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残酷な現実

 セイゾーを加えて4人でままごとをした。

 その後、セイゾーから昨日の騒ぎの件で自警団が教会にやってくることを聞く。

「そうか、迷惑をかけてしまったな」

「いや、レンゲ達にここにいろと言ったのは俺だ」

 セイゾーはそう言ってくれるが、あまり迷惑はかけたくない。

「何かあればいつでも私達を追い出してくれ」

 セイゾーやマリアを危険にさらすくらいならその方がましだ。

「そういうわけにはいかない」

「しかし……」

「俺がここにいてほしいんだ」

 そんな言葉はずるい。

 そう言われてしまったら覚悟が鈍る。


「なにかあったの?」

「けんかしちゃ……だめ」

 どうやら喧嘩していると思われたようだ。

「大丈夫だ」

 そう言って手を広げると子供達は私の胸の中へとやってきた。

 セイゾーは何か1人で考え込んでいる。

 子供達が不安にならぬように、その体を抱きしめる力を強めた。


 それから少ししてマリアが戻ってきた。

 部屋の戸を開けるとまた息を切らしており、セイゾーだけを手招きして呼んでいる。

「どうしたの?」

「なにか……あったの?」

 遊んでいたときとは違う雰囲気を感じたのか子供達がまた心配そうにしている。

「なんでもないよ。ちょっと用事があってね。少しマリアと話をしてくるね」

 セイゾーは子供達に優しく言った後、私を強く見つめてくる。

 後を頼むということだと理解し、セイゾーに頷いた。

「セイゾーと、マリアなにしてるのかな」

「いっちゃ……だめ?」

「だめだ。ここで大人しく待っているぞ」

 私を見上げている子供達の頭を撫でてやる。

「わたしも、なでる」

「わたしも……やる」

 子供達は立ち上がり私の頭を撫でる。

「おかあさん、かみながい」

「かみ……きれい」

 頭を撫でるのに飽きたのか私の髪を触りだす。

 ハナが綺麗と言っているが、ハナの髪とそう変わらない気がする。

 もちろんレンの髪も綺麗だ。

 子供達が私の髪をいじっているとセイゾーが部屋に入ってきた。   


「少ししたら自警団の人が来るんだ。見回りみたいなものだから、邪魔しないように部屋の中にいるんだよ」

 優しい顔をし、声色に優しさを含ませて子供達に話してくれる。

「わかったー」

「おとなしく……する」

「セイゾー、大丈夫か?」

 事情を聞いていた私は心配になる。

「大丈夫だ」

 そんな私を強く見つめるとそう言って頷いてくれた。

 私達が安心しているのを確認するとセイゾーは部屋を出て行った。


「おかあさん、なにかしてあそぼ」

「うん……あそんで」

 セイゾーが出て行くと子供達が私の服をつかんでねだってきた。

「いたしばい、よんで」

「わたしも……おぼえる」

 どれだけ板芝居が好きなんだろうか。

 ハナは話の内容を覚えているのではと思ったが、どうやら私が読んでいる字を覚えようとしている。

 レンに絵を見せながら、私が読んでいる箇所を指で指し示しハナに見せる。

 そんなハナの姿を見てレンも一緒にやりたくなったのか、レンもこちら側にやってくる。

 3人で字を見ながら話を読む体勢になってしまった。

「さいしょからー」

「うん……いいよ」

 私が了承するより早くハナが返事をすると、板芝居を最初の箇所に戻した。

 また最初から読まないといけないようだ。


「はやく、はやく」

「この文字は……むかし?」

 ハナが出だしの部分を指差すと。

「合ってるぞ」

 そう言ってハナの頭を撫でてやる。

