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魔法司書の混戦記  作者: やマシン?
人形使い編
2/22

人形使い編

遅れて申し訳ない

消えっちまったんだよ!何もかも

 冬が終わり、もうすぐ春になるこの時期も寒い事には変わらない。

 俺の前を歩いている、たぶんノームであるだろう爺さんや俺とすれ違ったオーガまでもが、長袖に長ズボンといった冬に着るような服装であった。

 あちらこちらの居酒屋から、賑やかな声が聞こえる。飲み屋街を彩っているネオンの光がちかちかと輝いており、町が生きている。そんな印象だった。

 この国一番の飲み屋街だから、そんなことは当たり前だろう。怪物たちがぐちゃぐちゃに込み合い。軒並み並ぶ店に、日々の癒しを求め通う。この場合の癒しは、家庭がないもの、家庭では癒せないもの、様々な化け物がいろんな理由を抱き、中毒者のように集まってくる。集まったものは、互いの傷を舐めあい自分だけではないという感傷に浸る。

だが、中には一人で静かにしたいと思う奴もいるだろう。自分の傷をさらしたくないもの、そもそも一人で飲むのが好きなもの。いろいろな理由があると思う。いろいろな理由を持ち来る者もいると思う。


 俺はその時、飲み屋街を歩いていた。なんのことはない。仕事の後に一人で飲みに行くことがいつの間にか俺の日課になっており、それを律儀に守ろうとしていただけだ。やはりこの通りには、俺の好きそうな店はなかった。なにか懐かしい。そんな感じの店は。

 だから、いつもの店に行こうとした。いつものように。

すると

「稲垣!」

後ろからそう呼ばれた気がした。俺は最初、自分に向かって言われたと認識できなかった。

「稲垣!!」

二回目でようやく自分が言われたと認識した。

後ろを振り向くと、そこには知り合いの顔があった。

そこにいたのは、20才ぐらいの人間の女性だった。


裏路地の居酒屋は、先ほどいたこの町にとってのメインの居酒屋とは変わった印象を持っている。

路地は人込みは少なく、薄暗い印象を残し、ただそこに存在する。先ほどいた主役であるものとは、格が違うわき役。だが劣っているわけではない。むしろ俺のような特殊な人間にとって、心地よい場所になっている。

飲み屋「bonds tied」

ここは、吸血鬼の店主とノームの女将さんが経営している居酒屋である。

特徴といえば、入り口の看板だろうか。

立派なヒノキの一枚板に書かれているのは店の名前と縛られている心臓。

これは女将さんが言うには亭主の心臓であり、自分の心臓らしい。

店内は、いつものように人が4~5人しかいなく、ガラガラでもなければギュウギュウでもない、そんな感じだった。

俺は女将さんに挨拶をし、この店ただ一つの個室を借りる。聞いた話によれば”そういうお客様のためのもの”だそうだ。

女将さんに「あら、いよいよ彼女ができたのね!」と言われたが冗談じゃない。

部屋に紹介され、注文を取る。俺はウーロンハイ、彼女はウオッカを頼んだ。また、つまみとしてから揚げ、枝豆などを頼む。

飲み物が運ばれてくると彼女、南堂由梨が最初に口を開いた。

「久しぶりね。元気だった?」

由梨とは幼少期からの知り合いである。いわば幼馴染みというやつだ。

俺は昔から彼女が苦手だった。

理由は簡単だ。彼女はめんどくさい。

彼女は自分が楽しむために余計なことに首を突っ込み、その尻拭いをいつも他の奴に押し付けていた。まぁほとんどが俺だ。だが、俺は彼女をめんどくさいと思いながらも、彼女に憧れていた。

彼女は昔から才能のある魔法使いだ。

子どものころ、俺はそれが羨ましかった。彼女になりたいとさえ思った。

だが、今は・・・

「何でここにいる。プロバニアにいるんじゃなかったのか?」

彼女はフリーの記者で、プロバニア国というオークが治めている国にいると3日前に手紙が来ていた。の手紙は突然に、自分の職場に来た。彼女とは、5年あっていなく、そのころ俺は別な仕事をしていたので、職場に彼女の手紙が来た時は驚いた。それに以上のことから俺は彼女がそこにいると思っていたんだ。

