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再会

 随分と遅い時間に教会に戻ってきた。

 子供達はきっと寝ているだろう。

 それでも近くで子供達の寝顔を見られるのかと思うと嬉しくなる。

「セイゾーさんですか? 」

 その声の方を向くとマリアと呼ばれていたシスターがいた。

 暗くてこちらの顔が見えないのだろう。

「ああ、ただいまマリア」

 セイゾーがマリアに返事をする。

「無事でよかったです。そちらの方は? あとセイゾーさんなんで上半身が裸なんですか?」

 マリアがセイゾーに疑問をぶつける。

 私が服を貸してもらったのだから仕方がない。

 しかし事情を知らないマリアにとっては疑問に思うのは当然だ。

「この人はレンゲ、子供達の母親です。俺が裸なのは気にしないでください」

 セイゾーに紹介されマリアに会釈する。

「え? 母親が見つかったんですか?」

 マリアが私を見る。

 マリアはすぐに私が着ている服がセイゾーの物だと気が付いたようだ。

「セイゾーさん? 何をしたんですか? 事情を説明してください」

 マリアが口元は笑っているが目が笑っていないという器用な顔をしてセイゾーに問いかけている。

 その目を見ているとなんだか心の底から恐怖が沸いてきそうになる。

 セイゾーも同じなのか、事情は部屋で話すと言って室内に逃げていった。


 部屋に入ると子供達が寝ていた。

 何度も覗いてはいたが、近くで見ると何倍も可愛い。

 2人が寄り添って寝る姿を見ていると心が癒されていく。

 子供達を見ているとセイゾーが服を渡してくる。

 上しか着ていなかったので、下を借りてはく。


「何から話したらいいだろうか」

 セイゾーはそう言って何を話すか考えている。

 私に何か話してはいけないことはないか確認してくるが、セイゾーの判断にまかせた。 

 セイゾーがマリアに起こった出来事を説明する。

 どうやら私達やセイゾー自身が違う世界から来た事は内緒にして難民と説明している。

「え? あの大きな犬がレンゲさん?」

 信じられないのかマリアは驚いている。

「信じられないですか?」

「いえ、驚いただけです。セイゾーさんが嘘をついているように見えませんし、大変珍しいですが獣に姿を変える獣人がいると聞いたことがあります」

 マリアの言葉にこちらが驚かされた。

 私のように獣に変身するやつが他にもいるのか。

 女神の力なのだろうか。

 それともこちらの世界では珍しいが起こりえることなのか。

 元の世界にはいなかった生物がいるのだからそんな事があっても不思議ではない。

 セイゾーとマリアが話していると子供達がその声で起きそうになっている。

 子供達が気になって話しに集中できない。

 ついに子供達が起きたようだ。


 眠い目をこすりながらこちらを見る。

 その瞳に私の姿を捉えたとき目が大きく開く。

 そのまま子供達は眠そうだったのが嘘のように私に勢いよ飛び込み抱きついてきた。


「おかあさん!」

「あいたかった!」

 子供達は力一杯に私を抱きしめる。

 痛いくらいだ、それでもそれは幸せの痛みだ。

「私も会いたかった」

 子供達を強く抱きしめる。

 もう二度と離さないという気持ちを込めて子供達を抱きしめる。

 それほど長い期間ではなかったかもしれない。

 それでもそれは愛する子供と離れる時間にしてはあまりにも長かった。


「よかったです。本当に」

 マリアがそう呟くのが聞こえた。

 その声は少し涙ぐんでおり、この子達のことを本当に心配してくれていたことが伝わってくる。

 どれほど抱き合っていただろうか、いつの間にか胸の中で子供達の寝息が聞こえてくる。

 幸せそうな寝顔だ。

 女神にはあったことはあるが、私にとってはこの子達こそ女神や天使に思える。

 寝ている子供達の頭をそっと撫で続ける。

 眠っているのに、どこかくずぐったそうな顔をしている。


 どれくらいそうしていたか分からないが、突然マリアが口を開く。

「これからどうするのですか?」

「そのことなんですが、しばらくレンゲをここに置いてくれないですか」

 セイゾーはすぐにマリアの疑問に答えた。

 先ほど林で話していたように、私を教会へ置いてもらうつもりのようだ。

「マリア、私からもお願いする」

 私もマリアに深く頭を下げる。

「いえ、私はかまわないんです。ただ……」

 マリアが何か不安な顔をしている。

「セイゾーさんはどうするんですか?」

「どうするとは?」

 セイゾーはマリアの言葉の意味が分かっていないようだ。

 たぶんマリアはセイゾーが私と同じ部屋で寝ることを不安に思っているのだろう。

「寝る場所です!」

 分からないセイゾーにマリアが大きな声で教える。

 子供達が起きないか心配だったが熟睡しているようだ。

「ここで寝たらいいんじゃ……」

 セイゾーが言いかけて何かに気付いたようだ。

 こういうことには疎いのかもしれない。

 なんだかそんな姿を見ているのも面白い。

「藁は余ってるし脱衣所か外にでも寝ます」

 セイゾーがとんでもないことを言い出した。

 助けてくれた恩人にそんなことはさせられない。

 私は別に一緒に寝たってかまわない。

「もう、何も考えてなかったんですね。それじゃあ私と寝ます?」

 私が言おうとする前にマリアが先に提案する。

 マリアもセイゾーと寝てもかまわないのだろうか。

 それならあんなに大きな声で言わなくてもよかったのではないか。


「私はかまわない」

「は?」

「え?」

 マリアと同じ意見だと思ったのだが、マリアまで驚いた顔をしている。

 言い方が悪かったのか?

