8.食事の不始末許しません
「この辺りで最近、行方不明事件がよく起こってるの」
ややあって、ミケは唐突に再び喋り出した。
「もちろん人間の警察がよく調べてるけどね、中にはどうしたってそれじゃ解決しないものが紛れてる」
「……喰われた、ってことか」
「うむ、察しがよろしい。はなまる上げちゃおう」
食事中に食い殺された人間のことなど考えたくはなかったが、ここまできたら考えざるを得ない。
隼斗はカラに近づいていく丼を前に、腹をくくった。
「例の『人喰い化生』に喰われたのは、今のとこ調べがついた限りでは最低でも四人」
「どうやって分かったんだ?」
「人界の事件に興味を持って独自に調査してる、好奇心いっぱいの化生達がいるんだよ。発覚したのは彼らの報告のおかげでね。あたしもそういう不自然な人死にの現場をいくつか当たったら、あたしの『食の異能』にビンビンと反応したってわけ。どうもこれがクサくてねー」
隼斗は、妖怪少年の髪の毛がアンテナのようにピンと立つ様を想像した。
「妖力というか、悪い気というか……そういうのを感じるんだ?」
「そうそう。『食の異能』で悪食を働いたって、しかもそれが人喰いときたら、あたしのセンサーが尚さら反応しちゃうんだ。えへへ」
そうドヤ顔でミケは言いきった。自分の専門分野で力が発揮できることにイキイキとする、その気持がよく伝わってくる。
「四ヶ所の内、二つはもう調査済み。そのうち一ヶ所は何と、キミの学校のそばだったりするんだなー」
「マジで!?」
なんだそりゃ、と思わずチャーシューを頬張ったまま喋ってしまう隼斗。ミケは後頭口から二本の舌を出して、空中で大きくバツ印を作った。
「お行儀悪い子はオバケに食べられちゃうっておばあちゃんに習ったでしょ」
「……習った気がします。すいません」
「うむ、よろしい」
そう言うミケの丼はすでにスープまで飲み干され、空っぽになっていた。丼の底には『ありがとうございました』と、美味しく完食した者にしか分からない無上の謝辞が描かれている。
まさかいつも通っている学校の近くでそんな凄惨な事件が起きているなど、隼斗は想像だにしていなかった。現場を見るまで、信じきることは出来ないだろう。
「そんなわけで、ごちそうさましたら早速調査に向かおっか」
「おっけ。あぁ悪い悪い、すぐに丼片すから」
「あ、急いで食べなくてだいじょぶだよ。……店員さーん、ギョーザ二人前追加お願いしまーす!」
「……」
「どんどん食べてねー。ここギョーザも美味しいから」
ニコニコ笑顔のミケ。隼斗はもう呆れて突っ込む気力も無かった。ラーメン一杯で腹は十分満ち足りている。まぁギョーザまで食えないと言っても、おそらくこの二人前をスイーツ感覚でペロッと平らげてしまうのだろう。
「うぅ……」
また盛り上がってきた胸焼けを押さえ込みながら、隼斗は早めに麺をすするのだった。
まさか捜査の基本だとか言いつつ、この後アンパンでも買うんじゃないかか、なんて思いつつ。




