表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

君の隣にいたいから

作者: ざくろ透

私は今ピンチである。

目の前には私のことを好きな人がいて、後ろ(陰に隠れているが)には私の好きな人がいる。

なぜ、彼はこの現場に出くわしてしまったのだろうか。

そして、なぜ私は目の前の男子に熱烈な告白をされているのだろうか…。




事の発端はお昼休みが終わる直前のこと。

手を洗おうと廊下に出たところ、タイミングを見計らっていたらしい彼、伊藤啓いとう ひろ君が現れた。いきなり話しかけられ、放課後用事があるので教室にいてほしいと言われたのだ。

本当はめんどくさかったが、この伊藤君は私の友人である佐山香里さやま かおりちゃんのいとこにあたるので、冷たくできなかった。

そして放課後、誰もいなくなってしまった教室で伊藤君を待っていたら一つの影が見えた。


その影は伊藤君ではなく、私の好きな人だった。

彼は私になぜ残っているのか尋ね、夜道は暗いから送っていくと提案してくれた。

正直すぐにでも帰りたかった。あの瞬間ほど他人を恨んだことはなかっただろう。

私は彼に謝罪し、用があることを伝えた。自分の不運を恨みながら彼を見送ろうとした。

それなのに彼と来たら、私の用が終わるまで部活に顔を出してくると言い、教室を後にした。

それから10分ほどして伊藤の野郎が現れ、冒頭に至る。







-----------



「ごめんね、町原さん…香里につかまってて…」

伊藤君は現れるないなや申し訳なさそうに私に謝ってくれた。

が私は、それどころではない、早く彼と帰りたい。と思い、話を進めた。

「ううん、かおりんだから…あ、それで用事とは?私にできること?」

思いつくのは伊藤君がバンドをしていて、私はほんの少しピアノをしていたからそれ関連だと勘違いしていた。何故なら、伊藤君はあまり学校の人にバンドしていること伝えておらず、知られたくないがために放課後人目につかないようにしているのだとばかり…。

「あ、えと…香里からいろいろ話聞いてて、それで…あ、えっとうん…」

かおりんとは際どいことまで話していたから、一瞬私の学校生活が終わったと感じた。

しかし、それすら間違っていたとは…。

「お、俺…その、町原さんのこと好きなんだ‼」

この言葉を聞いた時の私はひどい顔でフリーズしていたと思う。

伊藤君は全くの恋愛対象外だったのだから。

話したことはあっても好感を持てるとは言えなかったし、何より会話が続かなかった。

だからこそ伊藤君も同じだと思っていた。私なんかに興味ないだろうと。








――――――――――――


「町原さんは、いつも笑顔で可愛くて癒されていたんだ。何気ない会話も楽しいし、何より隣にいるだけで幸せになれるんだ。俺には君しか…町原さんしかいないよ‼」

(無理だ。こういうのは無理だ。好きな人なら大大大歓迎するけど、好きでもない興味も持てない人からのこれは無理の極みだ。だいたい、私は基本的に人に興味がないのにきついよ、これは。)

どうにか断ろうと考えを巡らせていた私はとりあえず話しかけることにした。

「あ~、伊藤君、私は…あの…」

  カタンッ

小さな物音が後ろの方から聞こえた。

伊藤君ごしの窓に幽かに映るそれは、私を待ってくれていた彼の姿。

彼は今私の後ろで動こうにも動けない状況にあることが分かった。

(ごごごご、ごめんなさい赤村くん…でも、どうしようもなくて…)

心の中でそう謝り、目の前の状況を打破しようと気合を入れる。


「ごめんなさい、私と伊藤君は合わないと思う。」

私が断ると伊藤君は一瞬固まった。

「誰かにそう言われたとか?もしそうなら、俺が文句言うよ?それならいいんだよね?」

これはもはや天からも地からも与えられた試練のように感じた。

伊藤君は私たちが合わない―釣り合っていない―と解釈したようだった。

(違う…そうじゃなくて、相性の話なんだけど‼‼‼‼‼)

