農場へ
子供達がマリアと掃除を始めたので、私も出かける。
とりあえず、子供の服を林に置いたままだったので取りに行った。
服を無事に回収して教会に戻るとやることがなくなってしまった。
人に慣れるためにどこかに行こうと思い外に出た。
特にどこへ行こうとは考えていなかったが、世話になった黒毛鼠達のことが気になり農場へと足を向けた。
農場と教会の間には、建物が2つある。
どちらも敷地はなかなか広いが、少しぼろい。
マリアの話ではこの敷地もラビーの家の土地だと言っていたが、誰かに貸しているのだろうか。
そんな事を考えているとあっという間に農場に着いた。
これだけ近いのだから当然だ。
今まで勝手に黒毛鼠の小屋に行っていたので正面から入るのがすごく違和感がある。
ラビーの家は手入れが行き届いているのか綺麗だった。
外壁や屋根を張り直しているのか新しい部分も目立つ。
勝手に入るわけにもいかず、家の入り口付近に立っていると、ラビーの母親が私を見つけ声をかけてきた。
「あらあら、教会の、えーと、確かレンゲちゃん?」
「ああ」
私の名前を覚えてくれていた。
ちゃん付けなのが少し恥ずかしい。
「そんな所に立ってないで上がっていって」
強引に手を引かれ家の中に連れて行かれる。
何しに来たのか聞かないのだろうか。
家の中は外側以上に綺麗だった。
私がこの世界に来たとき寝床にしていた家とは比べ物にならない。
入り口近くが土間になっているのは変わらないのだが、そこから上がると部屋があり、階段まである。
2階はどうなっているか分からないが、1階だけで3部屋もある。
ちなみにマリアの家は1階しかなく土間と食事をするスペース、あとはマリアの部屋があるだけだ。
「すごい家だな」
つい口から出てしまった。
「あら、そんなことないのよ。古くて大きいだけよ。うちのお父さんが暇になると板を張り替えたりなんだりしてるだけ」
あの農夫がこれをやったのか。
器用なものだな、そういえばセイゾー達も風呂の小屋を作っていたな。
男は家を作ったりいじったりするのが好きなのだろうか。
「こっちでお茶を飲みましょう」
ラビーの母親に土間に1番近い部屋に案内された。
部屋に入るとテーブルと椅子が並んでいた。
いつもここで食事をしているのだろう。
ラビーの母親に促されて椅子に座る。
「すぐにお茶を入れるわね」
そう言ってラビーの母親が部屋から出て行った。
部屋を見渡すと、華美な装飾など一切なく質素な感じがする。
なんだかあの農夫らしいと感じる。
部屋の壁に何か飾られている。
子供が描いたような絵や工作だ。
それを不思議そうに見ているとラビーの母親が部屋に入ってきた。
「あ、それが何か分かるかしら?」
「いや、子供が作った物に見えるが」
思ったことを正直に口にする。
「そうなの、ラビーが昔作った物なの」
ラビーの母親は嬉しそうに微笑むと持ってきたお茶をテーブルに置きその工作に優しく触れる。
「そういえば、自己紹介がまだだったわね。私の名前はラミットよ。さあ、お茶にしましょう」
ラミットが私の前にお茶を置くと、自分も席に座ってお茶を手に取る。
「おばさん強引にレンゲちゃんを部屋に上げちゃったけど迷惑じゃなかった?」
「ああ、大丈夫だ」
「それならよかった。ラビーもギルドに働きに出るようになって全然構ってくれないのよ」
少し寂しそうにしながら手に持ったお茶を飲んでいる。
子供達が構ってくれなくなったらと想像すると私も寂しくなる。
「それは寂しいな」
私も温かいお茶を飲む。
「レンゲちゃんも子供がいるんですもんね。セイゾーさんとの子供なの?」
「な!? ごほっ、ごほっ」
何をと言おうとしてむせてしまった。
「大丈夫?」
そんな私をラミットが暢気に見つめている。
落ち着くのを待ってから口を開く。
「何を言っている。違うぞ」
「そうなの?」
それにラミットは私とセイゾーが一緒にいる所を見たことがないはずだ。
「なんでそう思ったんだ?」
「ハナちゃんとレンちゃんがセイゾーさんにすごい懐いていたもの。セイゾーって呼んでたから違うのかなとは思ってたけど」
「分かってるじゃないか」
ラミットは私を見ながらニコニコとしている。
「レンゲちゃんの反応でなんか色々とおばさん分かっちゃった」
何が分かったというのだろう。
このまま話していたらラミットに遊ばれてしまう気がする。
「農場を見てきていいか?」
「え? 農場に用があるの?」
ラミットが不思議そうにしている。
さすがに黒毛鼠に用がありますとは言えない。
私が獣の姿になれるのは隠す必要はないのだから言ってもいいのだろうか?
「黒毛鼠が見たい」
「じゃあ、案内するわね」
ラミットが付いて来るつもり満々だ。
案内されなくても場所は分かっている。
「場所は分かる」
「いいから、いいから」
お茶を飲み干すとラミットと黒毛鼠がいる小屋へと向かった。




