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夕空にさようなら

作者: 坂木哉斗

アルファポリスで先行公開したものを加筆修正しました

 空が澄ん一日だったた。


 夕焼けが見える高校の教室の窓辺に、鈴木と僕は立っていた。僕は部活帰り、鈴木に教室に呼ばれたのだ。


「斉藤、実はな」

「どうしたんだよ、突然」

「お別れを言わなきゃならないんだ」

「鈴木、何言っているんだ」

「詳しくは言えないけど、今日までなんだ」

「何かしたのかよ、悪いこととか」

「いや、そうではない。ただ消えるんだよ」

「誰が」

「オレが」

「どうして」

彼は何も言わなかった。教室の外に見える夕焼けをずっと見ていた。

「じゃ、行くわ」

「おいっ」


 その直後だろうか、なにか鈍い物で殴られた衝撃を受けた。痛みはなかった。ただ、重さというか鈍い力を頭に感じた。


 



「斉藤君、斉藤君ってば」

「ん、うんん」

「どうしたの机に伏せて寝て、校門閉まるよ」

「牧田っさん、んー」

「どうしたの」

「あれ、鈴木いない」

「なに寝ぼけているの、うちのクラスに鈴木なんていないわよ」

「うそだろ、文化祭でお好み焼きバカ食いしていた]

「なに寝ぼけているの」

「だって、スマホに。あれっ」

スマホに保存している彼の画像が消えている。あったはずなのに。同じクラスTシャツ着てお好み焼き作っていた写真から消えている。

「ばかなっ鈴木の映っていある写真消えている」

「何寝ぼけているの。まったく、声かけなかったら先生にまた言われるよ」

「・・・そ、そんな」

言われるまま僕は教室を後にした。さっきまで彼と話していたはずなのに。その後時間が過ぎていったようだった。


 その日、家に帰ってからずっと、鈴木が消えたことを考えていた。それとも牧田の言うとおり寝ぼけているのだろうか。記憶はあるのに

記録が消えている。そんなばかなことがあるだろうか。自分だけ記憶が残っていて周りの誰もが鈴木の存在をしらない。なぜ。




 そのまま何日か過ぎた。回りの友達はいつも通りだ。ただ違っているのは自分だけのようだ。

「最近、斉藤どうした。変だよ」

「ん、んん。なあ、鈴木ってこのクラスに男子いたよな、田口」

「いるわけなねえだろ。どうしたの」

「いや、僕の記憶にはあるんだ。文化祭の記憶とか」

「じゃそのときの写真見せてやるよ」

田口はそういってスマホの画面ほ見せた。鈴木の姿はない。

「だろぉ」

「あ、あぁ・・・」


鈴木が消えて何日かたった金曜日。放課後ふと変な気配を感じた。


『すまぬ、もう一度君に会う用事ができてしまった。勝手いってすまないが、水道記念館に来てくれないか』

「おい、鈴木どこにいる」


「斉藤、どうした、窓の外見て誰としゃべっている」

「田口、聞こえなかったか、鈴木だよ]

「おまえなぁ」

「ちょっと会いに行かないと]

「どこへ」

「水道記念館」

「大丈夫かお前」

「そうよ」

牧田さんまで言われた。

「なんだったら、ついてくよ」

「ご自由に田口」

「私も」

「牧田さんもですか」

「当然っ。最近変だから」


 高校から自転車で走ったところに水道記念館がある。時計は、午後3時を回ったところだ。虹製造機とわけがわからないものが置いてある、その隣に、屋根のかかったところがある。その下のベンチに座った。反対側には水道記念館のレンガ建ての建物がある。中央に出入り口があうり、左側に大きなポンプがある。


「ここなの」

「ああ」


とそのときだった。


『あれっ、3人も来ちゃった』


「え」

「あ」

「3人で来ちゃまずいかよ」

「聞こえた」

「うん<うん、マジっ」


『やっぱり記憶と記録消すの失敗したようだ』

「あなた、誰」

牧田さんが空に向かって問いかけた。

「しっ、散歩している人こっち見つめてるだろ]

田口が言った。

「鈴木だよ」

「この人なの」

「牧田、思い出せないか、文化祭でお好み焼きバカ食いしてたやつ」

「オレもなんか引っかかる」

「だろー。英語の成績悪くて僕と夏期講習の補習受けたやつ」

『あのねー・・・。ここじゃまずいからかわらのほうに来て』

「わかった、なんか頭の中にイメージ浮かぶワ。道路の下だろ」


 僕たちは川原へ向かった。近くに浄水場があり、高架道路の下近くにグランドがある。堤防のように盛り上がってスロープを描いて、川原の近くへ続く階段に、僕らは腰掛けた。


「ここで待ってろって」

「けど、あいつ自転車で゜くんのか」

「というより、何で頭の中に問いかけてくる」

「だよね。はたからは何というか」


 曇りがちの空の向こう、何かが鈍く輝いた。


「あっ」

「なにっ」

「おっ」


それはこちらに向かって空間を縫いこむように進んできている.

