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男達を見る者

 あのボス猿から数日が過ぎた。

 手の怪我のせいか発熱が起こり、しばらく満足に動けない状態だったためだ。

 幸い黒毛鼠の小屋で休んでいる間農夫が小屋の中に来ることはなかった。

 黒毛鼠達は自分たちで藁の交換などもしているので、農夫が色々と世話をしてやる必要がないのかもしれない。

 今では熱も下がりなんとか動けるようになった。

 あまり動きすぎると傷が開いてしまうので気をつけないといけない。

 あの人がいるので子供達に心配はないと思うが、やはり自分の目で安全を確かめたい。

 もう暗くなってしまったが少しだけ子供達の顔を見に行こう。

「出てくる」

 私がそう言うと黒毛鼠達が心配そうに見てくる。

「大丈夫ッチュ?」

「まだ安静にしとくッチュ」

「少し出てくるだけだ」

 そう言って教会へ向かう。


 教会裏の柵の近くに人影が見える。

 教会の中を覗いているようだ。

 怪しい、気付かれないように獣の姿のまま相手が確認できる距離までゆっくりと近づく。

 子供達をさらおうとした男だ。

 今すぐ襲いかかってやりたいが、ここで争えばあの人や子供達に気付かれる可能性がある。

 それに今は満足に動ける状態ではない。

 この姿を見せて脅してやるくらいでいいだろう。

 そう思い、男かこちらに気付くまでゆっくりと近づいていく。

 気配に気付いたのか男がこちらを向く。


「うおっ、お、お前はあの時の」

 私を見てゆっくりと後ずさる。

「なんでお前がここにいるんだよ」

 男は小屋の方を見て何か気付いた顔をする。

「まさか、あのガキ共と関係あんのか?」

 男がガキ共と言ったのが気にくわず睨みつける。

「なんなんだよ、くそっ!」

 そう言うと町の中に逃げていった。

 しばらくそのまま男が戻ってこないか警戒していたが、戻ってくることはなかった。

 今日の男の行動に、私は何か無性に嫌な予感を感じた。

 小屋からは人が出てくることもなく、どうやら起こしてはいないようだ。

 子供達の寝顔を少しだけ楽しむと、黒毛鼠達の小屋へと帰った。


 あくる日、男達の監視をしよう夜の町に出ると、酒場の近くで男達を隠れて見ているあの人を見つける。

 一体何をしているのだろう。

 まさか、あの人まで男達を監視しようとしているのだろうか。

 あの人には子供の世話もしてもらっているし、これ以上迷惑はかけたくはない。

 それに、男達に見つかれば危険がないとも限らない。

 意を決してあの人に話しかける。

「おい」

 背後から急に話しかけたのがまずかったのか、驚かしてしまった。

「なにしてるんだ?」

 男達を見ていたのは間違いないとは思うが、念のため聞いてみる。

「いや、別に」

 素っ気無い返事が返ってくる。

 以前会った時の対応がいけなかったのだろうか。

 まさか嫌われてしまっているのか、そう思うと寂しくなる。

 それでも、この人を危険に巻き込むよりはましだ。

「あの2人を見ていたのか?」

 話が終わったのか立ち去っていく男達を指差す。

 少し反応が有ったので見ていたのは間違いないだろう。

「あなたは関わるな」

 突然私がそう言ったせいできょとんとした顔をされてしまう。

 こういう顔もするんだな。

「何か知っているのか?」

 あの人はそう言うとこちらに近づいてくる。

 少し近いせいか落ち着かない。

 男達のことを知りたくて興奮しているのかまだ近づこうとする。

「だから、関わるな。あと近い」

 あの人から離れようとする。

「何か知っているなら教えてくれ」

 後ろに下がる私の手を掴んでくる。

 運悪く傷がある箇所をつかまれてしまった。

「痛っ!」

 痛みがこらえきれず声をあげてしまった。

 そんな私を見てあの人は、私の手に巻かれた包帯を見つめて申し訳なさそうな顔をする。

「すまない」

 あの人が謝る。

「いや、たいした怪我じゃない。気にしなくていい」

 あの人のそんな顔を見たくはない。

 それに怪我だってもうだいぶ良くなっている。


「あなたには、関わってほしくないんだ」

 念を押すようにあの人に関わらないでとお願いする。

「だから、どうして」

 尚も理由を聞こうとしてくる。

 言ってしまえば絶対に関わろうとする。

 あなたは優しいから。

「私の問題だからだ」

 私の答えにどこか煮え切らないといったような顔をしている。


「なあ。町で一緒にいるのを見かけたんだが子供は元気か?」

 話を変えるため、あの人に子供の事を聞いてみる。

「子供は元気だ」

 予想通りの答えが返ってくる。

「あなたの子なのか?」

 違うのはもちろん分かっているが、あの人が子供達の事をどう思っているか知りたくて聞いてみる。

「いや、今は預かってるだけだ」

「預かる?」

「ああ、親が行方不明らしい。それまでは俺が面倒を見る」

 嬉しい答えが返ってきた。

 やはりこの人は子供達を守ろうとしてくれている。

 顔が緩みそうになるのを必死にこらえる。

「物好きだな」

 感謝の言葉を伝えたかったが、言うこともできず、自分の口からはそんな言葉しか出なかった。

「私はもう行く」

 このままここにいては顔がにやけてしまいそうだ。

 すぐに立ち去りたい。


「なあ、あんた名前は?」

 あの人が名前を聞いてくる。

「名前? 好きに呼んでくれ」

 答えれる名前など持っていない。

「いや、名前がわからないと呼べないだろう」

 どうしたものかと考える。

「教えれないな。だから自分で考えて好きに呼べ」

 もしかしたらあの人が私の名前を考えてくれるかもしれない。

 そんな期待を込めた返事をしたが、あの人は考えてくれるだろうか。

 あの人と別れた後、子供達の名前を聞けばよかったと激しく後悔した。

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