次回作予定『Network"er!"』
今日一日で取り敢えず書き上げました。
うだうだ書き直しはしません……詳しく決まってないからね!
別離の花はラストバトル前まで書きあがっております! もうちょい待ってくだされ!
古ぼけた一枚のフロッピーディスク。
それが全ての始まりであった、と今も尚、俺は記憶している。
感覚が消えゆこうとしている中、こぼれ落ちる砂をかき集めるようにして、散り散りになった記憶を一つ一つ拾い集めている。
(…………)
世界の外側に、俺はいた。
光もなく闇もない。朝もなければ夜もない。距離もなければ音もない。法則もなければ規則など毛頭なく。概念という曖昧な存在すら、この世界には通用しない。存在することを許されない。そんな場所に俺はいた。
このような結果になったのも、この道のりを歩んできたのも、全て俺の意志である。
よって俺の中に後悔はなく。哀惜も、寂寥も悲嘆も慟哭も、俺の中にはない。
……ただ、この曖昧さすらない世界で忘れ去っただけかもしれないが。
『良かったの』
意識に直接語りかける何かがあった。音がないこの世界で聞こえるのだから、それは声ではない、音ですらない何かである。そう言い表すしかなかった。
ただ、懐かしい感じだった。今までずっと寄り添って来た友人のような雰囲気があった。
『何がだ』
『私に付いてきたこと 別に来なくて良かったのに』
『何回言わせるつもりだ 俺は お前の為に来たんじゃない 親父の為に 来たんだから』
『それは何回も聞いた だから ――抜きで あなただけの言葉で』
誰かの名前が呼ばれた気がした。でも今の俺には、何も思い出せない。
ただ、とっても大事だったような。そんな気がする。
『俺だけの 言葉 か 』
『ほら 答えられないじゃない』
『違う ただ これが正しいかって思って 来たから 理由なんて考えたことなかった』
『 ぷっ 何よそれぇ』
『うっせ 面倒は嫌いなんだ 考えるのは面倒だからよ』
『それだけで自分の命を捨てられるって おめでたいものね』
『だろ? おめでたいなら 辛み悔やみよりよっぽどいいじゃねえか』
『 そうね 楽しいのが一番ね』
『そうだ だからうだうだ言ってんじゃねえ 俺は面倒が嫌いだ でも お前とこうしているのは面倒じゃない だからここにいる おーけい?』
『 』
しばらくアイツからの返答はなかった。
『んだよ あんだけ一緒にいたんだ 今更恥ずかしがることか? つかあれか 今の今まで意識してたのか ばーかばーか』
『うっさい死ね』
『うわあド直球』
俺はにやけるようにして笑った。
確かに、そんなときもあった。そういう風に意識したこともあった。
だが、この世界で俺たちが出会うことはもうない。
何故なら、もう俺たちはどこにもいないんだから。消えてしまったから。
この思考も、おそらく向こうには伝わっていることだろう。
『 そうね』
『だろ? なら 変に意識せずによ こうしてだらだらやってよーや』
『 そうね だって』
『おう』
『あなたは私で』
『俺はお前なんだから』
声が途切れた。アイツも眠いんだろう。俺も眠るようにして意識の底へと潜っていく。
願わくば、この意識が途切れる前に、全ての記憶を巡りたい。
俺とあいつが出会った日から続いてきた、奇妙で奇怪な日々を見つめたい。
走馬灯と言うのかは知らないけれど、意識の底に潜る内に、ぽつり、ぽつり。昇る気泡が弾けるように、俺の記憶が輝きを見せ始めた。
それは断続的に、しかし連鎖するように広がっていって、最後は花火のように爆発的な光を放った。弾けた光のそれぞれが合流し、昇っていく気配がある。また、ある光はそのままはじけて粒子になって、散り散りになって消えてしまう。その度に封じられていた記憶が俺に向かって光を伸ばし、世界の壁すら挟んだ向こう側の光景を俺に見せる。
時間と空間の概念が消えたここでは、それがまるで今目の前で起こる現実のように見えた。過ぎた日々とこれから来るべきだった日々が混ざり合い、光にそれぞれの色を付ける。
俺にとって、見ていて辛かったのは後者であった。
俺はこうして世界の外にいる。俺がもう、この光景を見ることは出来ないだろうと思うと、もう弱って壊れそうな何かがピクリと動いたような気がした。
そして消えていっているのは、全てその過ごすべき日々の光景であることに気がつく。
観測する者がおらず、確定することのなかった未来が消えて行っているのだ。
こうして時間を越えたところで、俺はやはり向こう側を見ることは出来ないのである。
そう思うと、俺の中にないと思っていたこうかいや、せきりょうや、あいせきやひたんやどうこくや――――
あれれ。
こうかいってなんだっけ。あいせきとは、せきりょうとは何ぞや? 食い物か?
