ボス猿
今日は明るいうちから子供達を観察していた。
毎日明るいうちから観察していると、さすがに目立つし怪しまれるので、10日に1、2回程度で我慢している。
今日は教会のシスターとボール遊びをしていた。
シスターが投げるボールを精一杯追いかける姿が微笑ましい
足元も気にせず走るので転ぶのではないかとハラハラする場面もある。
ボールを追いかけたくなる気持ちは分かる。
私も見ながら追いかけたくなる気持ちが沸いてくるが、さすがに自重する。
子供達に意識を集中しすぎたのがいけなかった。
あの人の接近に気付くのが遅れてしまった。
今更逃げ出すと余計に不審がられるだろう。
「教会に何かようですか?」
あの人が話しかけてきた。
あの人の声がはっきりと耳に入る。
こんな声をしていたんだな。
前の世界で助けられて以来こんなに近付くのは初めてだ。
「いや、教会に用はない」
自然に答えたつもりだったが、声が震えてしまっただろうか。
「でも、中を覗いていたように見えたんですが?」
怪しまれているようだ。
あの人の方を向くと、口を覆っていた布を下にずらす。
町の中なのフードまでは脱ぎたくないが、口元くらいはさらしていいだろう。
この状況をどう誤魔化すべきだろうか。
素直に子供の事を相談すればきっと関わってくるだろう。
「ただ、気になっただけだ」
うまい言い訳は思い浮かばず変な回答をしてしまった。
「何が気になったんです?」
すぐにあの人にそう返されてしまった。
私だってただ気になったと言われたら、何が気になるのか聞きたくなる。
「私はもう行く」
頭が混乱して何を言っていいか分からなくなってしまった。
私は逃げるように早足であの人の下から去る。
きっと悪い印象を与えてしまっただろう。
次からはあの人に気付かれないように気をつけないといけない。
その夜のことだ。
黒毛鼠の小屋で休んでいると、何かが近づいてくる気配がした。
小屋の外を覗くと、いつも相手にしている猿より倍以上大きいのではないかという猿がいる。
頭のとさかみたいなものは大きく前に迫り出しており、何やら気合の入った髪形を思い出させる。
腕や足なども太く、力強さが見て取れる。
他の猿達もこの猿にへつらっているように見える。
この猿達のボスなのだろう。
「お前が、こいつらをいじめたッギ?」
野太い声で私に話しかけてくる。
少々聞き取りづらい喋り方をする。
「だったらどうした」
でかい猿といっても私の体に比べればまだ小さい。
恐怖を感じるような相手ではなかった。
「落とし前をつけるッギ」
そう言ってボス猿が戦闘体制をとる。
まずは話し合いをするとかは考えないのだろうか?
最初に黒毛鼠を襲ったのはお前の仲間だ。 元の姿のとき猿を殴ったのは私だが、あれも正当防衛だ。
ボス猿を睨みつけると襲ってくる。
こいつらは睨むと襲ってくる性質でもあるのだろうか。
ボス猿は私めがけてその太い腕を振るってくるが、それを後ろに飛んでかわす。
それでも執拗にボス猿が追いかけてきて私に同じような攻撃を繰り返す。
「しまった」
私がボス猿の攻撃から逃げている間に他の猿が小屋に向かおうとしている。
すぐさま小屋に向かおうとするがボス猿の腕が私の前足をかすめてしまう。
力強い攻撃は他の猿とは違い激しい痛みを感じた。
今はそれを気にしている暇はなくそのまま小屋へと走る。
他の猿が小屋に入る前に間に合った。
しかし、私を追うボス猿が目の前に迫っていた。
私に噛み付こうと、口を大きく開き牙をむき出しにしている。
とっさに前足を出してそれを防ぐと激しい痛みが襲う、ボス猿は出された前足に容赦なく噛み付いていた。
「負けるなッチュ!」
「頑張れッチュ!」
後ろから黒毛鼠の声援が聞こえる。
守ってやらないといけない。
そもそも私が招いた災いかもしれないのだから。
噛み付いているボス猿の頭を抑えると、その顔に牙を立てる。
暴れるボス猿が牙から逃れた瞬間を狙ってその体に炎を浴びせかける。
顔の痛みと炎の熱さで地面を転げまわるボス猿、転げまわったことで炎は消えている。
満身創痍といった感じになり仲間を連れて逃げ出した。
とりあえず危険は去ったようだ。
さすがに腕が痛い。
前足を見ると血が出て地面を濡らしていた。
「手当てするッチュ」
「ありがとうッチュ」
「さすが大きい犬ッチュ」
黒毛鼠がどこから持ってきたか分からないが手拭や包帯を持ってきた。
その体でどうやっているかは分からないが私の足を洗うと手拭で水気を取り包帯を巻いてくれる。
以前に単純だと思っていた黒毛鼠は、実はすごい生物なんじゃないだろうか。
「ありがとう」
黒毛鼠にお礼を言う。
「どういたしましてッチュ」
「お安いご用ッチュ」
その夜は傷が痛んだが、何かを守れた嬉しさと充実感があった。




