はじめの火
人間全体と一人の個人は、一体どのように結ばれているんだろう。やっぱり誰かから「一人じゃ生きられない、人間っていうのは集団動物で、皆が協力して皆を頼りにしてこそ、この星に立ってここまで生き残れる」っていう言葉を口から出して、結構な人々がそれが真理だと疑いもなく信者のように信じ込んでしまう。
俺はそれを嫌だった。
そういう、皆を一つになればどんな困難でも乗り切れるという集団主義は誰かに利用されやすいに限らずに、一人一人が思考放棄して正当性もあやふやの「主流」に流されて、間違っていることをしていても正義になる。極端な例をあげれば、もし無罪の人を死にませたいと誰かが民衆を誘導し、その民衆たちも集団リーダーを信じ、最後は紛れもなく簡単に人を殺すことになる。
まるで第二回世界大戦のドイツと日本のようだ。
俺たちは歯車だ。この国のため、この世界のため、全人類のため、力も体も精神も自分の人生やすべてを捧げなければならない、ちっぽけで、一人でいる限り無力な存在だった。何も変えなくて、奪われる側だった。いつも思う、この時代に生まれて、最悪だった。
そういえば昨日中島と話していた。なんで生物は繁殖するんだろって。それはもちろん性欲を満たせるためじゃなく、この種族を消滅しないようためのことだと俺たちははっきりわかっているけれど、ついに思ってしまう。思考っていうことはそういうことだと思う。
「あのね、今年は最後だよね?高校時代終わる」
「うん」
「LJKだね、あいつも」
「うん?」
「ラスト女子高生だよ。今年って言っても、もう夏だし。来年の春を迎えたら、皆ともう会えないかもしれないね」
「繁活でしょ。そりゃ忙しくなるんじゃん」
40年まえかなぁ。その時代にはまだ「繁活」っていうことばはなかった、かわりに「婚活」は流行しているらしい。どうやら40年まえ、オリンピックが東京に開催する頃は人々はまだ恋や結婚の相手を自由に選ばれるらしい。
「もううんざりだわ」そら向けて、まるでこの世界に対して言っているみたいに、友人の中島が呟いていた。
「なんで生物は繁殖するんだろ」
「ねぇー、そういうシステムわけわかんないっしょ」
「生殖のシステム?」
「いやいや、遺伝子のペアリング」
「あああ、それね。うん、わけ分かんない」
討論にもなれなかった、溜息を吐いた間にもう昼休み終わってしまう。
「今日だっけ、ゆりのおうちに行くのは」
「いや、明日にした。土曜だし」
「そっか。。。」
「安心していいよ、別に汚らわしいことしようつもりはないから」
「してもいいよ。。。てかおまえ、ゆりより間崎としたいでしょ」
「そうね」
夏にはセミ、音が校舎の中に響き渡って、何度も何度も心をたたくように耳から頭まで占めて、最後は夏の一番思い出せたくない思いになっていく。もしこの音を味にするなら、それはとっても苦い夏雨あがりの水たまりの中にある泥水の味でしかない。
「違うんだね、晴れている時の風の音と雨上がりの時の風の音。樹木の葉を揺らす時の音も好き」ゆりがこうして俺に声かけてくるのは、俺らがペアリングされた時からそっちから始まった。一応セクスはしていないが、社会からはいつかするからそう呼ばれている。実験うけているの動物みたいだ。けど動物たちはそうされたくない、哀れに人間の言葉が分からない、訴求を言えない。
一緒に選ばれたのは多分ゆりの思うの都合になるかもしれない、こいつがそこで一生の運を尽くしたように運が良さすぎる。好きな人と一緒に選べたのはどれだけ幸運のことか、それは多分100億をあたったと同じ稀なことだ。実際いま人類の人口は100億を超えたからね。
「うん、違うんだね。風の音、一分前の音と現在の音。昨日の音と今日の音。風は変わらないのに、なぜ感じが異なるだろう」
それは環境が変わったからじゃないの?自分がずっと昔にいたいとしでも、時間は止まらない、まっすぐに前を進む、川の流れ水と同じ、止まらないところかすべてを連れていく。
「お前さ、俺のこと好きだよね?」
ゆりは無言だった。
「俺は確かに二年の学園祭の時お前と間崎の前で、俺は自分が好きの相手より自分を好きの相手に優先する、付き合うって言って、後で後悔とか言ってたけど。いまは後悔とか思えないかもしれない」
ゆりの目からささやかな光が俺の目に映して差し込んでいく。
