見ていくだ」

 目的が分かったのでどこかへ行くと思ったが、ラビーの父親も付いてきた。

「お父さんはレンゲちゃんに自己紹介したの?」

「してなかっただか?」

 ラビーの父親がこっちを見て言う。

「されてないな」

「おらはラドだ。よろしくだ」

 そう言ってラドは笑った。

 夫婦並んで笑っていて、よく笑う夫妻だなと思う。

 少し歩くと黒毛鼠がいる柵に到着する。


「ここだ」

「ありがとう」

 知っている場所に案内されて礼を言うのはなんだか奇妙な感じがする。

 黒毛鼠が私の姿を見つけたのか、集団でこちらに駆け寄ってきた。

「チュッチュッチュッチュ」

「チュチュチュー」

「チーチー」

 相変わらずやかましい。

 今は何を言っているか分からない。

 それでも黒毛鼠達は鳴くのをやめない。

「腹でもすいてるだか?」

「なんかレンゲちゃんに集まってきてるように見えるわ」

 その光景に夫婦も驚いている。    

 少し考えてこの夫婦に隠す必要もないと思い説明することにした。

「黒毛鼠とは知り合いなんだ」

「何言ってるだ?」

「どういうことかしら?」

 夫婦は顔を見合わせ私が何を言っているのか分かっていないようだ。

 たしかに口で言っただけでは信じてもらえないだろう。


「ちょっと待ってろ」

 そう言うと柵を飛び越え黒毛鼠の小屋の中へ行く。

「身軽なもんだ」

「レンゲちゃんかっこいいわね」

 私が柵の中に入っても気にした様子はない。

 小屋の中で服を脱ぐと獣へ姿を変える。

 そして小屋の外へと出た。


「あの時の黒い犬だ」

「あら、小屋の中にいたのかしら」

 夫婦に驚いた様子がない。

 この姿が怖くないのだろうか。

「久しぶりッチュ」

「会いたかったッチュ」

「大きい犬ッチュ」

「チーチー」

 黒毛鼠達が集まってくる。

「教会に住むことになった。顔を出せなくてすまない」

「気にするなッチュ」

「いつでも遊びに来るッチュ」

「寂しいッチュ」

 黒毛鼠の気遣いを嬉しく思う。

「また子供を連れて遊びに来る」

「うちの子供と遊ばせるッチュ」

「楽しみッチュ」

 子供達なら黒毛鼠と楽しく遊んでくれそうだ。

 黒毛鼠にお礼を言うと小屋に入り、元の姿に戻って服を着て外へ出る。


「レンゲちゃんが戻ってきただ」

「黒い犬と入れ替わりね」

 柵を飛び越え不思議そうにしている夫婦の下へと戻った。

「そういうことだ」

「どういうことだ?」

「あの黒い犬がレンゲちゃんって事じゃないかしら」

 夫婦で状況を理解しようと話し合っている。

「ラミットの言うとおりだ」

「なんだそういう事だっただか」

「犬になれるなんて凄いわね」

 夫婦は私が獣になれると知っても驚いていない。

 むしろ納得できて満足そうにしている。

 ラドが何かを思い出したように口を開く。


「黒毛鼠を守ってくれたのはレンゲちゃんだったか、ありがとうだ」

 そう言って私に頭を下げる。

「私からもありがとう」

 ラミットもラドに続いて頭を下げた。

 別に礼を言われたい訳ではなかったので困ってしまう。

「気にするな」

 そう言うとラミットが可笑しそうに笑う。

「レンゲちゃん、恥ずかしいんでしょ。口調は少し乱暴でも態度に出てるわよ」

 そう言って優しそうな目を私に向ける。

 なんだか、ラミットには敵う気がしない。


「黒毛鼠はラドに感謝してたぞ」

 誤魔化すため話題を変える。

「そうだか?」

「ああ、いい人だって言っていた。毛を刈ってもらったり餌をもらえて感謝していた」

「よかっただ」

 それを聞いてラドは嬉しそうにしていた。

「そういえば、お礼は受け取っただか?」

 ラドが思い出したように言う。

 前に私のために置いていた果物等の事だろう。

「ああ、助かった。ありがとう。なんで板切れにお礼を書いていたんだ? ただの獣だったら読めないだろう?」

「あれは娘が書いただ」

「ラビーが?」

 話を聞くとラビーが黒毛鼠が好きらしく、守ってくれた黒い犬にお礼を書いたということらしい。

 足跡の板もラビーがコレクションにしていて、ラドがたまに新作を求めて板切れを置くようだ。

「黒毛鼠は賢いだ」

「それは私も思った。文字くらい覚えるんじゃないか?」

「面白そうだから今度試してみるだ」

 ラドがなんだか楽しそうにしている。

 自分で言っておいてなんだが、どうやって教えるつもりだろう。


「今度、子供達を連れてきてもいいか?」

「好きなときに来るだ」

「いつでも来てね。前にセイゾーさんに連れられて来たことあるのよ」

 思い出しているのかラミットが嬉しそうにしている。 

 それでラミットは子供達がセイゾーと呼んでいたのを知っていたのか。

「セイゾーは藁取りに来たり、案山子作ったり世話になっただ」

 以前驚かされた案山子はセイゾーが作ったのか。

 色々とこの夫妻もセイゾーとは交流があったようだ。

 だから埋葬の時にも来てくれたんだな。

 セイゾーが紡いだ絆に触れてなんだか嬉しくなる。

 その後も昼まで夫妻と話をした。

 帰る頃にはこの夫妻と話すことに抵抗がなくなっていたことに自分でも気付いていなかった。

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