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明日へと歩む

「レンゲさん」

 マリアの声がする。

「どうした」

 伏せていた顔を上げマリアの方を向く。

 いつの間にか自警団達はいなくなっていた。

「ハナちゃんとレンちゃんにもお別れを」

 子供達にはあまりにも辛いことだろう、それでもお別れを言わせてやりたいマリアの気持ちは痛いほど伝わった。

「呼んでくる」

「大丈夫ですか?」

 マリアが心配そうに見てくる。

 マリアの目だって真っ赤になっている。

「その言葉そのまま返すよ」

「そうですね、大丈夫じゃないですよね」

「ああ」

 そう言って子供達を呼びに行く。

 小屋に入ると子供達が駆け寄って来る。

「おかあさん、こわかった」

「なんで……でていくの」

 抱きつく子供達に抱きしめる。

「すまない」

 子供達は私の様子がおかしいことに気付く。

「なにか、あったの?」

「なんか……へん」

 不思議そうにしている子供達の目を見つめる。

「セイゾーの所に行こうか」

「うん、いくー」

「セイゾー……でかけたの?」

 まだ何もしらない子供達を連れてセイゾーがいる場所へ向かう。


「あれー、セイゾーねてる」

「なんで……ねてるの?」

 子供達の質問に私もマリアもまた泣きそうになってしまう。

「セイゾーさんね……、もう起きないの……」

 マリアが必死に言葉を発する。

「そうだ、だからお別れを言え」

 私も子供達にそう伝える。

「おきないの? ならキスしたらいいんだよ」

「おひめさま……おきた」

 そう言って子供達がセイゾーにキスをした。

 子供達が何度も聞いた童話。

 その童話ではキスをすると眠った人が目を覚ます。


「あれ? 起きない、なんでかなー」

「おかあさんも……して」

 マリアは耐えれなくなったのか顔をそむけると肩を震わせて泣き出した。

「セイゾーはもう起きな……」

「いいからして!」

 私の言葉聞きたくないと言わんばかりにハナが叫んだ。

 レンはびっくりしているが、ハナは何かに気付いたのだろう。

「はやく!」

 ハナが声を荒げる。

 私は長い眠りについたセイゾーにそっと口付けした。

 その唇は冷たかった。

 冷たいのにどうして私の心をこんなにも狂おしいほどに熱くするのだろう。

「なんでおきないの!」

 セイゾーが起きない現実を否定するかのようにハナが叫ぶ。

「おねえちゃん、だいじょうぶ?」

 そんなハナを私は抱きしめた。

 マリアがレンを抱きしめる。

「うわぁぁぁぁぁん!」

 今まで聞いたこともないほどの声量でハナが泣き出した。

 それはまるで悲しみの咆哮のようだ。

 それを見てレンも泣き出す。

「うっうっ、なんで……、うっ、おきて……うっ、くれないの」

 泣き続ける子供達にマリアと一緒にセイゾーが死んでしまったことを説明した。

 レンはそれが分かったのかまた大声で泣き出す。

「うぅっ、いっしょに、うっ、いるって、うぅっ、いったのに」

 しかし、ハナはどれだけ説明してもそれを認めようとはしなかった。

 ハナも分かっているのだろう、だから認めたくないのだ。

 静まり返る教会に子供達の泣き声だけが響いた。


 次の日、セイゾーの遺体は棺に入れられた。

 どこに埋められるのだろうか。

「教会の裏に埋葬します」

 心配そうに棺を見つめていた私にマリアがそう言った。

「いいのか?」

「教会の土地はラビーの家のものですから」

「ラビー?」

 話を聞くと、セイゾーがお世話になっていたギルドの職員らしい。

 セイゾーはその両親とも短いながらも親交があり、ラビーの両親が許可してくれたそうだ。

 ラビーの家は教会のすぐ近くにあり、教会からラビーの家までの全部がラビーの家の土地らしい。


「準備が出来たぞ」

 教会の裏からライオンみたいな男が現れる。

 セイゾーが勤めていた職場の代表でレオスという。