そう思わせたのはこの時代のシステムだから、俺たちの気持ちはどうでもいい、どうせ最後はペアリングされた相手と一緒になるから、自分が誰か好きとか誰か自分を好きとかは許されていないのだ。っていうことを口から出せなかった。言うと思ったが、ゆりを傷つくかもしれないと気づいて声出る寸前に押し殺した。
中島からも俺にゆりに優しくしてってお願いした。嘘でもこれでいい。
いつもより淡った夏の匂いだ。午後の授業終わったら部活入ってない俺と中島は屋上に、グランドで走っている運動部の奴を眺めるのが好きだった。競争に入ってない高みの見物はこういうことかはわからない。ただ俺も中島も人とかかわるのが好きて、コミュニケーションも苦手のわけでもないが、だんだん静かなところにひかれたのはなぜだろう。やっぱ疲れたからかな、それとも例の件かな。
「ゆりは帰った?」
「多分そう」
「さっき図書館でお前らふたりの姿見かけたけど、なに話した?」
「風の話」
「カゼ?ゆりカゼひいちゃったの?」
「そっちのカゼじゃないけど。まぁ、とにかくつまらん話していただけだよ」
「そっか。。。そういえばあのロシアン来週日本に来るってさ、日本語も分からないのに間崎に会うって噂聞いた」
「よりによって外人かよ、純玲の相手は」
「ロシア人って酒好きで暴力のイメージだね、大丈夫かな」
「納得いかない」けど納得しなければならない。
「性格とか全然考えない、遺伝子を基準にしているシステムだね。いつかペアリングセンターを爆発しよう。テロする気になった」
冗談の一言がその刹那でそれを成すことに祈ってしまった。
「おう、しようぜ」っていうのは冗談の迎合で、システムの決定に従えるのが現実だった。
放課後屋上にダラダラして、ジュース飲んで、いい時間つぶしかどうかも分からないけれど、とにかくこんな形で時間を消耗したあとはそれぞれ家に帰る。
家には二歳下の妹がいる、そろそろペアリングがやってくる時期だった。毎日不安の様子で、無口になってもおかしくない。俺のその時期は親はまだ気楽のふりをしているように見えるが、妹の場合は複雑でわかりにくい表情を顔に詰まっているだけだった。相手になる男はどんな人か、ゆりの事情のせいで考える余裕ほとんどないの俺でさえ気になって仕方ない。
兄妹の関係はそんなに良くないが、それほど悪いでもない。父さんと母さんの関係みたいに、全然好きでもない人と結婚して、子供産んで、家族の一員として責任とやるべきことを尽くしているだけだった。それ以外一切の感情もないし。交わるのは体だけだった。俺は妹と体を交わることはないけど、思春期からずっと「馴染んでいる他人」みたいな関係でいた。
晩ご飯前ずっと間崎と通話してた。
彼女とは一年の時のクラスメイトだが、二年も三年も違うクラスだったが、三年生になるまでずっと剣道やっていたから、彼女とほぼ毎日顔合わせる。同級生だけど、俺は高校一年の時初めて剣道の世界触れ、入ったが、彼女は中学ころも二年をやって、初心者の俺とは大違いだ。同じ年だけどいつも先輩ふりで俺にいろいろ教えた、おかげでうでがプロへ猛進した。
この学校で剣道と言ったらきっと周りから間崎の名前が出る、それほど強くて、独善的の人だから。そんなうでと性格を持つ間崎は友たちなんていない、嫌われた人ならたくさんいる。彼女の長く黒い髪ほど性格も黒いっていつも言われている彼女は何も思えない、くずの嫉妬とか、先生との相談でガチで言った。
だけど俺とは順調だった。友たちとして。
「ねえ、妹さん、そろそろだね」
「うん」
「いつ?」
「来月。もうセンターに申請書と予約をした。なんか手数料も上がったよ。」
「いくら?」
「3000円」
「そっか。そろそろアメリカのように無料にしてほしいね」
「将来子供のため払うもんね、まだ上がるかもしれないね」
「こっちはハーフだわ」
「そうやな、ロシアは無料?」
「知らない」
「ロシアに行くの?そっちで住むの?」
「知らないわよ、まだあったことないし、それにそんなに早く結婚しないから」
「じゃいつ?」
沈黙、そしていった。「しつこいのよ」
「ごめん」
間崎と俺は普通に話し合えるが、他の人と一緒にいると、相手に人を見下しイメージが不意にでもつく。
「あのさ、日曜、出かける?」
「君と?」
「嫌なら、別にいいけど」
「嫌じゃない」
