女神と名乗る女
「起きてください」
女の声がする。
私はどうなったのだろう。
目を開くと1人の女が立っていた。
ここはどこかを確認するが回りには何も存在しない。
ゆっくりと立ち上がろうとする。
うまく立てないというか違和感を感じる。
自分の体を見るとすぐに理由がわかる。
これが私?
そこには人間達と同じような体があった。
服も着ている。
混乱はしたが、自分の意識どおりに動く手足を見てこれが自分の体なのだと理解する。
「おはようございます」
女が話しかけてきた。
女を見ると、人間のような姿形をしている。
私がいた場所とは髪の色など違う部分が目立つ。
「おまえは?」
無意識に言葉を口にして驚く。
人間の言葉が話せている。
「戸惑っていますか?」
女は私の様子を見ている。
「気が付くと姿が変わっているのです。驚いて当たり前ですね」
女はこの状況を理解しているようだ。
「おまえが何かしたのか?」
女を睨む。
「そんな怖い顔をしないでください」
言葉ではそう言っているが、女はまったく怖がっていない。
「あなたは死んでしまったのです」
女が私の死を告げる。
やはり私は死んだのか。
「子供達は? 子供達のことを知らないか?」
私が死んでしまったら子供達はどうなってしまうのだろう。
幼すぎる子供達が心配でならない。
「自分のことより子供の心配ですか?」
女がびっくりした顔をする。
「当たり前だ」
私のとってあの子達がすべてなのだ。
たとえ理解されなくとも私にはそうなのだ。
「言いにくいのですが……」
女は悩んでいる。
「教えてくれ」
言いにくいことでも子供達のことなら何でも知りたい。
女はまだ悩んでいたが、私の言葉を聞いて意を決したように口を開く。
「あなたの子供達もこのまま誰も手を差し伸べなければ死んでしまいます」
目の前が暗くなる。
私は守ってやれなかった。
私が死んでしまったばかりに愛する子供まで死なせてしまう。
嫌だ。
認めたくない。
「大丈夫ですか?」
女が心配そうに私を見つめている。
何が大丈夫なものか。
大丈夫なわけがない。
「私は女神です」
女が言う。
この女は急に何を言っているんだ。
「女神だから何だというんだ。女神なら私の子供達を救えるのか?」
「いえ、それは……」
女が沈痛な面持ちになる。
女が少ししてまた口を開く。
「救えませんが、もし死んでしまったらここへ連れてきます」
もしだと。
何もしなければ子供が死んでしまうに決まっている。
子供達を見つけた人間が何をしたか私は忘れてなどいない。
私が黙っていると女が必死に訴えかけるように私に話しかける。
「あなたを別の世界に送ります。今の新しい姿で。子供達もここにきたら、あなたと同じように姿を変えそこに送ります」
女の言葉に耳を疑った。
それはもしかして……。
「また子供と暮らせるのか?」
「はい!」
女はその言葉を待っていたかのように嬉しそうな顔をした。
「なんでこんな事をしてくれる?」
理由がわからなかった。
「私は女神だと先ほど言いましたよね?」
「ああ」
「あなた方の事は知っていました。あまりにも酷過ぎます」
女はその光景を見てきたかのように苦しそうな、悔しそうな表情をする。
「あなた方以外にもひどい扱いを受けている子達はいました」
「ならどうして私なんだ」
女はどうしてか考えているような様子だ。
「私のわがままです」
女は遠い目をして言った。
「子供を守ろうとするあなたを見ていたら、自分でもわからないうちにこうしてました」
そう言うと困ったように笑う。
「私はどうしたいいんだ?」
これからのことがわからないので女に尋ねる。
「別の世界に行く前に何か恩恵を与えたいのですが」
「必要ない。子供達と生活できるならそれだけで十分だ」
女がまた何か考えている。
「姿が変わっているのは分かってますよね?」
それは起きてすぐに気付いた。
「その姿は別の世界で獣人と呼ばれている人種の1つです。その姿から元の姿になれるようにしておきます。私の好きな犬ですけど、あなたの元の姿にも似てますし。あとお気づきかもしれませんが人としての知識も」
犬か。
私を閉じ込めていた男もそう私をそう呼んでいた。
「必要ないと言っただろ」
「さすがに困ると思いますので」
女が意見を変えそうにないのでもう何も言わない。
「あ、ちなみに私はあなたを送る世界で女神セーイスと呼ばれています」
女が自己紹介してくる。
世話になったのだから自分も名乗ろうとしたが名前がないことに気付く。
私を犬とか野良と人間が呼んでいたが、それが名前だったのだろうか。
そんな名前は嬉しくもない。
それに今なら、それが名前などではないことが分かる。
「早く送ってくれ」
「わかりました」
女が手をかざすと光に包まれる。
「きっと新しい世界では幸せになれますよ」
女の声が聞こえる。
何か言い返そうとしたが、口を開く前に意識が遠のいた。