「わたしも、おぼえたー」

「レンもすごいな」

 レンの頭も撫でてやる。

 文字を教えながらのため話が前に進まない。

 子供達に文字を教えながら話を読んでいると、外から多くの気配を感じた。

 何も起こらなければいいのだが。

 セイゾーの言葉を信じ子供達に板芝居の続きを読む。


 突然、部屋のドアが激しく開かれた。

「いたぞー、悪魔の子だ! 部屋の中に悪魔の子がいるぞー!」

 部屋の扉を開けた男がそう叫ぶ。

 急な怒鳴り声に子供達が萎縮し私にしがみつく。

 持っていた板芝居を投げ捨てると子供達を強く抱きしめる。

 この声は聞いたことがある。

 子供達をさらおうといた男の声だ。

 なぜそんな奴が自警団とここに来ているのか分からない。

 子供達が恐怖で震えている。

 あの男はまた私の子供にこんな思いをさせるのか。

 怒りが湧き上がる。

 私の子供を悪魔の子だと罵るのか。

 湧き上がる怒りが私の心を満たそうとする。

『怒るなとは言わない。怒りの中でも冷静さを保ってくれ』

 セイゾーの言葉を思い出す。

 湧き上がる怒りに飲まれないように冷静にならなければいけない。

「悪魔の子を匿ってるぞー!」

 男はまた怒鳴る。

 その声に驚き子供達はついに泣き出した。

 肩を震わせ私にしがみついて泣いている。

 そんな子供達を必死で抱きしめ湧き上がる怒りを押さえ込もうとする。

 今は子供達のそばにいてやらなければならない。

 どうかこれ以上この子達を傷付けないでくれ。

「あのガキ共は化物を呼ぶんだ! あんなガキ共、町の外に捨てちまえ!」 

 その言葉を聞いて抑えようとした怒りが噴出した。。

 自分でもまずいと分かっていてもどうしようも出来なかった。

 しがみつく子供達を優しく離すことことだけで精一杯だった。

 外へと向かって駆ける。

 部屋の前にいたセイゾーを押しのけ怒鳴った男の前に立つ。

 やはりあの男だった。

 セイゾーが部屋の扉を閉めるのが分かる。

 体が変化するのを抑えれそうにない。


「お前達人間が! 私を捨てたんだ!」

 手足が変化していく。

 この足でお前を踏みつけてやる。

 私の生活を踏みにじったようにお前の体を踏みつけ壊してやる。


「私をゴミのように! 私の懇願すら聞かず」

 口から牙が生える。

 この牙でお前の喉を食い千切ってやる。

 私の懇願を聞かなかったのだ、お前は懇願出来ないように喉を噛み切ってやる。


「それでも飽き足らず! 私の大切な!」

 頭が獣へ変化する。

 この炎でお前を焼いてやる。

 私の大切な物に手をかけ私の人生を狂わせるなら、この炎に焼かれて踊り狂えばいい。


「子供達まで捨てると言うのか!」

 体が獣の姿へと変化した。

 怒りだけが私を包むのが分かる。

 セイゾーの言葉を裏切ってしまった。


「レンゲ! 待つんだ! そんな男を殺すな」

 そんな私をセイゾーが必死で止めようとする。

 セイゾーを傷付けたくない。

 だからどうか邪魔をしないでくれ。

「ひ~! 誰か助けてくれ!」

 男は尻餅をついて助けを求めている。

 自警団を連れてくれば私がどうにかなるとでも思っていたのか。

 私はゆっくりと男に近づこうとすると、体に何か刺さる感触がした。

 男にだけ気を向けていたせいで気付かなかった。

 自警団も私を排除しようとするのか。

 私は自警団を睨みつける。


「やめろ! レンゲを、この犬を攻撃するな!」

 そんな私と自警団の間にセイゾーが割り込む。

 私を背に庇い必死に叫んでいる。

「レンゲは子供達を守ろうとしているだけなんだ。この男はレンゲの子供達をさらおうとしたんだ」