「まさか、鈴木君って」

「宇宙人だったのかよ」


『ここのグランドじゃ目立つからもう少し奥に止めるね』


「あいつ、原付も持っていないのに何でアレ飛ばせる」

「というか」

「まるっきり、未確認飛行物体」


近づいたかと思うと、ちょっと先の川近くから、ズサ、ミシミシミシと音がした。


 鈴木に言われたとおり、グランドの奥のヤブに行って見た。特に焼け焦げた臭いもしないが、この先に何かがいる。そんな気配がある。しばらくして、ヤブの向こうから人が出てきた。


「やあ」

「鈴木っどうして」


普段どうりの私服の鈴木がいた。いや、多少作業着っぽいかもしれないが、対していかにも宇宙人ですという格好でなかった。


「斉藤、田口に牧田さんまで」


 僕たちは思い出してしまった。


「なんなのこれ説明してよ」

「・・・一瞬だけ見せとく。すぐ消すけど」


ぱっと見せて、ぱっと消したのは、無骨な箱のようなものだ。


「ずいぶんとイメージ違う」

「地球の物理法則でないカモフラージュだからね、見るか」


プシュと風景の一部があいて、ドアが現れた。

「何だこの文字。イテ」

「ああ、これ、段差・頭上注意」

「最初から言っておけよ」


 玄関にあたるところから、なにやら物置が見えた。物置には自転車があった。

「なんとも、宇宙の人とは思えないな」

「宇宙といえないだよ、私は」

「じゃ何なの」

「宇宙も含まれるが、別の時空というのかな」


 奥に進むとリビングルームというべきところがあった。いかにもハイテクな室内なのだが、アニメのポスターが張ってあって、奥に布団が無造作にたたんであって、テーブルがある。


「もうちょっと、まともな部屋つくりしたら」

「女子の牧田さんに言われるとなんとも、これ一応地球の文明サンプルなんだ」

「サンプルと言っても、なんか、使っている感じがあるし」

「まぁ・・・ね」

「おい、トイレは」

田口が言った。

「んー、自分専用のアタッチメントのトイレならあるけど」

「・・・いいわ」


「それにしても<ずいぶんと、地球なれしているのね鈴木君」

「まぁ、これでも留学生でして」

「聞いてないよ」

「そう、地球の人には伏せてるんで」

「なんで]

「文明があまりにも違いすぎる、って言ってたかな」

「違いすぎているのになぜこっち着たの」

「・・・教育の一環なんだ」

牧田さんの突込みが続く。


「で、これからすること何なの、誘拐」

「いや、記憶を消しておかなくてはならない」

「どうしてなんだよ」

僕は斉藤に叫ぶように言い放った。

「規則なんだ。惑星外の文明に触れて帰るときは、すべての痕跡を消し去らなくてはいけない」

「じゃあ、記憶を消すために呼んだのかよ」

「・・・すまん、記憶の消し方が不完全のようだ」

「文化祭のお前や、海で遊んだお前との記憶も消えるのか」

「そうだ、どうしても消えなかったのはこの3人だけなんだよ」


「いやよ」

牧田さんが叫んだ。

「私に一つも触らないでちょうだい」

「いや、触らなくてもここに呼んだからには記憶が消せるんだよ」


「今すぐにか」

田口が問いかけた。

「いや、二晩ほど記憶が消えるのにかかる」

「メモ書いていてもか」

「メモに残しても、画像に残しても・・・消えるんだよ。すべてが」

「さびしすぎるだろっ」


「ところで、記憶の消去はどうやって行われるんだ」

「もう、この中に入った時から始まっている」

「バカっお前、なんてことしたんだよ」


少しの沈黙が流れた。


「単に、お前のサンプル収集に付き合わせて消えるのか」

「惑星学習ではそうなっている。まだここの生命体がレベルに達していないとそうなる」

「じゃ、いつになるとお互い分かり合えるんだ」

「それは、わからないよ」


また、少しの時間が流れた。


「そろそろ、本当のお別れの時間だ」

「本気かよ鈴木」

「外に出て。ここから先は私の星に行く船になるから」

「つれてけとはいわないけどよぉ、あんまりだろ」


ごつんという微かな音と、何かの甲高い振動音がする。

「さあ次の瞬間に外に出ているよ」

そう言い放つと 重たく、鈍いものに抱きかかえるようになって、僕たちはいつの間にか外に出ていた。

「どせういうカラクリになっているんだ」

「それは伝えられないんだ」


「なあ、せめてだけど」

「なんだ」

「また会うということはないのか」

「自分では決定できない。指導教官が決めるし」

「その時はどうなんだ」

「記憶が消されているから出会ったことはことは記憶にない」

「あまりだろ」


「・・・そう思う、けど規則なんだ」

彼の頬にキラっと涙が流れた。


同時にドアが閉まった。

フラフラと空間を切り裂きながら夕空に向かって上昇する。


「あいつとの思い出絶対忘れないからな」

田口は言った。

「なんで、行っちゃうんだよバカっ」

牧田さんは言った。

「あんまりだよ、一方的に忘れろなんて」


 僕らは夕空を少しだけ眺めていた。少しして河原を後にして自宅に戻った。


 日曜日スマホを開けてみた。鈴木の写真が消えている。彼らのテクノロジーっていうのはなんなのだろうか。いとも簡単に記録と記憶を変えていく。


 月曜日になった。鈴木のいなくなってやってきた月曜日だ。僕は教室の中にいた。微かに残る鈴木の記憶がある。田口と牧田の記憶は完全に消えていないだろうか。


「なあ、このクラスに鈴木っていたよな」

「何寝ぼけているんだ斉藤。いないよ」

「ほら、文化祭でお好み焼きバカ食いして英語のテスト悪くて夏季の英語の補習受けて、夏の海に遊び行った」

「ああ、そりゃ鈴木でないよ」

「えっ」

「田中だろ」

牧田さんがオハヨーと言っているその向こうに


「やあ」

と言っている彼がいた。


「鈴木・・・」


「すまん、英語のノート貸してくれんか、ちょっとテストまずい」

「いいけど、鈴木でなく田中・・・」

彼はそういうと左目をウィンクして見せた。


 僕の頭の中に何か語りかけてきた。


『すまんな惑星学習補習くらっちまった、しばらく頼むな』

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