人形使い編
感想、待っています!
図書館に着くと、いつものように更衣室を目指す。
この図書館には制服がある。
因みに、上司のジャイアント ナクリさん手作りのそれはデザイン性もさることながら、運動性も優れている。
図書館の司書に運動性が必要なのか? と思うだろう。
はっきり言おう。
ものすごい動く
図書館の大半の仕事は、搬入された本の整理。
また、めんどくさいのが魔法書の警備だ。
何故、司書が警備をしなければならないのか。理由は簡単だ。人件費削減、これで終わる。
そのため司書なのに夜勤もあり、一週間に一度必ずしなければならない。司書なのに。
更衣室に入ると先客がいた。
狼男のケルン・ダイ
一応の先輩であるこの先輩は仕事はよくするし、イケメンだし、どこかの人見知りのように頼りがないわけでもない、いい先輩だ。
しかしこの先輩、一つ問題がある。
それは、何も喋らないことだ。
日常会話で喋らない人はいるだろう。
しかしこの先輩は・・・
カウンターに行っても喋べらない。
喋らない癖に容姿のおかげかカウンターに列ができる。
一回、バイル先輩とサシでカウンターにどちらが多く来るかというゲームをやったことがあるが・・・
可愛そうに、バイル先輩にはだれも来なかった。
あの光景は今でも忘れられない。
うつむいている筋肉のかたまりを可愛そうな目で見ている、狼の顔をした人外。
シュールだ。実に
まぁ、バイル先輩はめったにカウンターにつかないので、予想通りといえば予想通りであろう。
何も、カウンターだけが仕事ではないのだから。
ちょうど着替えようとしていたケルン先輩に軽くあいさつし、自分を着替えようとした。
「稲垣」
ものすごい美声だった。
バイル先輩のように男らしい声ではなく
ナクリさんのように力強いわけでもない。
本物の美声。
この図書館にこんな声の奴がいるかどうか、脳内ライブラリで検索してみたがどの人外にも当てはまらない。つまり・・・
「せっ・・・」
おおっと、声が漏れてしまったようだ。
慌てて口を押え、息を整える。
俺はこんな声ではないし、周りには誰もいない。
つまり
つまり、この声は目の前の先輩が出したということだ。
なるほど、俺は今図書館における先輩の初Soundを聞いたという事か。今日はいい事があるな・・・
そんなことを考えていると
「どうしたんだ稲垣?」
と先輩から聞かれた。
「いえ、今日という日に打ち振れていただけです。」
先輩は不思議そうな顔をしながらこっちを見て、また自分のロッカーに目線を戻した。
「人は考える事によってではなく、行うことによって成長する。」
「何ですか?それ。」
先輩は、襟のボタンを留めながら言う。
「昔の詩人の言葉だ。といっても、5000年前のことだが。」
「なぜ今、昔の詩人の言葉を?」
そういうと、先輩は困ったような顔をする。
「なんでだろうな…言いたかったから。それじゃだめか?」
「言いたいことを俺が止める資格も理由もありませんよ。」
そういうと、先輩は口を閉ざした。
少しの静寂の後、先輩が口を開く。
「稲垣、少し愚痴を言っていいか?」
俺は笑いながらこういう。
「俺の悪口ではないのでしたら、どうぞ。」
先輩も少し笑っていた。
「俺はな、どうしても殺したい奴がいるんだ。そいつは、取り返しのつかないことをした。人間としても、化け物としても。しかも誰もそいつを裁こうとしない。」
確かに先輩は笑っていた。でも笑っていなかった。
「誰もが、許そうと言う。だが許すことはできない。そいつは殺さなければならない!」
先輩には、俺が見えないようだった。
「奴は、考えるだけで何もしなかった!これは立派な罪だ!」
その人は、知っている先輩ではなかった。
先輩は、息を整え最後にこう言う。
「俺は、そいつを許せるだろうか。」
俺に聞いているのではないだろう。だけど俺は答える。
「すべての人を許せるんだったら、この世はこんなにグチャグチャじゃありません。」
先輩は
今度は
笑っていた。
「ありがとう。」
先輩は、それだけを口にする。
俺は先輩よりも先に着替え終え、帰ろうとした。
「稲垣」
「何ですか。」
「俺が言えることはこれだけだ。これ以上は、言う権利もない。」
先輩は、何か満足したような顔だった。
「がんばれよ。」
稲垣が帰った後。俺は、この後起こるであろう非日常について考える。
「少し感情的になりすぎたか。」
そうつぶやく。
更衣室は、比較的涼しく、
そして少し寒かった。
どうでしたか?
まぁ、頑張りました。