彼女は、こう言う。

「実は面白そうなネタをつかんだのよ。それを確認しにこの国に帰ってきただけなの。」

そういって、彼女はウォッカを一気に半分のみ、満足そうな顔をする。

彼女が面白いというほどだ。俺はそれに興味があった。

「面白いネタって何のことだ。生憎だがこの国でおもしろいことなんて一つもないぞ。」

彼女は、子供の時のように笑い

「それは秘密。でも明日になれば分るわ。これはあなたに関わりあうことだから。」

それよりと彼女は言う。

「こんなにお店があるとは知らなかったわ。5年前に来たときは、もっとお店は少なかったような気がするけど?」

「まぁ、増えたからな。」

「ごちゃごちゃしてゴミみたい。」

「気に入らないのか?」

「気に入らなかったの。」

そう言って、残り半分を飲み干す。大丈夫か?

「そんなに飲んでいいのか?というか、ウオッカをジュースみたいに…」

「これくらい飲まないと記者はできないものなのよ。」

さいで

「それにしても、あなたにぴったりな店ね。」

「ぴったりとはどういう意味だ。」

「地味なのが」

「一応聞くが悪口か?」

「褒めてるつもりよ。」

ウーロンハイに口をつける。ウーン茶の香りのあと、酒の香りが押し込み、俺の喉を潤す。

「目立たないように生きたい。あなたはそう思っている。だけど、特別になった人間は戻ることはできない。だから目立たない、良くて脇役なこんな店に来てしまう。」

自分は一人だと思いたいから。

違う?

そう、由梨は言う。

確かに、そんな頃もあった。下の存在になりたかったことが。

だが、それは昔の話だ。今は...

「なんと言うか...懐かしいんだ。店がではなく雰囲気が。だから...」

「だから通っているの?」

俺も、なぜここに行き始めたか思い出せない。

だか...

そんなことを考えていると女将さんがつまみを持ち、入ってくる。そして空になったジョッキをかたし、つまみを並べた。由梨はそこでこんどはウイスキーを頼む。

女将さんが出て行ったあと、由梨は突然こう聞いてきた。

「ところで、まだ彼女を作ってないの?さっき女将さんに言われていたみたいだけど?」

「めんどくさい。」

「モテないだけでしょ。」

「うるさい。」

そう言って唐揚げを箸でとり、レモンを少しかけかじる。カリッとした食感。中から溢れでる旨味。あぁ、唐揚げ。そう感じさせるうまさ。

『唐揚げは、カリカリしていなければならない。』

これは世の中のルールであり、俺の信条である。

しなびた唐揚げは、唐揚げではないのだ。

カリカリこそが正義。

「本当に、美味しそうに食べるわね。」

なぜだか嬉しそうに彼女が言った。

「まぁ、うまいからな。」

「唐揚げでそんな顔をする人、初めて見たわ。」

そんなことを言い少し笑う。

「もっと飲みましょ。私たちが」

そういってジョッキを持った手をあげる。

「再会した記念にか?」

俺もジョッキを持った手をあげた。

チンという音。それは、比較的うるさいだが心地よいどこか懐かしい声のもとに消えていった。


夜風が吹く。

帰り道、大通りに向かう。そこはいつも帰る道ではなかった。だが今は無性に、そう、無性に一人になりたくなかったのだ。なぜ、そういう気分になったかはわからない。

すべての店は閉まっておりあれだけいた化け物達は、もうあまり残っていなかった。みんな自分のねぐらに帰っていったのだろう。町は静かさを取り戻している。

この町のにぎやかさは、また明日訪れるであろう。今は死んでいる町は明日また生き返る。

この町は異常だ。だが正常でもある。

異常も正常も紙一重だと俺は思う。俺は自分が正常だと思うが、ある誰かから見れば、異常なんだとおもう。

体温が奪われて少し寒い。

夜風が前よりも強くなる。

お前も帰れということだろう。化け物として。

俺は、夜風に言われるまでもなく化け物の一人として家に帰った。

ハイ。

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