 怒りに満ちたこの体にもセイゾーの言葉はよく響く。

 その必死さがどれだけ私達を大切に思ってくれているかを物語る。

 そんなセイゾーの言葉も自警団には聞こえないかのように、私を見る目は過去に見た人間達の目と同じだ。


「ちがう! 俺は悪魔の子を退治しようとしただけだ! さらおうとなんてしてねえ!」

 背後から男の叫び声が聞こえる。

 まだその汚い言葉を吐くのか。

 もううんざりだ。

 噛み殺してやる。

「レンゲやめるんだ!」

 セイゾーの言葉で自分を必死に抑えようとする。

 それでも私は男の足に噛み付いていた。

 何か汚いものを口にしたような不快感に襲われ、男をそのまま投げ捨てた。

 男は教会の壁に打ち付けられるが、鎧のおかげで無事のようだ。

「ひ~! あいつは化物なんだ。獣人の皮を被った化物なんだ! やつが町を襲う前に早く倒すんだ!」

 もう叫ばないでくれ。

 男に向かって炎を吐こうとすると、私の頭目掛けて矢が飛んでくることが分かる。

 後ろに飛びのき回避する。

「うわあー!」

 着地した先に団員がいたらしく、私を切りつけてきた。

 お前もか。

 お前も私を傷付けるのか。

 前足でその団員を突き飛ばす。

 それを見た他の団員も私に攻撃しようと手に持った武器を私に向けた。

 結局私はこの世界でもこんな生き方しかできないのか。

 私はどうなってもいい、せめて子供達だけは生きて欲しい。


「落ち着け! むやみに攻撃をするな。その犬が化物と決まったわけじゃない。男の言葉に惑わされるな!」

 そんな状況を見て団長らしき人物が叫ぶ。

 私は化物だ。

 私の子供を傷付けるなら私は化物にだってなってやる。

 怒りが憎悪へと変わろうとしたときセイゾーが私の前に飛び出した。

 何が起こったのか分からなかった。

 自分が怒っていたことすら忘れてしまった。

 セイゾーに槍が刺さっている。

 どうして?

 私を守ろうとしたせいで? 

 嫌だ、セイゾーが私のせいで傷ついてしまった。

 混乱する私の前でセイゾーが自分を攻撃した団員と何か話している。

 その団員はセイゾーから槍を引き抜き飛びずさると再び槍を構える。

 セイゾーがまた前へと進む。

 もうやめてくれ。

 団員が投げようとした槍をまたその体で受け止める。

 嫌だ、嫌だ。

 槍を投げた団員が兜を地面に投げつけた。

 あの女だ。

 子供達をさらおうとした女まで自警団の中にいたのだ。

 セイゾーは尚も前に出ようとする。

 お願いだ、このままじゃセイゾーが死んでしまう。

 何か大切なものを失ってしまうという恐怖が私を包む。

 足が動かなかった。

 誰か助けてくれ。

 セイゾーを止めてくれ。


「その女は男の仲間です!」

 マリアの声が響き渡る。

「その女を捕らえろ!」

 団長の声で男達は捕らえられた。

 あんなに憎かった男達だが今はどうでもいいとさえ思える。

 なぜなら、セイゾーが前に進むのをやめないのだ。

「レンゲは怒りで姿を変えてしまうかもしれない。それでも俺達と変わらないんだ。子供を必死で守ろうとする母親なんだ。好きで人を傷付けたりなんてしない。だからどうか許してやってほしい」

 男達が捕まったことで喧騒が止み、セイゾーの声が聞こえる。

 団長に訴えかけている。

「わかっている。状況を見ても悪いのは男達なんだろう」

 団長がセイゾーの訴えを聞く。

 そんなことより早くセイゾーを止めてくれ。

「セイゾーさん早く治療を」

 マリアが止めようとするがセイゾーはそれを無視する。

 どうして?