「俺が守るよ…だから、ダメかな?」

伊藤君は真剣な表情で私を見つめてくるが、心に決めた人が…私の後ろにいる。



私は意を決して尋ねることにした。

「伊藤君、私たち会話が続いたことなかったよね…?」

(気づいて‼‼‼相性だって‼)

「?いや…あったと思うけど。基本的にずっと話していたと思うよ。」

全くそんな事ありえないというような顔で私を見つめる彼に、どう説明しようかまよっていた。

「えっと、町原さん?俺、本気だからね!」

友人の家族を傷つけるのは忍びないし、だからといって適当なのもよくないとわかっている。

嫌いではないけど、好きでもない人だから断りにくい。


「なんで、何も言ってくれないの…?」


そんな私に業を煮やした伊藤君は腕をつかみ、いきなり詰め寄ってきた。

「俺のことが嫌いなの?何が悪かったのか教えて?君の為ならいくらでも直すから‼それとも何?俺じゃ君に相応しくないとでも!?ねえ教えてよ‼どうなの?」

(え?うそ、怖いよ…でも、どうしたら…)

男の人に詰め寄られるのが初めてだったから、私は柄にもなく固まった。

固まったどころか、腕をつかまれている事が怖くなり震えてしまったのだ。


体感で5分くらいだったろうか。

私は彼に見つめられながらつかまれた腕の痛みに耐えていた。

痛かった。腕も…何か、も。

「あの、いとう…君。ごめんなさい…嫌いではなくって…」


精一杯だった。

謝ってこの場を何とかしたいとしか考えていなかった。

何でこんなに怖い思いしなければいけないのか、ということすらも考えられないくらい伊藤君が怖くなっていたのだ。



ガタンッ‼

そんなときだった。

「啓。その手、放せ。」

私に救世主が現れたのだ。

「香里…と、赤村…?」

伊藤君はかおりんが赤村君と教室に入ってきたことに気づいた。

なんで先に帰ったかおりんがいるのかは置いといて、この状況を変えてくれたのはとてつもなくありがたかった。

「伊藤君…茜が怖がってるの、そこからなら分かるよね」

「啓、あーちゃんやばいぐらい怖がってるから‼今すぐ‼‼‼」

2人に責められて伊藤君は手をはなしてくれた。

私はその場で呆然と立っているしかできなくなった。

かおりんは伊藤君に事情聴取するといい、彼を引きずって帰っていった。

取り残された私と赤村君は、5分くらいその場で黙っていたように感じた。


赤村君は私の顔を覗くようにしゃがみ、話しかけてくれた。

「茜ちゃん…そろそろ帰ろう。外も暗くなってきたし。」

私にはもう、うなずくことしかできなかった。






---------------


ふがいない。それが私の心を占領していた。

伊藤君はきっと傷ついただろう。曖昧な態度なんて、自分が取られたらきっと傷つくだろう。

それも分からなかったのか、と反省した。

「茜ちゃん…ごめんね、盗み聞きしちゃって。たぶん、僕に気づいちゃったから、伊藤君は…」

赤村君は申し訳なさそうに言ってくれた。

違うよ悪くない。あなたのせいじゃない、私が曖昧な態度だった。それすらも言葉にできない。



違う…怖くないのに…

赤村君は違うのに、

でも、もしかしたら。

もしかしたら怖いかもしれない。

私のこと嫌いになる。

嫌われる。

嫌われる?