「私はセイゾーと一緒の部屋で寝てもかまわない」

 これで伝わったはずだ。

 しかし、その言葉を聞いたマリアがセイゾーを冷たい目で見いる。

「あらあら。随分と仲がよろしいんですね」

 あの目をしている。

 目以外を笑わせると人間はこんな怖い顔になるのか。

「いや、俺は外がいいかな~」

 セイゾーがまだそんな事を言っている。

「私と子供を守ってくれるんじゃないのか?」 

 私や子供達と同じ部屋で寝るのがそんなに嫌なのだろうか。

「そんな事まで仰ったんですか?」

 マリアに睨まれてセイゾーが萎縮している。

 マリアも素直になれないのだろうか。

「なんだ? 妬いているのか?」

 あの顔は怖いが、マリアも恩人だ。

 セイゾーと寝たいなら素直になった方がいい。

「べ、別に妬いてません! た、ただ不謹慎です」

 私の言葉を聞いてマリアが慌てる。

 分かりやすい反応だ。

 2人というのが恥ずかしいのだろうか。

「私はマリアにも感謝している。心配ならマリアも一緒にここで寝ないか?」

 マリアが私の言葉を聞いて考え込む。

「わ、わかりました。みんなで寝ましょう」

 そしてみんなで寝ることになった。

 セイゾーとマリアが2人で寝る事を考えるといい気分にはならなかったのは何故だろうか。

 それより、今は子供達と一緒に寝れることの方が嬉しい。

 子供達の隣は誰にも渡したくない。


 寝る準備をしてみんなで横になる。

 子供達以外と一緒に寝るのは初めてだが、この2人となら嫌な気持ちはしない。

 寝る場所は部屋の端からセイゾー、子供達、私、マリアだ。

 マリアにセイゾーの横を譲っても良かったのだが、セイゾーもマリアも端がいいと主張を譲らなかったのでこの順番になった。

「いつも1人で寝ているのでなんだか嬉しいです」

 マリアが声を弾ませている。

「私も子供達と寝れて嬉しい。マリアには本当に感謝している」

 私も嬉しくて、自分の声が弾んでいるのが分かる。

「いいんですよ。教会としても当然の事ですが、私個人としてもレンちゃんやハナちゃんと離れると寂しいですし」

「セイゾーとは離れてもいいのか?」

 子供達を大切に思ってくれていることを嬉しく思う。

「え? え~と、セイゾーさんはおまけです」

「そうなのか?」

「そうです。 この話題はやめましょう」

 マリアが話を中断させる。

 自分がこの話題を話したかったのではないのか。


「子供達は教会では何をして過ごしていたんだ?」

 一緒に教会にいたマリアなら詳しいだろう。

「昼までは教会の掃除の手伝いをしてもらってました。ハナちゃんはゆっくりだけど丁寧で、レンちゃんは早いけど少し大雑把に掃除しますね」

 そういえば、こちらの世界に着たとき襤褸ぼろを選ぶときもレンはどれでもいいとか言っていたな。

 ハナは反対にしっかり選んでいた。 

「なんだか性格が出てる掃除の仕方だな」

「はい、私もそう思います」

 マリアと2人で笑った。

 セイゾーが黙っているなと思ったら、寝息たてている。

 疲れたのだろう、もう寝ているようだ。

「セイゾーさん、寝ちゃったんですか?」

「そうみたいだな、なんだ残念か?」

 マリアがまた慌てる。

「べ、別に残念じゃないです。そういうレンゲさんはどうなんですか?」

「私か? 私は別に子供達と寝れたらいいしな。セイゾーとはさっき色々話せた」

 マリアは何か思い出したような顔をした。

「そういえば、何でセイゾーさんの服だけ着てたんですか?」

「ん? 獣の姿から戻ると裸になるからな。さっきセイゾーにも裸を見られた」

 思い出すとなんだか恥ずかしくなってきた。

「え!? は、裸をセイゾーさんに見られたんですか!?」

「ああ」

「ああ、じゃないですよ。乙女がそんな、だめですよ」

 慌てるマリアは見ていて面白い。

 私は母親で乙女ではないと思う。

「いや、私は乙女ではないだろ」

「そこは重要じゃないです! 女性が男性に裸をむやみに見せたらいけません!」

 マリアの声が大きい。

 子供達を見ると起きてはいないようだ。

「マリア、声がでかいぞ」

「あっ、すいません。少し興奮しすぎたようです」

 恥ずかしそうに顔を隠している。

「なんだか安心したよ」

「何がですか?」

 少し拗ねたような顔でこちらを見てくる。

「マリアもそんな慌てたりするんだなって、もっとお堅い性格なのかと思っていた」 

「私は別にシスターだからって常に清廉潔白でいなさいなんて言いませんよ」

「それはありがたいよ」

 もっと話していたい気持ちもあったが、マリアは明日も朝早くから起きるだろうから寝ることにした。

「おやすみ」

「はい、レンゲさん。おやすみなさい」

 まだ少ししかマリアのことを知らないが、セイゾーのお墨付きもあるこの人とならうまくやっていけそうな気がした。

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