 その後ろからは熊っぽいベアスとゴリラっぽいゴリンが現れた。

 この人達はセイゾーの同僚だ。

 昨日の夜、セイゾーの死を涙を流し悲しんでくれた人達だ。

「お疲れ様です」

 マリアが3人に手拭を渡している。

 3人が汗を拭いた後、セイゾーの棺を持って教会の裏へ行く。

 その場所にはセイゾーの知り合いと思われる人達がいた。

 兎の耳を生やしたラビーとその両親も来てくれた。

 ドンというドワーフの鍛冶屋、セイゾーと一緒に風呂を作ったらしい。

 他にも、雑貨屋の店主や自警団の団長や団員が数名来てくれていた。

 こんな短い間に色々な人と関わってきたんだなと感心した。

 私も子供達を呼びに部屋に入る。


 子供達を連れ式に参列する。

 子供達は私の服をつかんで離さない。

 泣きそうになっているのをなだめる。

 マリアが棺の前で何か話をしているがあまり耳には入ってこなかった。

 きっとこの世界か教会のお別れの挨拶なのだろう。

 それが終わるとみんながセイゾーに声をかけながら棺の中に花を添える。

 すぐに私達の番になった。

「セイゾー、ありがとう。あんたがいたから子供達と一緒にいられる。本当に感謝している」

 そう言って花を添える。

 泣きそうになるが子供達の前であまり涙は見せれない。

「セイゾー、またあそぼうね」

「セイゾー……ばか……でもだいすき」

 そう言って子供達は2人で花を添えた。

 それが終わると、棺の蓋を閉じドンが釘を打っていく。

 釘は全部打ち込まず少し浮かせている。

 どうやら参列した人で順番に釘を打ち込んでいくようだ。


「さよなら、セイゾー。またあんたに逢いたいよ」

 こらえていた涙が頬を伝う。

 釘を叩く。

「おきたら、でてきてね」

「セイゾー……ありがとう」

 レンも分かってはいながらそう言っているんだろう。

 2人で釘を叩く。

 これですべて終わったのか、深く掘られた穴に男達が棺を下ろす。

 その後、順番に土をかけて埋葬は終わった。


 埋葬が終わると子供達を部屋に戻しマリアと参列者を見送る。

「あんたはセイゾーが命をかけて守りたかった人だ。何かあれば言ってきな、必ず助けになってやる」

 レオスがそう言って去っていった。

「俺も助けになるっす」

「僕も何かあれば協力するから」

 ゴリンとベアスもそう言ってレオスを追いかけた。

「俺もだ。何かあったら言って来い。セイゾーには世話になった」

 そう言ってドンが帰っていった。

「私も力になりますからね。マリアとも友達だし、レンゲとも友達になるよ。だから何でも相談してね」

 ラビーが私の手を握る。

「ありがとう」

 ラビーの手を握り返す。

「おらも力になるだ、今度遊びにでもくるだ」

 ラビーの父親もそう言ってくれた。

 ラビーの父親は黒毛鼠の飼い主だった。

 以前から色々と世話になっていたな。

「遠慮しないでね」

 ラビーの母親が優しく微笑む。

 なんだか雰囲気がマリアに似ている。

 その後も他に参列してくれた人達が私達に挨拶をして帰っていった。

 なんだか慌しくてあっという間に終わってしまった。


 マリアと2人になれたので、考えていたことをマリアに話す。

「マリア、私達は教会から出て行こうと思う」

 私は今回の騒動で教会に迷惑をかけたことを反省しマリアに提案した。

「え!?」

 マリアにその言葉を予想もしていなかったのか驚いた声をあげる。

「どうしてですか!?」

「私がいると教会に迷惑がかかってしまう」

 マリアがそれを聞いて微笑む。

「大丈夫ですよ。あの男達は教会の騎士が連行していきましたし、私は迷惑だなんて思っていません」

「それでもだな」

「私からあの子達を取り上げないでください」

 急に変な事を言い出した。

 あの子達は私の子供だ。

「寂しいじゃないですか」

 マリアの顔が曇る。

「もうこの生活に慣れてしまいましたから」

「いいのか?」