俺が彼女から恋を報われているのは、彼女自身も知っている、それでも平然の態度を取って、なんもない顔をしている。けど俺は告白とはしなかった、彼女は知らないふりをしているし、このまま心を冷めて、現実を向き合うと思ったからかもしれない。果てがしない恋だから。彼女の気持ちを知っても知らなくても知りたくてでもどうにもならない。
「そういえば中島君なら聞いたけど、羽原くん剣道やめたのは私と一緒にならなかったせいで?」
「いやいやいや、んなわけないだろ」
「本当?」
「本当。一緒にならなかったのは不可抗力だと、もの覚えるようになったころから知っているよ。誰かを好きになっても、他の人とペアリングしたのが普通。システムの決断だから、従えるしかできないじゃん」
自由に恋する時代はもう終わった。始まったばかりだけど、終わった。昔親が結婚相手を選ぶ時代に戻った。これは退化かな?いええ、いまの人たちはそれを進化だと思っている。
正しいことはいつも皆の思っていることだ。
「確か、ペアリング終わったあと、泣いていたね?」
「俺だけじゃないよ。うちのクラス、過半数泣いた。ほぼ女子。でも男も何人が泣いたね、相手がとんでもないブスで」
「羽原君はまだいいね、ゆりちゃん可愛いし」
実は大人っぽくに見える君がいいよ。って言ったかった。
「俺ロリコンじゃねえし」
「なればいいじゃん?」笑って言っている
なりたくなった、ゆりを好きになりたくなった、ロリコンになりたくなった。ゆりのこと好きになったら、間崎も思い出になるのだろう。そしたらこんなに息詰めるほど苦しなくて済む。
「試してみる」
人間はぶつけていけない、変えられない現実にぶつかったら、自分を変える。ついでに「一人じゃ世界を変えない」、「私にはそんな力がない」、「それが逆らえない世間のコンセンサスだから」みたいな自分を慰めるのことを言って、戦うすら放棄した。他人を変えられなくでも自分は変えられる、それは他人に頭を下げ従うことなのに、誰もがもが立派なことだと形容している。
間違っていることが論理や法にでもなったら、それは正しいことになる。人間にはまだ正義を見分ける判断力が足りないと思う。
それによって、大勢の人は犯罪しない、見栄っ張りしない、異性を弄べない、主流にまにまにしかない、反抗しない、質疑もない、不可能に挑めない、正義も求めない。みんながそれが正しいだと思っているから。だから誰でもペアリングはこの世界をよりよくするためのシステムで、皆が受け止めざるを得ないと思い込んでいた。
とんでもない科学教というカルト教団だ。科学に異議を申し入れる人もいないくらい、みんながこんな触れない形のないものを信じでいる。
「健っちゃん、ご飯」
「あ、ごめん、切るね、晩ご飯」
「オーケー」
食卓の上ではいつもの空気だった。父さんも母さんも相手のこと好きじゃないけど、共に長い生活をしていたなら少しだけでも相手のこと家族と思っている感情はあるはず。それは明白であって、しかしながらもう彼らにはそういう感情しかないのも紛うことなき実情。例えばカップルでいる間にどんだけラブラブしているでも、結婚して年月経て、まるで賞味期限が切れるみたいに、自分にとって当時惹かれた相手の魅力はどんどん色褪せ、退屈になってしまうのを、学校でもう先生から教われた。
その気持ちが日々親を見て重なっていくのも避けれないこと。本当に、自分が好きの相手とより、自分を好きの相手の方こそいいかもしれない。俺は重視される方を選ぶ、後者を選ぶかも。間崎の性格はたぶんリードされる方よりリードする方に見える、俺と全く同じ。そもそも俺が好きなのは彼女の顔だけかもしれない。分からないけど。
「家族は愛情より深い絆というのを、わかってほしい」先生は授業中でそう教科書を基づいて述べた。それは皆をシステムが選んだ相手に文句言わずに受け入れるためでしか俺は思えない。
けどそうするうちに、いつの間にか絆は本当に生まれるのかも疑ってしまう。本当に関係を切れたいならそうすればいい、簡単にできる奴もたくさんいる。主流社会に異端に見られているが存在している。そういう他人も目線を気にしなくやっている人たちがうらやましい、それはまるで今持っているすべてを破棄しなければそうにならないらしい。その人たちの勇気をうらやましい。
深夜、日昇るのを待っていた。