まあいいや。どうせ忘れてしまったものなのだ。それなら無理に思い出さなくたっていい。っていうか、せきりょうやらあいせきって、昔の俺は難しい言葉を知ってたんだな。
さあさ、長く悩むのももうおしまいだ。
今までの物語が正しかったか否か、今の俺が昔の俺を答え合わせしてやろう。
この輝きに見合うだけの価値が、意味が、俺の歩む道に合ったかを見定めてやろう。
一本の映画を見るような気持ちでワクワクしながら、俺は記憶の光に身をうずめた。
◆
ある日、俺は一枚の古ぼけたフロッピーディスクを見つけた。
「お母さん、これなにー!?」
「え、そりゃ……フロッピーディスクじゃないのかい?」
そんなことを話していたのは、日が少し下り始めた昼下がり。オレンジに色を変え始めた斜光が、少しずつ顔を焼き始める頃である。
俺とお母さんは夏休みということもあり、一日掛けての大掃除中。男手の少ない我が家では、小さな一戸建てを掃除するにも時間がかかってしまうのだ。
男手が少ないというのも、父親はこの場にいない。単身赴任とかでなく、過去に行方不明事件の被害者となっていた。この場、というよりこの世でも間違いないかもしれない。
その過去に類を見ない証拠の少なさから、時効まで捜査は続いたもののほとんど打ち切り状態。初めこそ母親も泣いていたらしいが、時効の頃にはもう諦めもついていたとか。
俺も俺で、今となっては父親の顔をほとんど覚えていない。
ただ、とてもかっこいい、自慢の父親だったことは覚えていた。帰ってくるのを待ちながら、大人になったら、その父さんがどこかにいるという証拠だけでも探しに行きたい、とは思っていた。
俺、伊坂勇輝はそんな小学五年生であった。
「……んー。俺―、フロッピーディスクなんて初めて見た」
「だろうね。アンタが生まれる頃でもう、CDに変わりつつあったからねえ」
俺とお母さんで埃をかぶった一枚のフロッピーディスク、それの入った箱を指差して言う。
今やCDどころか電子媒体すらメジャーになりつつあるこの世界で、フロッピーディスクは化石になりつつある存在だと思っていた。
書き込むことができる部分には何も書いておらず白紙。黄緑の本体部分の色は薄れ、また汚れて変に滲み、見るからに劣化している様子だった。端子の部分も埃まみれに見える。
あれでは、まるで使い物にならないんじゃないか。そういう方面にはまるで明るくない俺だけど、それくらいは見た目で分かる気がした。
「でも、これじゃあ只のゴミだねえ。古すぎて、データが残ってるか……」
「うーん……、でも、なんか不思議なんだよね。白いちっちゃな箱に一個だけ入っててさ。それで適当に置かれてて。逆に今の今まであったのが不思議なくらい」
「それもそうなんだよねぇ。もう捨てちまうかい?」
肩をすくめてお母さんはそう言うが、俺の考えは違っていた。
「…………でも、こういうのってさ。なんだかワクワクしない!?」
「ワクワク?」
「うん! なんかさ、こういう何でもないようなものほどすっごい秘密が隠されてたりしてさ! それこそ、お父さんに繋がる手がかりがあったりして!」
目の前のお母さんは小馬鹿にするように肩をすくめて、苦笑いを浮かべる。
「はぁ? バカだねえ。そんなものあるわけないじゃないのさ。警察の方々に調べてもらったってのに」
「でもでも、それだと警察の人が見落としている可能性もあるよ! こんな風にしまわれててさ! それにこんなものあるって教えてもらってないじゃん! 警察の人達、捜査したものは全部俺たちに見せてくれてたよ!」
「……それは、そうだけど」
その言葉を聞いて、俺は思わずガッツポーズを取った。
「やった! お母さんが認めてくれた!」
「認めたって訳じゃないよ? ただ、確かに変な話だって……」
「でしょでしょ変な話でしょ! やった、この中にお父さんに繋がる何かがあるかも!」
お母さんにはまるで口喧嘩で勝ったことがなくて、俺はお母さんを黙らせたことが、ただ単純に嬉しかった。ばんざーい、俺は跳ねながら諸手を上げる。
「……まったくもう。あんまりはしゃぐんじゃないよ」
「はいはーい」
その母親からの注意に適当な返事を返してそのまま、何も思うことなく、箱の中のフロッピーディスクを拾い上げた。
その瞬間であった。
(あ……れ――――?)
最初はめまいかと思った。夏の昼下がり、ずっと動き続けていたのだからそれくらい起こるかとは思ったが、しかしそれが長く続くにつれて、俺の体を違和感が侵食し始める。
体が二つに分かれるような感じだった。裂けるような痛みを伴う訳ではなく、近いのはきっと幽体離脱、という奴なのだろうか。俺は経験したことがないから分からないが。
ただどこかに向かって、暖かいどこかに向かって吸い寄せられているような感じがして、また並行して意識が分離しようとしていた。しかし未だに感覚は体に残っていて、それはひどい寒さを訴えていた。そのギャップで俺は吐き気を覚える。
俺は堪えようとして、息を吸い込もうとしたが、喉が動かないことに気がつく。空気を求めてひたすら喘ぐが、ただ無駄に体の中に残る僅かな空気を吐き出すのみ。
苦しさのあまり嫌な汗が大量に出てきた。うめき声が勝手に漏れてきた。胃液が逆流しないようにするので必死だった。線が切れるように力が抜けて、俺はストンと膝を落とす。そのまま、地面が近づいてきて……
ガツン! とフローリングの床に頭をぶつけた衝撃が最後にあって、俺の意識は断絶する。
取り敢えずここまでです。
『』の中にある妙な空白は意図的なものです。声や言葉でないので、句読点は合わないかなあと思ってのことでした
『意世界』の単語も出てきていない、まだどうなるか分からない感じですが、冒頭はこのまま変えない気がします。
デバッグをするお話(大嘘)となってしまったことについては、その、すいません(ーー;)
どんな話になるんかいな、と想像を膨らませていただければ幸いにございます。