奇妙な生活
体に何か違和感を感じ目が覚める。
目を開けて見てみると、黒毛鼠の子供が寝ている私の体を滑って遊んでいる。
滑るというよりは転がっているというべきなのだろうか、なんだか面白い光景だ。
ただ、順番待ちなのか並んでいる子供に混じって中くらいのサイズの黒下鼠もいる。
まさか転がる気なのだろうか。
そのまさかだった。
私の体の大きさからしたら大した重さでもなく気にはならないが。
一通り滑り終わるのを待つと、ゆっくり起き上がる。
外はまだ薄暗いが、黒毛鼠の世話をしに農夫が来るかもしれない。
「世話になった、また来る」
黒毛鼠達にお礼を言う。
「どういたしましてッチュ」
「いつでも来るッチュ」
黒毛鼠達と別れ林に向かった。
昨日と同じように狩りをし金を稼ぐ。
今日は兎を2羽仕留めた。
その後は酒場へは行かず、男がいるであろう宿屋の外で見張る。
男は昨日の会話を聞くにあまり顔を人目にさらせないのだろう。
私とは違う理由なのは分かる。
この町の門番にでも男達の所業を伝え突き出せば捕まえてくれるかもしれない。
しかし、絶対ではない、もし言い逃れでもされたら子供に何があるか分からない。
それに、私の事まで色々と聞かれたら説明ができないし、そんなに長く人と話したくない。
そろそろ昨日男と女が会っていた時間になってきたかと思うと、男が外に出てきた。
女を迎えに行くのだろう。
女が仕事が終わると迎えに行っているのだろうか、律儀なやつだ。
暗いからといって出歩くのもどうかと思うが、男が勝手に捕まってくれるなら私には願ったりだ。
男と女の生活のサイクルは大体分かった。
後は子供達に何か行動を起こさないか注意深く監視するだけだ。
男達を監視している生活など早く終わればいい、早く子供達と暮らしたい。
しかし、私が子供達と暮らすということは、あの人と子供を引き離すことになってしまう。
あの人は私と来てくれるだろうか、こんな私を受け入れてくれるだろうか、思考が変な方向に向かっていることに気付き考えるのをやめる。
子供達を見に行こう。
部屋は暗くなっておりもう寝ているようだ。
そっと窓から覗くと子供達が寝ていた。
下の娘が寝相が悪いのか上の娘の体に足を乗せている。
上の娘が苦しそうにしている顔がなんだか面白い。
下の娘はそんなことお構いなしに幸せそうな寝顔だ。
私が子供達に与えたかったものは、あの人が子供達に与えてくれているのかもしれない。
感謝と羨望が交じり合ったような複雑な感情が沸き起こる。
それでもあの人の寝顔を見ていると悪い気持ちにはならなかった。
しばらく子供達の寝顔で元気を充電すると黒毛鼠の小屋に戻る。
小屋に戻る途中、畑に何かが立っていることに気付いた。
気配がなかったので気付かなかった。
まだ獣の姿になっていなかったので戦う武器がない。
狩りで使わないのでナイフは村に置いたままだった。
焦っている私を気にも留めないのか相手に動く気配がない。
妙だ。
よく観察すると案山子だった。
ご丁寧に服や帽子まで着せていて気付かなかった。
なんだか恥ずかしい気持ちになるが、昨日まではこんなものなかったはずだ。
農夫が立てたのだろうか。
害がないことが分かると服を脱ぎ獣の姿になる。
脱いだ服をくわえて黒毛鼠の小屋へと戻った。
「いらっしゃいッチュ」
「ゆっくりするッチュ」
「それ何持ってるッチュ」
私がくわえている服が気になるようだ。
昨日は聞かなかったのに今日は聞いてきた。
少し考えて元の姿に戻る。
「チュチュー」
「チュチュチュー」
混乱して走り回ってる黒毛鼠が騒がしい。
人の姿では会話はできないようだ。
それを確かめると獣の姿になる。
「人になったッチュ」
「変身したッチュ」
「大きな犬だからッチュ?」
獣の姿に戻ると落ち着いたのかすぐに話しかけてきた。
「人の姿が本当で、獣になってるだけだ」
色々と聞いてくる黒毛鼠に説明する。
「犬が人じゃないッチュ?」
「人が犬ッチュ?」
「大きな犬だからッチュ!」
うまく理解できていないのだろうか、私の説明が下手なのかもしれない。
「気にするな」
うまい言葉が見つからずそう伝える。
「わかったッチュ」
「気にしても仕方ないッチュ」
「大きな犬だからッチュ!」
また1匹自分の意見を主張している気がする。
小さい黒毛鼠がまた私にまとわり付いてくるがそれも気にせず自由にさせる。
夜は子供達を観察し黒毛鼠の小屋で休む。昼間は狩りをしたりして日が暮れてくると男達の監視をする生活がしばらく続いた。
私はこんな生活を望んでいるわけではなかったが、黒毛鼠達に愛着が沸くくらいには仲良くもなり悪い気もしなかった。