「はい、レンゲさんや子供達にとってはセイゾーさんと別れた悲しい土地なのかもしれません。それでも、セイゾーさんと暮らした思い出の土地でもあるんですから」

 マリアが少しずるい言い方をする。

「それはマリアもだろ」

「そうですね……」

 少し沈んだ空気になってしまった。

「セイゾーさんはすぐだったんですよ」

「なにがだ?」

「離れたくないとか言ったりしたら慌てて、すぐに教会から出るのを諦めました」

「そんな事したのか」

 セイゾーが慌てる姿が想像できる。

「でも、レンゲさんも意外とすぐ撤回してくれました」

「やっぱり出て行こうかな」

「すみません、寂しいのは事実なんです」

 そう言ってマリアが頭を下げる。

 それがなんだか可笑しくて2人で笑いあった。


 マリアと部屋に戻ろうとすると、子供達がやってきて私の袖を引っ張る。

「どうした?」

「セイゾーの、おはかにいく」

「みんなで……いく」

 子供達がそう言うのでマリアも連れて4人で墓へと向かった。


「何かあるのか?」

 墓の前に着くと子供達に尋ねる。

「かんしゃの、あいさつしてなかった」

「みんなで……てをあわせる」

 そう言って子供達は墓の前で手を合わせた。

「どこで覚えたんだ?」

「そういえばセイゾーさんは食事の前に感謝の気持ちだって手を合わせてましたね」

「なるほど」

 それは食事への感謝なのではと思ったが言わないでおいた。

 子供達と一緒に手を合わせる。

 セイゾーは子供達に沢山のことを教えていたんだな。

 それを子供達はしっかりと覚えて実施している。

「教会だし、マリアみたいに目を閉じて祈るのでもいいと思うぞ」

「そうなの?」

「よく……わからない」

 子供達も不思議がっている。

「セイゾーへのありがとうって気持ちが大切なんだ」

「わかったー」

「うん……きもちがだいじ」

 子供達も分かってくれたようだ。

 みんなで部屋に戻ろうとして私は足を止めた。

「おかあさん、どうしたの?」

「なにか……あった?」

「どうかされました?」

 3人が急に足を止めた私を不思議そうに見つめる。

「先に部屋に戻っておいてくれ、セイゾーと2人で話したい」

「わかりました、ハナちゃん、レンちゃん、先にお部屋に行きましょう」

 マリアがそう言って子供達と部屋に行く。


 私は1人セイゾーの墓の前に立つ。

「セイゾー、改めて礼を言うよ。ありがとう」 

 思い返せば、セイゾーと関わった時間はそんなに長いものではなかった。

 それなのにどうしてこんなにも胸の中があんたで一杯なんだろうな。

 あんたの事を思い出すと涙が出る。

 私の人生の中で初めて手を差し伸べてくれたのはセイゾーだ。

 抱きしめられた温もりは今でも忘れない。

 感謝してもしきれない。

 あんたに逢えて幸せだった。

 そんなあんただから私は心を許せた。

 まだ人間は怖いけど、あんたのために涙を流した人がこの町にいる。

 私はこの町で生きていこうと思う。 

 この場所ならセイゾーが見ていてくれている気がする。

 だからセイゾー、どうか私達を見守っていてほしい。


「おかあさん、まだー」

「はやく……いこ」

 いつの間にか子供達はそばに来ていた。

 俯く私を心配そうに見上げている。

「ああ、いこう」

 子供達と手を繋ぐ。

 その手をもう離さないと強く握る。

 嬉しそうに私に笑いかける子供達。

 子供達一緒に部屋へ向かった。

 私は墓へと振り返りセイゾーへ伝える。


「あんたがいなくなった世界だけど、私はこの子達と明日へと歩いていくよ」

 この部分まででレンゲの視点で前作の最後まで書けたと思います。(蓮の花を墓に供えるシーンを除く)

 同じような話を書いているはずなのになかなか大変でした。

 誰かの心に残る作品になればと思いますが、技術がまったく足りてないです。


 この後もまだ話は少し続きます。

 楽しんでいただければ幸いです。


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