嫌だな、嫌だよ、嫌…。


「ち、違うよ…私が悪い。」

私が伊藤君にひどいことをしてしまったことは明確だった。

精一杯気持ちを伝えてくれたのに、無碍にしてしまった。

最低な女だと赤村君にもかおりんにも、伊藤君にも思われただろう。

「誰も悪くないと思うけどな。」

赤村君は、私の顔にそっと手を近づけ上を向かせ、やさしい言葉をかけてくれた。

「伊藤君も、茜ちゃんも何にも悪くないよ。」

そうして彼は私の好きな笑顔で微笑んでくれた。

「本当に、ごめんね…。」

「わ、私こそ待たせてごめんね?あんなことになると思っていなくて。」

私は彼を、割と長い時間待たせてしまっていたのだ。


「え、それは大丈夫だよ。それよりも、早く止めに入れなかったことを謝りたくて…。」

赤村君が悪いわけじゃないことはだれが見ても明らかだった。

彼は言ってみれば、関係ない、のだから。

しかし、彼は私に謝ってくれた。

「それは赤村君のせいじゃないよ!かおりんがいたのがとても気になるところだけど…本来なら、自分で何とかしなきゃいけなかったんだし…。」

「それなんだけど…僕が呼んだんだよね。」


予想外だった。

かおりんと知り合いだった。

何故先に帰ったのにいたのか、なんて考えは吹っ飛んでいった。

(かおりんめ…変なこと吹き込んでないよね。)

変な祈りを奉げつつ事の真相を聞こうと、彼に尋ねた。

「かお…佐山ちゃんを呼んだというのは…どうしてなの?」

「ん~…伊藤君が詰め寄ったとき僕が入ったら、火に油を注ぐだけだってわかってたからかな。そうなると茜ちゃんが危ないし。佐山さんは彼のいとこでしょ?だから、何とかしてくれるかなって思って、丁度部室にいたから急いで呼びに行ったんだよ。」

そうだったのか。赤村君はそんなことまで考えていたのか、と感心した。

「ありがとう赤村君。」

「…どういたしまして。今度がないように気を付けてね…?」

怒っているようなそぶりで私に忠告するその姿は、どこか子供っぽくて私には可愛らしく見えた。


(あぁ、私はやっぱり赤村君が好きなんだ。)

私は、自分の気持ちを再確認することが出来た。

しかし、私には彼に気持ちを伝えることなどできなかった。

「分かったよ、ありがとね赤村君。」

感謝を伝えることでむねがいっぱいになってしまうからだ。

「…。」

ちらりと横を見ると赤村君が何か考えているようだった。

「うーん…。ねぇ、赤村君じゃなくって…名前で呼んで?」


無理。

それは、無理だと思った。

名前で呼ぶなんてなんて恐れ多い。

私にとっての王子様をいきなり呼び捨てとは、ハードルが高すぎて潜れるくらいだ。

「そそそ、それ、あの…」

「え~…どうしても、ダメ?」

つくづく卑怯な人だと思った。

そんなに可愛らしい顔をされると、お願いを聞いてあげたくなってしまう。


「こ、光…くん。でいいでしょうか。」

私はどんな顔をしていたのだろうか。

恥ずかしすぎて赤村君の顔が見れなかった。

「ん、不合格。呼び捨てしてみなきゃ。」

「え!?ひどいよ!名前としか言わなかった…あ。」

「やっと自ら顔をあげたね。心配してたんだよ…怖がられてるんじゃないかって。」

怖がってなんて…いないと言いたかったけど、少し怖がっていたのかもしれない。

だけど、彼は、光君は怖くなんてなかった。

彼の笑顔と言葉でそれが分かった。

「怖く、ないよ。光君だもん…」

「そっか…それはよかった。だって、僕…」


瞬間、狙っていたかのように隣を車が通った。

それは2人の時間を止めるための、悪戯のようだった。

「ま、待って。今の聞こえなかった‼」

「うーん…また今度2人でいるとき、教えるね?」


彼はやっぱりずるい。

だって2人きりになることなんて、意図的でないとあり得ないから…。

つまり、私から持ち掛けるしかないんだ。

「約束だからね。」

「分かってるって…約束。ゆびきりしとく?」

恨めしそうな私の顔に、彼は楽しそうな、悪戯な笑顔を向けてくれた。











本当はばっちり聞こえていたなんて

もう一度聞けなくなるから、言わないけどね。




本編で出していませんでした…;


町原まちはら あかね

赤村あかむら こう

です。うぇへへ…


ちなみに、伊藤君はヤンデレではなく茜ちゃん大好きなだけです…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