 私のことより早く自分の治療をしてくれ。

「あいつはさ、昔人間に裏切られたんだ。それでもまた人間を信じようとしてくれている。だからどうか、その心を裏切らないでほしい」

 セイゾーは立つことさえ難しくなったのか団長の肩に捕まる。

 なんで私達のためなんかにそこまで必死になるんだ。

「わかったからもう喋るな」

 団長がそう言ってセイゾーの体を支える。

「お願いします、どうかあいつを、レンゲを信じてやってください。ここがあいつの居場所になれるように、家族と安心して暮らせるように」

 セイゾーの足にはもう力は入っていない。

 私さえ庇わなければこんなことにならなかったのに。

「セイゾーさん! お願いです。もう喋らないでください。すぐに治療します」

 マリアが泣きながら叫んでいる。

 その場に横にされマリアが治療を始める。

 その光景を見て自分の足が動くのが分かった。

 それでも体が激しく震えている。

 人の姿に戻ると破れた衣服を体に乱暴に巻きつける。

 早くセイゾーのそばに行かなければ。


「お前はバカか!」

 私達のためにここまでしなくてもいい。

「なんで自分を傷付けてまで私を守るんだ」

 自分を大切にしてほしい。

「私の事なんて見捨てておけばよかったじゃないか」

 胸が締め付けられるように苦しくなり、人が見ていることなど気にせず泣いた。

 いくら止めようとしても涙が溢れてくる。

 セイゾーのそばにうずくまると子供のように泣いてしまった。

 そんな私の頭に優しく手のひらが乗せられる。 

 その手は子供をあやすように私の頭を撫でる。

 心が温かくなる。

 セイゾーの手だ。

 ずっとこうしていてほしい。


「約束……したから……」

 私を撫でながらセイゾーが口を開く。

 その声は小さく今にも消えてしまいそうだ。

「レンゲとも……、子供達とも……」

 私達と約束をしたと聞いてセイゾーを見る。

 その顔にはもう生気がなかった。

「守れて……よかっ……た……」

 セイゾーは私を見てそう言うとゆっくりを目を閉じた。

「セイゾー……?」

 セイゾーの体をゆする。

「なあ、セイゾー」

 何度もゆするが反応がない。

「お願いだ、目を開けてくれよ!」

 叫ぶ私を誰かが止めた。

「早くセイゾーさんを教会へ」

 マリアが自警団に指示を出している。

「早くしてください!」

 自警団の動きに苛立ちを感じたのかマリアが叫ぶ。

「なあ、マリア、セイゾーは助かるんだよな」

 マリアにしがみつく。

 マリアの瞳からも涙が溢れ頬を濡らいしていた。 

「私の力では……」

 唇を強く噛み締め何かに耐えるようにマリアがそう言った。

「でもまだ諦めません。レンゲさん教会の中へ」

「わかった」


 教会の中にある一室にセイゾーは運ばれた。

 その部屋は治療をするための部屋らしい。

 セイゾーはそこにある木製のベッドに寝かされた。

 壁に飾られたステンドグラスから漏れた月明かりセイゾーを照らす。

 その体にはまったく力が入っていない。

 きっと気を失っているだけだ。

 セイゾーの知り合いだろうか自警団の何人かが心配そうに見守っている。

 しばらくマリアがセイゾーに手をかざし先ほどのように治療をしていたが、その手を下げると首を振るう。


「なんでやめるんだ!」

 マリアにつかみかかる。

「セイゾーさんはもう……」

「諦めないんじゃないのか!」

 マリアの瞳からまた涙が溢れてくる。

「私だって、私だって諦めたくないです……」

 自分でも分かっていた。

 ただそれが認められなくてマリアに当たってるいるだけだ。

 つかんだ手を離すとマリアはその場に崩れ泣き出した。

 セイゾーのそばへ行く。

「セイゾー……」

 返事はない。

「なあ、もう一度名前を呼んでくれ」

 返事がなくてもセイゾーに話し続ける。

「あんたが付けてくれた名前だ。もっと私の名前を呼んでくれ」

 その胸へと顔を伏せる。

「声を聞かせてくれ、笑ってくれ。説教してくれ。何だっていい、もっと私と一緒にいてくれ」

 まだ温もりが残る胸の中で私もまた声を出して泣いた。

 その回りでは自警団達が泣く声が聞こえる。 

 セイゾーのためにみんなが泣いているのだ。

 なのに勝手に死んでしまうなんて、あんたは本当にバカだ。

 そのぬくもりが消えてしまうまで私はセイゾーの胸の中にいた。

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