歌と共に
一度[エッセイ村]に寄稿したのと同じ内容です。
[短編集]よりも、エッセイ要素が[雑記]に偏っていたので、こちらにしました。
歌は好きだ
ただ、聴くだけでも
そこに意識を集中すれば
一時的に虚しさやつまらなさを
紛らわせるから
だが、歌うことはもっと好きだ
歌うことで
虚しさやつまらなさを
一欠片も感じることは
無いから
迷惑にならないよう
配慮して
公共機関では
出来るだけ小声に歌う
変人と称されても構わない
すでに変人の域にいるのだから
風邪は嫌いだ
喉から症状が来れば
治るまで歌うことは
できないから
そんな状態で
歌を聴くだけでは
虚しさやつまらなさに
隙を与えてしまう
そして、その隙を狙って
[死]は衝動を駆り立てるのだ
幾度も幾度も
私の意識を
絡め取るように
黒き水に浸そうとするように
だからこそ私は
[死]の衝動を
抑圧するために
歌を歌うのだ
虚しさとつまらなさから生じる
[死]へ向かう思考から
数多ある歌手たちの
旋律によって逸れるために
私にとって歌とは
不意に押し寄せる自殺衝動から
逃れるための
一種の手段であり
ただそれだけのことに過ぎないのだ
ゆえに私は歌い続ける
私の傍らにある
自殺衝動から
いつの日か解放される時まで――
《終》
これからの時期は風邪に気をつけてください。
喉をやられると歌えませんから。